当ブログを見てくださる方の中に、リチャード氏の新刊『リチャード・コシミズの新しい歴史教科書』に関する記事を期待してくださっている方がいるとは思うのだが、中古本が安く手に入らないので、まだ入手すらしていない状態である。
そんなわけで今回は別の本、泉パウロ著『本当かデマか 3・11[人工地震説の根拠]衝撃検証』について。
以前の記事で書いたとおり今年のトンデモ本大賞に輝いてしまうような本なので、デタラメなだけでなく爆笑ものな記述がかなり多い本ではある(ただし所詮はトンデモ本なので、大して面白くもなんともない箇所もかなりある。ただただ笑いたいのならギャグ漫画を読んだ方がいい)。
感想をひとことでいうと、「カオス」である。
とにかくいろんな情報をいろんなところ(おそらくはネットが大半だと思うのだが)から引っ張ってきて、それらが全く整理されていないという感じである。
◆はっきりしない黒幕
当ブログでウォッチングしているリチャード氏は世界の黒幕にユダヤ人を名指しし、言葉の限りの悪態をついている。
ドン引きモノの行為といえばそうなんだが、もしリチャード氏の言っていることが事実であるならば確かにそのように怒りをぶつけたりするのはわからないのでもない(事実ではないから問題なんだが)。
それに比べると泉氏の本の中では「これが黒幕なんだ!」という明確な名指しがいまいちない。
どうやらユダヤ人が悪役という設定になっているのはわかる。
ユダヤ人に関する記述はそれなりに分量を割いているし、本の中で「シオン賢老の議定書」(邦題はいろいろとつけられているが、この本ではこう書いている)やら「ゴイム」や「ディアスポラ(離散)」に関する文章がでてきたりする。
しかしながら、フリーメーソンもどうやら同様に悪役で、どちらが上位組織なのかとかがはっきりしていない。
かと思えば196ページにはロックフェラー一族について紹介した文章が書かれている。
このロックフェラー家が上記の2つとどのように関連しているかもはっきりしない。
しかも同ページはなぜか「三百人委員会」を頂点とした組織図が何の説明も注釈も無く記載されていて、ますます混迷を極める。一体どの組織を告発したいのだろうか。
本書ではたびたび「サタン」の名前が出てくるが、これがあくまで悪人たちを便宜的にそう呼んでいるだけなのか、本当に悪魔が実在して悪事を働いていると考えているのかもよくわからない。
◆めちゃくちゃな情報
著者、泉パウロ氏にとっての情報源はネットが多いというのはわかる。
なぜならリチャード氏の主張の非常に多くがこの本に取り込まれているからである。
リチャード氏がこの本を「パクリ本」と表現した気持ちも理解できてしまうくらい多い。
「定点人工地震説」や「『ちきゅう』関係者の人工地震発言」、はては「純粋水爆説」まで何食わぬ顔で登場する。純粋水爆が存在する可能性を何一つ考慮に入れず書いてあるあたり、図太いというか鵜呑みにもほどがあるというか……。
もちろん著者が鵜呑みにしているのはリチャード氏だけではない。
それこそが今年のトンデモ本大賞を受賞した秘訣だろう。
テレビCMや映画(それも20年近く前のものまである)の映像や、聖書の暗号、イルミナティカード、個人的に送られてきた手紙など、普通の人だったら相手にしそうにない雑多な情報を遠慮なく詰め込んだ感じだ。
ただあまり深く考えずにいろんな情報をとにかく入れた感じはつよく、所によって矛盾してたり明らかに間違ってる箇所があったりする。
・プロジェクトシールが無茶苦茶
リチャード氏があつかった関係で、当ブログでも触れたことのある「プロジェクト・シール」とOSSの作った「対日心理作戦計画」がこの本にも登場するのだが、この二つがごっちゃになっている。
35ページでは「THE FINAL REPORT OF PROJECT “SEAL”」(当ブログ記事『Project "SEAL" を読もう』参照)が、OSSの「対日心理作戦計画」の一つとして「封印計画の最終報告書」なんて邦題をつけて紹介されている。
ところが、これとは別に46-47ページでは「30mを超える津波発生に成功――津波爆弾「プロジェクト・シール」とは?」なんて記事も書かれており、完全に別のネタとして扱われている。
報告書のタイトルで「THE FINAL REPORT OF PROJECT “SEAL”」=「プロジェクト・シール最終報告書」と気づかなかったのだろうか?だとすればマヌケにもほどがある。
・皇族が嫌いなのか誇りなのか
天皇家に対する記述では誤りというより矛盾を起こしている。
199-201ページにかけて引用されている記事は、天皇家が武器の密輸や売春で蓄財していたとか天皇家こそ日本民族の敵であるといったかなりアブない主張をしている。
引用している以上は著者である泉氏もおなじスタンスなのかと思いきや、このすぐ後の205ページからは日ユ同祖論がはじまり、天皇こそがヘダビデの正統な血を引いていると持ち上げている。褒めたいのか貶したいのかどっちなんだ。
・放射能について
福島原発から漏れた放射能の問題についても、統一が図られているとは言い難い。
147ページでは福島原発から燃料棒が事前に抜き取られていた、というリチャード氏の「エアーメルトダウン」説を取り上げ(この本においてリチャード氏は引用元としてまったく紹介されていないし、名前が出て来ることすらない。不憫)、関連する報道を「民衆をあおるプロパガンダ」と表現している。
ということは、著者は福島やその他の地域において放射線の危険性は低いという認識なのかというと、これがまたおかしくなってくる。
156ページからはじまる「日本は今、タイタニック沈没状態・・・・・・」では、政府高官や議員たちが国民に放射能の危機を知らせずに自分たちだけ安全な所へと逃げていると非難している。
安全なのか危険なのか、どっちだ。
この他にもマグナBSPがアメリカ104か所の原発を建設していたり(警備システムメーカーのマグナ社が原発を建設しているわけはないし、104というのはアメリカにある原子炉の数であって発電所の数ではない)、「宇宙戦艦ヤマト」が全米大ヒットしていたりもする。
◆陰謀に相乗りしてみる著者
こんな「雑な」行為が目立つ泉氏。
311に引き続いて411にも地震が起こし、それによる株価の変動で悪者たちがひと儲けするに違いないと考え、それに乗っかることで陰謀を証明しようと考え、プットオプションを試みたという。
結果としてこの試みは成功し、50万円ほどの利益を出したという。倫理的にそれでいいのか。
だがもちろん、単に泉氏の運が良かっただけかもしれず、陰謀があった証拠には全くならない。
震災後の余震は4月11に限らず起きていたし、そのなかには4月11日の地震に匹敵する揺れの地震もあった。
そんな余震が起きるたびに株価が下がる企業というのは考えにくい。
泉氏の考える通り、地震を利用した株の不正な取引があるのなら、泉氏が目をつけた銘柄を大量に取引した人間がいたのかを調べる必要があるだろう。
泉氏は自分の妻を説得したくてこの株取引を行ったようだが、本文の顛末を読む限り、説得は失敗に終わったようである。
以上が私がこの本を読んで面白かったりイラッときたりした箇所である。
この他の内容はというと、聖書の記述の話やテレビ宣教師の話、祈りの話など、伝道目的であることがよくわかるもので、はっきり言ってつまらない。
バカバカし過ぎる説から、矛盾した話まで同時に存在するこの本の内容の混沌とした様相は、もしかしたら陰謀論を「客」として信じている人間の頭の中の縮図なのかもしれないと、そう思った次第である。
《参考図書》
※タイトルには「衝撃検証」と書いてあるが検証はしていない。鵜呑みにしているだけである。