改竄

今夜フジテレビの特番「カスペ!」では、江原啓之の特番をやっていた。
正直江原啓之は好きではないのだが、今回の番組の内容は特に酷かった。
 
普段の江原啓之の番組は、「オーラの泉」のようにゲストの有名人の守護霊やら前世やらをユルく占い(霊視って言うのか)、その後にベタな高説を垂れるというのが多い。正直守護霊やら前世のステータスやらは、その有名人から安く連想したようなお粗末なもので、まじめに聞くようなものではない。サッカー日本代表の中村俊介の守護霊は、ヤタガラスだそうだ。日本サッカー連盟のトレードマークの3本足の鳥はヤタガラスなので、そこから連想したのだろう。前世が虫、という人がいないのはどうしてなのか、それは知らない(「燃えるお兄さん」主役、国宝憲一の前世は浮浪者で、親父憲吉の前世は巨大ゴキブリだった。そういう人がいてもいいはずなのに)。
 
で、今回の江原はというと、実際の交通事故で亡くなった4人の幼稚園児らの霊界からの声を遺族に聞かせるという内容なのだ。
これまでの前世やら守護霊なんぞ、こんなものはフィクション性が非常に高く(実際、江原はどんな立場の人間だったかはいうものの、その人が誰か特定させるような名前などを言わない)、受け流しておけばいいだけの話だ。
しかし今度の番組では実際にあった事故の、実存する死者の「言葉」とやらを伝えるというのだ。
わしはキリスト教の家系の人間だが、あまり宗教に興味はない(信仰とかではない、好奇心という不純な意味でなら、ある)。だが、死者を冒涜するような行為は好かない、それは信仰の問題ではなく人としての態度の問題だからだ。
ああいった霊の代弁というものは、わしは死者を冒涜する行為だと思っている。なぜなら、そこで江原やら霊能者が演じる虚偽の人格によって、死者は過去にさかのぼってその人格や存在を改竄されてしまうからだ
 
こういうと話は分かりにくく感じるかもしれないので、ごく単純に極端な例を出してみよう。
たとえばだ。江原が――江原じゃなくても他の霊能力者が――、アドルフ・ヒトラーの霊を呼び出したとするだろう。その霊の語る内容が、現在に生きる私達に道徳や命を守ることの大切さや、人類から差別をなくすためについて語りだしたらどうだろうか?
間違いなく非難される。その内容は普通に考えて嘘だからだ。ヒトラーの過去に行ったユダヤ人に対する迫害や虐殺(その被害者は600万ともいわれる)を考えれば、ヒトラーが人類愛や平等について語るような人間ではないことは容易に推察できるからだ。しかし霊視した霊能力者本人は、これが本当の言葉だと主張するだろう。
過去を改竄するといったのは、極端な話しこういうことなのだ。ヒトラーはその過去に犯した行為があまりに有名であるために、霊能力者が装った人格の虚偽性は指摘され、再び修正されることになるだろう。
しかし、ことは4,5歳で生涯を閉じることになった子供達である。歴史の教科書に残るような行為をした人物ではない(当たり前だけど)。こういう人物が霊視に当てられると、霊能力者が装った虚構の人格が勝ってしまうのだ。「こういう子だった」という記憶が書き直されてしまうのである
4,5歳の子供が極悪人ではあるとはいわない、しかし善人ともいえないだろう。これからの生涯の中で価値観や人格を形成、感得し、その生き方によって周囲の人間からどんな人間であったかの評価を受けるはるか前の段階なのだ。
親の言うことを聞かずにぐずったり、時には悪さをしてしかられたり、そういうのが当然の段階だ。大人から見れば愚かしい行為も、はっとさせられる様な聡い行いも、それら全てを含めてかわいいと思える子供らが、霊能力者たちの手によって自分たちの死を嘆き悲しみ沈んでいる遺族達を説き伏せ慰めるような聖人に仕立て上げられてしまう
悪く言って死者を貶めるのではないからいい、という人もいるかもしれないが、わしはそうは思わない。
聖人のごとく持ち上げられ、あがめられているのは、かつて生きていた頃の子供達ではない、別の何かである。そして遺族の記憶はその聖人の人間像に合わせて変質し、そぐわない部分の記憶は削除されていくだろう。人間の記憶はそれほど不確かなものなのだ。
いずれ放っておいても薄れていってしまうかもしれない故人に対する記憶が、霊視というショーによって別の、聖人として書き換えられてしまう。書きかえられた以上、かつての、本来の記憶の中の子供達は忘れ去られてしまうだろう。そのとき死者は、本当の意味で死んでしまう。
救いを求める気持ちを責められる立場にはない。しかし、生者に許されるのは死者を悼み想う事であって、死者を偽ることではないと、わしは思う。
 
おまけ――
この不愉快な番組、食事の際にお袋が点けて見ていた。あまりに不愉快だったので、とっとと飯を食って、録画しておいた「GHOST IN THE SHELL -攻殻機動隊-」を見た。まだ全部が理解できたわけではないが、いい作品でした。江原啓之の番組よりもずっと有意義だったと思う。
 
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