牛乳

実にお久しぶりの更新となっていて申し訳ない(もしこの世に一人でもこのブログの更新を気にかけている方がいたら、の話であるが)。
以前にも書いたのだが、関心の向く方向が「トンデモ」にどうも偏ってしまっている感じがあるので、そればっかり書くのもなあ、と思っていたらこのざまである。
今回は遠慮なく、「トンデモ」なことについてお話させていただく。
いや、正確にはトンデモ、というより、奇妙な説である。
 

 
「牛乳は有毒である。」という奇説がある。
 
この話、単に誰かが口にしていた、というレベルなら聞いたことのある人の数は結構なものなのではないだろうか?
わしも何かの折に聞いたことがある。
だが、この説がそれなりに広がっているものだとは知らなかった。この説がそれなりの普及率を保っているのかも、と思い至ったのは、「自然食バンバンザイ、9.11陰謀論支持、それで平和運動もやってます」というオンパレードなお方、きくちゆみ氏がブログで紹介していたものがきっかけである(もちろん彼女が言うことは全て問題あり、ということではないだろう。だが、部分的には正しい情報もあるものの、全体的にはかなり怪しい)。
 
で、きくち氏が紹介している健康について言及した本(どうも漫画らしい)に「牛乳はモー毒?」というものがある。
タイトルのセンスがかなりアレなわけだが、まあそれはいい。啓蒙目的の本だし。
今回、まことに申し訳ないが、この本自体を読んでいるわけではないことを前もってお断りさせていただく。WEBコミックのためし読みだけしたが、これは漫画の本論が始まる前に終わってしまうので、参考にはならない。この状態でこの本(および説)を批評することがフェアではない、と感じた方は読むのをやめた方がよいでしょう。
 
今回取り上げるのは、この本について取り上げたブログを参考(本のタイトルで検索すると、紹介しているブログが結構あるのだ)に、紹介されている「牛乳はモー毒?」及び一般的な「牛乳猛毒説」の主要な主張である。あと、この本を監修した人についての感想を書く。

主張1:牛乳は白内障の原因である。

正確には、乳製品に含まれるガラクトースという成分(糖の一種らしい)が水晶体に沈殿するのが白内障の原因である、という主張だ。
だが、「白内障」についての解説を読むとわかるが、白内障は「老人性」「併発性」「糖尿病性」「皮膚病性」「薬によるもの」「外傷性」と、さまざまな原因によって引き起こされており、それを牛乳のせいだ、とするのは乱暴である。ガラクトースが糖の一種であることから、糖尿病性のものと結びつけて考えられている可能性があるが、糖尿病の原因は牛乳ではない。それにガラクトースはヒトの体内でも合成されている(wikipediaより)。

主張2:牛乳は骨粗しょう症の発生率を高める。

これは一般的な認識とは真っ向から対立する意見である。カルシウム不足が骨粗しょう症の原因のひとつなのに、カルシウム源として信頼されてやまない牛乳が骨粗しょう症の原因である、というのはどのような根拠によるものなのか。
世界で一番牛乳を飲むノルウェーでは 骨粗鬆症の発生率が日本の5倍だそうです。」がその主たる主張のようである。
これはどう考えてもデータの読み方がなっていない。「ノルウェーでは世界一番牛乳を飲む」という事実と「ノルウェーでは骨粗しょう症の発生率が日本の5倍」という事実をさも因果関係があるかのように見せかけただけの話である。この二つの事実に因果関係があると言う根拠はない。
友人からの指摘だが、「ノルウェーならば日照時間の短さのせいでビタミンD不足になり、その結果骨粗しょう症になってるんじゃないか」ということの方が妥当な意見と考えられる。
ビタミンD不足はカルシウムの吸収を悪くし、その結果「世界で一番牛乳を飲む」にもかかわらず、「骨粗しょう症の発生率が日本の5倍」になってしまうのではないかと考えられる。少なくともメカニズムについてまで筋が通ってる分、単なる二つの事実のこじつけからなるいい加減な主張よりはまともだろう。

主張3:戦後、牛乳飲用が始まってから生活習慣病が増えている。

これもさっきのノルウェー話と大差ない。戦後、日本の生活習慣や食生活というものは劇的に変わった。戦後、乳製品の導入だけが唯一の変化というならまだいいが、これは無茶である。食生活に肉も増えたし、不規則な生活をする人も増えた(かくいうわしだってなあ・・・)。インフラが整備されて、人の運動量もぐんと減っただろう。そういったことの総合的な変化によって、こういった名前どおりの「生活習慣病」というものが増えたのだろう。乳製品ひとつで全部変わった、というのはどう考えても強引なこじ付けだ。

主張4:牛乳と犯罪や異常行動の間には因果関係がある。

この説の補強材料にはアレキサンダー・シャウスという人の実験が取り上げられているようだ。1977年に犯罪者の再犯率と食生活に関係があると結論付けた論文のようである(追試はされてるのかな?)。
他に因果関係は考えられないのか?、サンプルは恣意的ではなかったのか?詳しく知らないので無根拠だということもできないが、犯罪の因果関係を食生活だけに絞り、抽出できているのかは疑問である。

主張5:人間のタンパク質とは組成が違う他の動物のタンパク質の摂取は危険

じゃあ人肉を食うのがよいということなのだろうか・・・?魚や大豆がタンパク源としてよくて牛乳はダメ、というのにこの主張は説得力がない。

主張6:単位量あたりのカルシウム含有量は、煮干とかのほうが多い

これは本当。ただ、牛乳の方が吸収率がよいようだ。それと、煮干を大量に食べるのはしんどい。あごが強くなっていいかもしれないけど。
以上である。
本にはもっとたくさんの主張が述べられていると思われるが、Web上で見られたのはこのような主張が主である。
専門知識がなくたって、この牛乳有毒説が怪しいことは解ると思う。
この「牛乳はモー毒?」を監修した真弓定夫氏は医師であるので(どうも薬を使わない医療といったものを唱えている人らしい)、この話をすぐ本当だと思ってしまう人がいるようだが、肩書きの如何に関わらず間違った事、不確かな事をいう人はいる。それは胡散くさい人が道徳的なことを言うのと同様にある話なのだ。
 
この先生の監修するほかの本に、「ごはんはえらい!」、「肉はあぶない?」、「白砂糖は魔薬!?」などといった本があるらしい。
アメリカの戦後の批判によって日本のパン食が習慣付けられた(「ごはんはえらい!」の紹介文)だの、牛乳の導入はアメリカの乳業会社を儲けさせるためになされた(「牛乳はモー毒?」)だのといった文章がうかがわせることには、この人にあるのは一種のナショナリズムなんじゃないかな、ということ。政治的な思想(反米意識?)を食生活に反映させているとしか思えない
 
もちろんこれらを読んで真に受ける世のお母さん方は、自分の子供の健康を願ってのことだろう(反米意識とかじゃなくて)。普段の食生活を見直す、という行為と本のショッキングなタイトルがこれらの言説が人をひきつける要因じゃないかと思う。
しかし、「変える」ということにばかり気をとらわれるあまり、変えなくていいことまでかえる、変えてしまってはいけない方向に変える、というのはそれが一番子供のためにはならないんだろうねえ。
砂糖も肉も乳製品も、過ぎたるは及ばざるが如し、昔の人はいい言葉を残すものだなあ。
 
おまけ――
日本酪農乳業協会の運営する「牛乳百科事典」というサイトに行くと、いわゆる「牛乳有毒説」に関するFAQがあるので参考になる。
もちろん「牛乳はモー毒?」の説全てに関する答えが書かれているわけではないけど。
日本酪農乳業協会なんてところが、自分たちの不利になる情報を出すはずがない」という反論をする方もいると思うが、そうなってくると一種の陰謀論である。
牛乳有毒説を出してる人たちは、牛乳が危険であるという情報ばかりを出している、それも今回紹介したような薄弱な論理で。
主張4であげたような実験が一種の箔にはなるのだが、なかには「○○は悪いものである」という信念の下、「○○が悪い」という結論を出したくって恣意的な実験をする人がいることもあるのだ。
どちらを信頼するかは読み手に任されるが、「牛乳はいい/悪い」の信念ではなく、「どちらが説得力のある、信頼のおける根拠を述べているか」で判断するべきだろう。
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