前回の記事では熊本人工地震説において、地震そのものについて書かせていただいた。
今回は人工地震そのものではなく、その添え物としてリチャード・コシミズ氏が流布している情報について書こうと思う。
これから書くネタについては、熊本の地震が人工的に引き起こされたという部分が証明されていない以上、いくら仮説を立てようと意味がない領域であることは前もって書いておく。
◆人工地震の目的
地震が自然なものではなく人工的なものだとしたらその目的は何か。
陰謀論者は当然これを語らなくてはならない。
リチャード氏もここについていくつかの考えを述べている。
- パナマ文書から注目をそらす
- 消費増税先送りを地震のせいにして、アベノミクスの失敗という攻撃を回避するため
- TPPの国会審議を先延ばしにし、選挙をやりすごす
- 田母神氏の話題を隠す
- 円高対策
- 中国産業にダメージを与えるため
- 日本経済を低迷させるため (『地震のおかげで安倍政権が追及されたくない重要案件が全てペンディング、立ち消えに。』、『「円高対策の地震」 』、『熊本地震で、中国の電子産業が止まる。』、『日本経済を低迷させるには、「忘れたころにまた地震」が必要です。』)
まあ田母神氏は置いておいて、他の説についてはどのくらいもっともらしいだろうかと言えば、どれもいまいちである。
・パナマ文書説
パナマ文書は世界的な規模の問題で、分析はICIJを中心に国際的に行われており、5月に発表される予定である。
4月中旬に日本を混乱させ、日本の報道が一時的に地震一色になってしまっても、パナマ文書の情報が公開される頃には地震以外の事件を報じる余地はできているだろう。
・消費増税先送りの言い訳説
RK理論では、日本経済を失速・後退させるのが安倍政権の真の目的とされている。
そしてリチャード氏自身は消費増税をすると日本の景気は後退するという考えなので、安倍政権は「アベノミクスは成功している」として消費増税を強行すればその目的を果たせるはずである、なぜ目的と真逆の方向の政策をとるために人工地震を起こさなくてはならないのか、筋が通っていない。
人工地震で混乱を呼んだうえに復興財源確保のために消費増税を先送りせず実行する、という陰謀の方がもっともらしいだろう。
・TPP審議先延ばし説
この説は事実によって完全否定されてしまった。
TPP特別委員会の審議が19日には再開され、野党は反発している。
・円高対策説
リチャード氏の脳内では、「地震が起きると日本の産業に対する不安から円売りが進み円安になる」というシナリオが固着しているようだが、実際にそうなるとは限らない。
東日本大震災においては「日本の保険会社が保険金支払いのために円を買い集める」と予測した投資家たちが円買いに走り、むしろ円高になってしまっている(リチャード氏は地震がなければもっと円高になっていたが、地震で失速したと解釈している)。
日本の一地域で災害が起こったとしても、それだけで円そのものの信用が落ちて円安になるというわけではないのだ。
・中国電子産業ダメージ説
半導体産業の盛んな九州は、別名シリコンアイランドとも呼ばれているというのは、中学くらいに習うことである。
この九州で起きた震災によって、中国の電子産業がダメージを受けることは想像に難くない。
しかしアメリカもまたiPhoneの部品の生産が停滞するなどのダメージを受けている。
中国にダメージを与えることが目的で行った陰謀が、自国にもダメージを与えるのでは意味がないだろう。
・日本経済低迷説
日本経済をどん底に叩き落とすなら、首都を狙うのが最もわかりやすい。
なぜ低迷させるのに九州の熊本なのかが謎である。
地震によってインフラがダメージを受けたせいでトヨタの自動車製造が一時ストップしたことはあったが、同様にGMも影響を受けてしまっており、前述の中国電子産業ダメージ説と同じ欠陥が指摘される。
◆さらなる陰謀、放射能パニック
地震の発生にとどまらず、さらなる陰謀が控えている可能性をリチャード氏は示唆している、それが川内原発である。
『川内原発で、福一の偽装放射能汚染パニックを繰り返しますか?』、『川内原発を停止しない本当の理由?』の記事では、地震発生後も川内原発が稼働し続けているのは、のちに川内原発付近で地震を発生させ、放射能漏れを偽装し、パニックを起こすためだという。
しかし、現時点で止めていないのは川内原発では稼働を停止しなくてはならないほどの揺れが起きていないからであるし、そもそも放射能汚染関連の騒動を起こしてパニックを引き起こしたいなら最初から川内原発付近で地震を起こせばよい。
「熊本で地震が起きたときに稼働を停止しなかったら、今度は川内原発付近で地震が起きてしまった」というシナリオにする必要性がどこにあるだろうか?
それどころか、リチャード氏たちだけが放射能パニックに煽ってさえいる。
『熊本地震被災地の「高放射線量」にご注目ください!緊急事態です。』の記事では、被災して壊れた商店街や崩落した熊本城付近で放射線量を測定したら最高3.31μSvほどの数値が出たうえ、測定した二人の人間は頭痛を感じ、下痢が続いているとのこと。
このことをもってリチャード氏は「高放射線量」と表現し、集団被曝、集団発症の恐れがあると主張している。
いつから3.31μSvはそんな危険な被ばく線量になったのだろうか?
とてもではないが、下痢などの急性症状を起こすほどの線量ではない。
世界中を見てみれば高い放射線量が観測されている地域(ブラジルのガラパリは年間5.5mSv)はあり、そこに人間も住んでいるが、健康上の影響は認められていない。
リチャード氏もそのあたりの怪しさはわかっていそうで、「自分たちの所有する測定器で計測できない中性子線」による症状とごまかしているようだが、それは実際に中性子線量を測定してから主張するべきだろう。
そもそも、地下10Kmの深さで使用された核兵器から中性子線が放射されたとして、それだけの厚さの土壌や岩盤を透過して地表まで出ることができるのだろうか?
◆陸上自衛隊犯行説
前回の当ブログでの記事では、「地震の震央が自衛隊の演習場や基地内にある」という話がデマであることを書いた。
しかし、陰謀論者のなかでは自衛隊が人工地震を起こしたということになっており、そのシナリオに合わせた情報の解釈が過去の事件にまで遡って行われている。
リチャード氏ら陰謀論者が標的にしたのは、地震より前に起きた自衛隊の飛行機墜落事故。
これは埼玉県入間基地に所属するU125が4月6日鹿児島県上空で消息不明となり、7日に墜落機が発見され、乗員6名の死亡が確認された事故である。
『自衛隊機墜落と地震の関係を知りたい。』
『備忘録: 自衛隊機墜落、捜索隊員の放射能防護服』
上記2記事では、墜落した機体には(人工地震発生のために使用する)核兵器が積まれていて、捜索隊が防護服を着ていたのは放射線から身を守るためではなかったのか、という思いつきが書かれている。
しかし、飛行機の墜落現場では火災により有害な化学物質を含んだ煙が充満している恐れがあり、それらの付着や吸引を避けるために捜索隊が防護服を着用するのはごく当たり前の対応である。
現場において耐放射線スーツが使用されたというならまだしも、防護服では彼らの考えるような疑惑を証明する証拠にはならない。
このような浅はかな「疑惑」を吹聴することは事故の犠牲者の名誉と遺族や友人の気持ちを傷つけることに他ならないが、陰謀論者は異常な事件であることを想像することばかりに執心し、ごく当たり前のことを想像することができていないようである。
◆熊本の地熱発電に関わる企業が怪しいとかなんとか
自衛隊の犯行をほのめかすような記事を書いていると思ったら、今度は外資系企業による犯行の可能性なんてものを示唆するのだからたまらない。
どっちがやったのかはっきりしてほしい。
両方とも犯人だというならそれぞれ証拠を持ってきてほしい。
『熊本県の「地熱発電事業」を受注したユダヤ米国3社に質問です。』の記事では「ユダヤ米国3社」が地熱発電事業を受注し、地熱発電以外のことをやっているのではないかと訝っている。
元ネタ、もとい引用元は、トンデモなことばっかり言っちゃってるので一部では有名な井口和基氏である。
引用元には以下のようなことが書かれている。
要するに、「新エネルギー開発」という名目で、海外の怪しい新規企業(こういうものの大半がCIAやモサドからスピンスピンアウトしたその出身者が社長になっている)が我が国の「地熱発電事業」にちゃっかり侵入していたのである。
その名は、
「フォーカスキャピタルマネージメント」
「レノバ」
「デナジー」
これらの3つの会社が、熊本県の「地熱発電事業」を受注していたのである。
CIAやモサド出身の社長が地熱発電の会社を運営するというのは、畑違いな感じがする話であるが、それよりなによりこれらの3社は外資系企業だろうか?
それぞれの貼られたリンク先に飛んでみて会社概要などに目を通しても、これらの企業が外資系であると断定した根拠がわからない。
会社の所在地はどれも日本国内だし、社長をはじめ役員はどれも日本人でCIAやモサドと縁があるようには見えない。
リチャード氏はこれに加え、『麻生太郎さんの甥っ子の会社は、まさか、熊本県から地震を起こすことまで受注していないでしょうね?』という記事を書いている。
記事によればは3社のうち1社の社外取締役に麻生太郎の甥にあたる麻生巌氏が就任している点を「疑惑」の補強に用いているが、逆に言えばそれくらいしか持ち出す情報がないというありさまである。
たとえばこのフォーカス(「フォーカスキャピタル」は旧称)が地熱発電用地を取得したのは南阿蘇村湯の谷という場所なので、そこが地震と関係がありそうかどうか調べてみると下図のようなありさまである。
画像は、気象庁の震度データベースから4/14~5/2の期間に起きた、震央が阿蘇地方にある震度3以上の地震の分布を検索したものである。
湯の谷付近が震央になっているような地震はない。
検索した時に一度に表示されるものは100件までだが、上記の条件で検索した結果の該当数は73であり、省かれたものはない。
震度2以下も検索対象にすればもしかしたら湯の谷が該当することもあるかもしれないが、そんなものは全く脅威ではなく、人工地震兵器による攻撃にカウントするだけ無駄だろう。
まあ要はいいがかりもいいところ、ということである。
◆安倍首相が被災地を訪問している間は地震がなかった
安倍首相は4月23日に被災地を訪れたが、それに先立ってリチャード氏は『安倍ちゃんが熊本に来ると地震が止まる。』という記事を書いている。
4月14日に熊本入りするはずだったのにドタキャンした安倍統一キチガイ教会晋三さん。
4月16日に「本震」が襲ってくると「決まった」のでキャンセルしたのですか?そして、4月23日、安倍ちゃんがはじめて熊本入り。
TVカメラの前だけでは、被災者のおばあちゃんにおべんちゃら。
安倍ちゃんが熊本を襲撃した途端に、余震が停止。静かな時間が流れています。安倍ちゃんが、熊本を離れた途端に、震度5クラスの余震が再開する予定になっていますか、陸上自衛隊さん?
お手並み拝見。
いくら何でも14日の21時半手前におきた地震の直後、その日のうちに被災地入りという判断はあり得ない。
どこかで間違った情報をつかんだのだろう。
が、23日の訪問中に地震がなかったというのは、あながちデタラメではない。
現在気象庁のデータベースをあたっても、23日には22時6分の震度3の地震が記録されているだけであり、首相が被災地に滞在している間には地震がなかったということになる。
気象庁のデータベースは震度2以下の地震がデータベースに反映されていない可能性がある旨の記載があるので、軽微なものであれば余震があった可能性は当然あるが、現時点では何とも言えない。
だが、なかったとしてもそれで安倍首相が人工地震を起こしたとか、関与しているという結論には程遠い。
当記事の冒頭でも書いたが、地震が人工的に引き起こされたという部分の証明が全くないことには「仮説」をいくら立ててもしようがない。
偶然の一言で処理されてしまうだろう。
だいたい、震度3程度の地震は人工地震兵器として起こすことに何の意味があるのだろうか?
現状のデータでは訪問期間中には震度1、2の地震さえ起きていないのだが、こんな軽微なものまで陰謀組織はこれまで起こしてきて、かつ23日は自粛したと主張するのだろうか?
以上、全部とまではいかないが、リチャード・コシミズ氏の唱えた人工地震説にまつわる仮説についての指摘を書いた。
リチャード氏の主張を信じる人や、リチャード氏の主張は信じていないが人工地震だと思う人は、今回の記事に書かれている内容を検討するよりはまず、「平成28年熊本地震が人工的に起こされた人工地震である証拠」をおさえる努力をしてほしい。
主犯が誰かとか、動機は何だとかは、その後でいいのだ。
《参考記事》
『地震のおかげで安倍政権が追及されたくない重要案件が全てペンディング、立ち消えに。』
『「円高対策の地震」 』
『熊本地震で、中国の電子産業が止まる。』
『日本経済を低迷させるには、「忘れたころにまた地震」が必要です。』
『川内原発で、福一の偽装放射能汚染パニックを繰り返しますか?』
『川内原発を停止しない本当の理由?』
『自衛隊機墜落と地震の関係を知りたい。』
『備忘録: 自衛隊機墜落、捜索隊員の放射能防護服』
『熊本県の「地熱発電事業」を受注したユダヤ米国3社に質問です。』
麻生太郎さんの甥っ子の会社は、まさか、熊本県から地震を起こすことまで受注していないでしょうね?』
『安倍ちゃんが熊本に来ると地震が止まる。』
『安倍晋三 去りて後、地震戻りぬ』
(以上、richardkoshimizu’s blog より)