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リチャード小説:『リチャード・コシミズの小説ではない小説 日本の魔界』

今回はリチャード氏が2014年2月に出した本、『リチャード・コシミズの小説ではない小説 日本の魔界』について紹介させていただく。

この小説はいわば「リチャード・コシミズ以前」を書いた自伝的なものであり、彼が遭遇した複数の保険金殺人事件から始まり、彼がリチャード・コシミズと名乗りだすところまでが描かれている。

もちろん例によって、保険金殺人の証拠などはなにも提示はされない。
おおむねはリチャード氏が見聞きした情報をもとに憶測を盛りに盛った妄想話である。

そういう意味で本書には、リチャード氏の書いたほかの本と同レベルの価値しかない。
しかし、のちのちそこそこ名のある陰謀論者へと成長していく「輿水 正」という人物が周囲の人間をどのように敵視していたのかを、輿水氏自身の視点から知ることができるという意味で、本書にはほかの本とは違った価値を見出すことができる。

 

◆敵とみなされた人たち

現在リチャード氏は世界規模の敵と戦っているつもりであり、その敵は外交問題評議会(CFR)とかユダヤ金融資本とか言った組織である。そしてCIAをはじめとする、国内外の様々な機関や宗教団体、時には民族などが彼らの手足として働いていることになっている。

だが、この本を通してコシミズ氏が告発したのは日本国内の、彼が勤務していた民間企業であり、勤め先の同僚である。

本書で犯罪者扱いされた人物は以下の通り。

最初の勤め先
  • 社長
  • 経理の女性(社長と愛人関係)
  • 経理の女子社員多数
  • 子会社の古参女性社員
  • 本社営業部課長(上記女性社員と愛人関係)
  • 上記営業部課長の直属の上司
  • 何人かの若手社員と役員
  • 元大手メーター出身の常務新社長
  • 女性経理社員
新しい勤め先
  • 専務(のちに社長)
  • 社長室長
  • 営業次長
  • 営業部長
  • 保険金殺人の被害者の妻

彼の勤め先にいる人間で、めぼしい人は全員犯罪者にされちゃったんじゃないかと思うほどである。

このほか、保険金殺人被害者が搬送された先の医師や看護師、監察医、保険金殺人として調査した警察官と軒並みグルということにされていて、彼の考える犯罪計画を実現することがいかに困難で、現実的ではないかがよくわかる。
これだけの人間が関与し、それで全員が秘密を守ってくれるほどの十分な報酬というのは一体いくらになるのだろうか。

これらの登場人物のなかには愛人関係、肉体関係があるとされ、一部にはセックスシーンまであるのだが、これもどこまで本当なのだろうか。
噂話くらいはあったのか、それとも全て輿水氏の下卑た妄想なのかは不明である。
ちなみにセックスシーンでは、彼らを醜く、汚らわしいものとして描写しようという作者の敵意が存分に伝わってくる。

 

◆信じる者にはサスペンスらしいけど

この世界を裏から操る国際金融資本組織が存在し、その末端の組織達は保険金殺人を行って金を稼いでいる……。

この輿水氏の物語を正真正銘の真実だと信じる人にとって、本書は身近な企業や警察などに侵食し、拡大している「魔界」を空恐ろしく感じることであろうし、その巨大組織に挑み今もなお余裕で花見とかやっているリチャード・コシミズを頼もしく感じることと思う。

しかし、彼の話は根拠がなく、妄想だと判断している私のような人間にとっては、本書で描かれる輿水氏の行動は完全な奇行であり、彼の周囲の人間に対する敵意や悪意に辟易させられる。

以下には本書で描かれるKの言行、というか奇行を紹介する。

・女性経理社員にたいして、「村中さん、汚い手口で金儲けなんかしても、ヘンな宗教に吸い取られるのが関の山だよ」、「今なら、まだ間に合うよ。ヘンな連中の組織から抜け出るべきだよ」と説得する。(136-137ページ)
会社で不正経理があると確信したKの説得である。心配している風だが相手を完全に犯罪に加担していると決めつけているし、宗教だとか言い出していて不気味である。

・女性経理社員2名が「秘密の会話」をするところを抑えるため、小会議室のロッカーの上にビデオカメラを仕掛けた。(140p)
結果的に女性経理社員がカメラの存在に気付いて失敗したという。相手が犯罪者だと確信している輿水氏からすれば情報戦を行っているつもりなのかもしれないが、実際にはそうではないので単なる隠し撮りだ。

・営業部課長が危篤だという知らせを聞かされ、「え、それ、医者が引導渡すって意味ですか?」と返事。(158p)
本人は裏社会側の医師がとどめを刺して保険金殺人を完遂させることを見抜いたつもりで言っているらしいが、かなり不謹慎な発言である。

・Kと関係のある複数の社員が会社で出されるお茶を飲もうとしない。Kと親しかった男性社員はKの話を信じ、後に退職した。(162p)
毒殺を警戒しての自衛策らしいが、退職までしちゃったのかよ……。

・社長のことが嫌いだといった社長室長に対し「嫌いなら消しちまえばいいじゃないか?殺しちまえよ」と返事。(170p)
社長室長は気色ばんでKの襟元つかんだらしい。社長室長は社長の悪口でもタネに打ち解けたいとでも思っていたのではないだろうか?

陰謀組織に(敵の手先であったものの、秘密を知りすぎて危なくなった)社長やKとその家族が狙われないように、複数の社員宅や実家に告発書簡を送付。(172p)
敵の行動をけん制するつもりだったらしいが完全に怪文書。結局Kがおかしいということで社内で決着がつけられた模様。

・保険金殺人の告発が「オヲム神霊教」絡みだということで捜査することになった警察官の写真を、K宅に向かう途中の電車内で隠し撮り(193p)

・警視庁から神奈川の平塚駅まで警察官を連れてきたが、駅から自宅までの途中で自宅に電話し、「カミさんの友達が5人も来ているから」と追い返した。(194p)
ひどい。

・警察が実家を訪れたのが恫喝だと判断し、「内容を読めば、正体を見破られたことがはっきり」とわかるメールを送り付ける。(201p)
警察も、本人に話してもラチが明かないと判断したのだろうなあ。そしてそれは正解。

・(保険金殺人の調査の結果、事件性がないとわかって)「あとは、お宅とアークテックの間の交渉事だから。警察は、もう関係ないから」と言われたが、その言葉の意味をきちんと理解せず、「賠償金を支払うから、告発をとめてくれ」という意味であると考える。(209p アークテックとはKの新しい勤め先のこと)
保険金殺人の疑惑に事件性がないとわかった時点で、Kのしていたことは告発でも何でもない、言いがかりや中傷の類となることを完全に無視。むしろKが賠償しなくてはいけないくらいだろ。

・ある関係者の自宅近くで、どう見ても酒屋店員と配達員にしか見えない格好で一時間以上立ち話をしていた男女がいたので、近寄りパソコンで写真を撮ったらそそくさと車に乗っていなくなった。(214p)
そりゃ気味悪いから逃げるって。
「どう見ても酒屋店員と配達員にしか見えない」なら、その時点で問題なしと判断するべき。

・Kの背後にいる人物がVXガスをKに使おうとしている気配を察知したので振り返り、不敵な笑いを見せながらギロリと睨んだ。(216p)
VXガスを持っているかどうかは、相手が右手を隠していたからわからずじまい。何にもしてないのに突然にらまれたら嫌だなあ、キモ怖いなあ。

・マンションのエレベーター前にいたヤクザ風の人物のそばを通過する際にデジカメで撮影した。(217p)
マンションのほかの住人ではなく、自分が目当てにしていると判断してこんなことやったらしい。本物のヤクザ相手にこんなことやったら、かえってことが大きくなりそうだ。

こういった奇行の果てに輿水氏はインターネットで告発を開始し、リチャード・コシミズとなっていったようである。
ネットを介して彼の妄想は広く拡散していき、現在では大人数が裁判所で大騒ぎや隠し撮りを繰り返すようなレベルにまでなっていったのである。

この本をトンデモ本として勧めるかどうかといえば☆3つくらいだろうか。
当方としては断然「12・16不正選挙」を推すが、この「小説 魔界」はそれに次ぐくらいの面白さはあると思う。


《参考図書》