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リチャード小説を読んで その4 「2012年 アセンションはやってこない」

なんというか、すごい本である。

個人的には、前作を凌ぐ代物であると考えている。

この本はもともと、6月に配本する予定であったが、実際に配本が開始されたのは7月末。事情についての具体的な説明を見かけたことがないんだが、どうも今年7月の参議院議員選挙について記事を書いたためだろう。

それではこの本について紹介させていただく。

メインの内容である陰謀論そのものについては書かないのであしからず。ざっくりとどんな種類の陰謀論が書いてあるかは「リチャード小説を読んで その2 内容編」で確認してくださいな。

■アセンションはやってこない、ていうかあまり顔を見せない。

この本ではアセンションを批判的に扱っているわけだが、どうにもいい加減というか、恣意的な理解という感じが否めない。

2012年のアセンションという話は、みんなが本当にばらばらに好き放題言ってるような代物で、何か一つ「これ」ということができない。

むしろこの本で言っているような終末論や滅亡論は少数派ではないだろうか。たしかにテレビや映画では2012年の滅亡説が飛び交っているが、それは「アセンション」とは直接的な関係があるとは言えない。

「アセンション」も「地球滅亡説」も2012年におこるとされているが、それはマヤ暦が2012年12月で終わるということをそれぞれが自分たちに都合よいように解釈した結果であり、同じ話というわけではない。

ニューエイジャーの言う「アセンション」話は「次元上昇」という現象が起きるというはなしであり、3次元がより高次元になるとか、物質主義が終わって精神的な豊かさを求める時代が来るとか、そういう話である。
そのきっかけとなるのが「フォトンベルト」や「大災害」であったりするわけだが、とにかく原因も結果も、諸説分かれていて統一が図られていないのだ。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで新約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言(ハルマゲドン)ともいっしょくたにしていて、さらに一般の(?)認識から離れていく。

そんなめちゃくちゃな理解に基づいた「アセンション」を陰謀と結び付けているので、説得力には非常に欠ける。
リチャード氏よりも古今東西の「アセンション」に詳しい巷のニューエイジャーがこれを読んでもピンとこないのではないだろうか。それも新約聖書まで持ち出してくるので、完全にニューエイジャーにとって「きいたことのある話」ではなくなってしまうと思う。

そして、アセンションが陰謀とどうつながるかというと、これに関する説明がすごくはしょられている。

どうも世界の大都市の上空で純粋水爆が爆発して、その際に起きた電磁波で重要な金融情報などが入ったパソコンが火を噴く。
その際、上空にオーロラが出るので、それがアセンション話で流布されてる光なのだとみんなが思い込む(それでだませるのはせいぜい、世間にそれほど大勢いるわけではないニューエイジャーの中でも特にバカな人だけだと思うが)。

そしてその後、極東で戦争が起こるということである、らしい。

この過程について説明が全くない
純粋水爆の高高度核爆発からどう極東戦争につながるのか全く説明がないのである。
戦争起こすだけならアセンションは必要ないと思うぞ。

本のタイトルになっている「アセンション」の陰謀話はそこそこに、後の大半は最近あった出来事(2009年10月に右翼団体とおこしたいさかいと、2010参院選挙が中心)とこれまでの陰謀論のおさらいで埋め尽くされている。

■謎の会話

この本は前作同様、小説である。

このことはうっかりしていると忘れそうなのでことさらに強調しなくてはいけない。そういう本でもある。

小説というと主人公やほかの登場人物たちの活躍などを描いていくものだと思うのだが、特に何もしない

基本は地の文と陰謀について会話することであり、読んでいても動的なイメージというものは湧いてこない。

主人公(らしい)陰謀の首謀者ロッケンフェルター老も、それを暴く立場のジャーナリストKも、あと素性は知らないが一般市民代表も、みんな地の文との会話してばっかりなのである。
読んでいてちょっとアニメ版のエヴァンゲリオンの最終2話を思い浮かべてしまった。

一度に複数の登場人物が登場することもほとんどなく、説明的なやり取りで陰謀について語っていく。
また、誰も登場せずに地の文で延々と説明が続くこともしばしばある。

ちなみに、この本の中でロッケンフェルター老は陰謀を地の文に暴かれて慌てふためく役に徹している。
彼が読者に自慢げに説明しようとする陰謀を地の文がどんどん先回りしてばらしてしまうのである。

黒柳徹子と「徹子の部屋」に呼ばれたゲストの若手芸人みたいなもんである。
その中のロッケンフェルターのうろたえ発言はなかなかバリエーションに富んでいて面白いので紹介しておこう。

「なんだ・・・・・バレてるのか。」(109p)

「う~そこまでわかっているとは。だが、アフガンを占領した目的はさすがに、おまえにも・・・・」(110p)

「く、くそ。何もかもわかって・・・・だがな。その前にイラクを攻撃した目的は、お前も読み切れなかっただろう。フセインが大量破壊兵器を・・・・・」(110p)

「ふっふっふ。イラク侵略の最大の目的が(ドル防衛)だったと読み切ったのは、さすがだ。だが同時に達成したほかの目的はさすがに・・・・」(111p)

「ば、馬鹿もん!ワシが911で目論んだことは、その程度ではない。わしは一兎や二兎をおったのでない・・・・」(112p)

「そ、それだけではない。ワシの究極の目的は・・・・」(112p)

「その通りだ。後にレーニンも、明石大佐には感謝すると言明している。ロシア革命の立役者は日本人だったのだ。」(114p)

「なんだ、この日本人には、なにもかもわかっているのか。」(115p)

浮いたり沈んだり、実に忙しいリアクションの数々である。

ところで、「お前も」や「この日本人には」などという表現が発現中に飛び出してくるが、この地の文はいったい何者なのだろう?

この地の文。陰謀をすべて知っているすごいやつなんだが、第三章にジャーナリストKと地の文が会話している箇所があるので、Kとは別人のようである。

ともあれ、とにかくすごいひとり相撲である。

■衝撃のラスト

そうこうして300pに渡る陰謀論を読んだ後(過去のリチャード氏の発言のおさらいばかりなのでしんどい。しかも田池太作が個人資産をユダヤ人に献上しただなんだって話が3回くらい出てきたぞ)、小説は一気に佳境に入る。

2010年の参議院議員選挙で、Kとその信者ネット上の優れた人士が国民新党新国民党や敏いとうTいとうを応援したというのに、議席一個も取れなかったのはユダヤが画策した不正選挙だ、という展開で盛り上がり、
そして

アセンションは、彼らの目論見通り捏造されるのか、それとも、われわれ日本人の手で阻止されるのか?

Kをはじめとする日本人覚醒者の戦いは、成功を収めるのか?(336p)

なんとアオリである。週刊少年マンガか、これは?

そして次のページには更なる衝撃の展開が待ち受けていた。

オウム事件、911自作自演テロ…追い詰められたウォール街の暗黒勢力の最後の謀略は、2012年末に敢行されんとしていた。だが、アセンションの名を借りた金融テロ、それに続く地球規模の純粋水爆テロを阻止したのは、極東の島国の名もなき市井の人々だったのだ。
<中略>
ウォール街の金融詐欺師たちは全てを失い、訴追され、丸裸になって消えていった。無数の名もなき日本人たちが、世界に真の平和と幸福をもたらしたのである。
あれほど苦しい戦いだったのに。あれほど苦心惨憺してやっと勝利を得たのに。まるで何事もなかったかのように、淡々と国家の再興に励む日本人たち。彼らこそが、2012年偽アセンションの後の世界をリードする牽引役となるのである。21世紀、人類は新たな道を歩き始めるのである!
(337p)

読んでいて、おもわず「うおぉーーーーい!!」と声に出して突っ込んでしまった。
結局、陰謀がどう図られたのか、それをどう阻止して見せたのか、小説として一番盛り上がる部分が要約で済まされるとはどういうことだ!!

本当に、この後にも前にも一切、アセンションの陰謀とその阻止の方法について具体的な方法が書かれていないのである。
(建前とはいえ)フィクション小説なんだから、そのあたり描くべきではないのか。

もちろんリチャード氏は、インターネット上で陰謀を先回りしてばらせば全部阻止できると考えている(そのことを「ネット力」と呼んでいる)ようなので、説明不要と考えた可能性はある。
それにしたって「真実」がどんなふうにみんなに伝わって行って社会的にどういうことが起きるのか、それくらいは書いてほしいもんである。

しかも、しかもである。

実はこの文章、本の内容紹介として同一の文章がいろんなところで使われているのである。

配本前の段階で、リチャード氏のブログや販売告知専用のページなど、本を入手する前に何度も見た文章である。
また、本の裏表紙にも同じ文章が記載されている。

本の紹介として上記のような文が書かれていたなら、普通その要約されている部分を具体的に知りたいと思って買うものだろうに。使いまわしを読ませるとはどういうことか。

このあとには謎の人物が二人(あるいはそれ以上?)でてきて、これまでのおさらいとばかりに陰謀や右翼系団体の悪口、常温核融合技術について口々に語り、最後にこう締める。

「日本万歳だ。日本人の底力バンザイだよ!」

……なんじゃそりゃあ。

■だがしかし、まだこんなにページが余っている!

こうして、物語(?)は一応の結末となる。ここが354ページ。

だが手にした本にはかなりのページが余っている。

この後の多量のページはなんと宣伝である。

355pから432pまでじつに7778ページ!!
本書の6分の1以上が宣伝というこの巻末付録にはびっくりである。

過去の著作や講演会のDVDを単にカタログ状に紹介すれば、こんなにページを食うことはないのだろうが、本の内容や講演会の開催場所などの具体的な情報、そして党員や心情党員たちから寄せられた賞賛のメッセージなどを多数記載しているため、通常ではありえない分量になってしまっているのである。

出版後の講演会の映像で「なぜか本が厚くなってしまった」などと話していたが、はっきりってこの宣伝ページのせいである。

この部分を7ページ程度に抑えられれば、362p。
前作の「小説911」よりも少ないくらいなのだ。

「2012年 アセンションはやってこない」、この本は間違いなく「小説911」を超える奇書となったとかんがえている。

本の内テーマが前作に比べて著者オリジナル寄りになったこと、小説としての基本的なスタイルから逸脱した書き方になったことがその大きな要因であると思う。

自作の予定について現時点では声明が出ていないが、次はいかなる本になることだろう。
ウォッチャーとして期待させていただこうと思う。

おまけ–

リチャード氏の著作2点についての記事はこれにて終了。次回からは元通りの記事になると思います。

結局合計何文字書いたんだろう……。

《参考文献》

2012年アセンションはやって来ない書籍紹介ページ

【修正2010.11.4】

一部事実誤認に基づいて書いていた部分を訂正しました。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで旧約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言ともいっしょくたにしていて、さらに混迷を極める。
ユダヤ陰謀論を唱えるリチャード氏にとって、ユダヤ教の経典である旧約聖書と絡めた方が、ユダヤの陰謀として説得力が増すだろうという考えなのだろう。

「ヨハネ黙示録」は新約聖書に書かれていたものですね。すいません。
以下のように直しました。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで新約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言(ハルマゲドン)ともいっしょくたにしていて、さらに一般の(?)認識から離れていく。

【修正2011.5.23】

宣伝に費やされていたページの数を「77」から「78」へ修正しました。