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リチャード小説を読んで【番外編】:『12・16不正選挙』

今回は、リチャード・コシミズ著『12・16不正選挙』(以下、本書と略)を紹介。

これまで、『小説911』以降のリチャード・コシミズの著作を読んできたが、この本はその中で随一である。

リチャードコシミズの著作の中で最高のトンデモ本であるとさえ思う。
去年の2作はすごく退屈してしまっていたのだが、今作で不正選挙陰謀論を本にまとめられた形で読んでみると、実にバカバカしくてよいのである。

不正選挙説そのものは、過去記事『不正選挙2012』、『不正選挙諸説』などで取り上げてきたが、改めて本書に書かれている陰謀論にツッコミを入れるかたちで紹介していきたいと思う。

 

◆小説ではない

この本は小説ではない。

過去作では小説という形態をとり、事実とは無関係であるという断りを入れておくことで、内容に根拠がないことや政治家や要人、あるいは宗教団体や民族的・性的マイノリティに対する誹謗中傷の類をごまかしてきたところがあった。

しかし今作ではそういった「安全策」は施されていない。
フィクションであるという断りはないし、人名・党名を当て字で表現するごまかしもない。

ここ最近、独立党が多くの地方紙や雑誌に本書の広告を出していたが、その中で朝日新聞は掲載を断っている(『朝日新聞さんから「書籍広告掲載」を断られました。』)。
本書がこれまで通り小説を自称しているのなら、内容が根拠薄弱な話であっても掲載を断られることはないのではないかと思っていたのだが(とはいえ差別的な表現が引っ掛かる恐れがある)、今回のようにどストレートに書いていればそれは掲載を拒否する十分な理由になるだろう。

とまあ、とにかく小説ではないから今回の記事はあくまで「リチャード小説を読んで【番外編】」なのである。

 

◆不正選挙説-未来の党得票数

本書は、2012年12月16日の衆議院選挙で不正な行為が行われたということを主張している。

かの衆議院選挙では日本未来の党が圧倒的多数の44,600,000票(公式発表では3,423,915票)を獲得して第一党であったはずにも拘らず、ユダヤ金融資本の不正選挙工作によって票を書き換えられ、あるいは密かに票を遺棄されてしまったという。

4,460万票という数はとてつもない数である。
公式発表では衆議院選で第一党となった自民党得票数は約1,662万票なので、3倍近い票をとったことになる。
これを金融ユダヤ人とそれに与するマイノリティーが4,000万票を超える日本未来の党の獲得票をどうにかして減らしたということになる。

ではこの44,600,000という莫大な得票数は一体どこから出た数字なのかというと、以下のような計算式が示されている。

2009年衆院選の総票数70,581,658 x 75 / 69.28%(戦後最高の投票率)=2012年衆院選の総票数(推測)77,400,000 x アメブロ投票比率 72% x 80%(非ネット人口を考慮) = 44,600,000票
(197ページ)

意味が分かるだろうか?
最初これを見た時、私はこの羅列をどのように理解したらいいのかわからなかった。

「アメブロ投票比率」というのは、アメーバブログで非公式に誰かが行ったネットアンケートで導き出された未来の党の得票率である。これはこの数式のちょっと前に出てくることなので理解ができるのだが、最初の方のごちゃごちゃした計算が何を意味しているのかがやたらと複雑で非常にわかりにくい。

これは、「2009年衆院選の総票数70,581,658 x 75 / 69.28%(戦後最高の投票率)=2012年衆院選の総票数(推測)77,400,000」で区切るのが正しいようである(「=」の記号を数学的に正しい用法で理解しようとすると、この数式は「2009年衆院選の総票数=44,600,000票」となり、完全に理解不能になる)。
2012年衆院選の総投票数を推測するためにわざわざ2009年の総投票数を投票率で割って有権者数を計算し、それに投票率75%(実際には比例は59.31%)をかけているのだ。
無駄にややこしい
こうやって無駄な計算をして総投票数(推測)を出し、それに「本当の得票率」である72%をかけたうえ、「ネットをやってるのは有権者の8割くらい」という判断で80%で割って、44,600,000票という票数になったそうだ。

総務省のデータでは当日の有権者数は103,959,866なので、それに75%と72%を掛ければいい。
それだけで済む話を何をごちゃごちゃやっているんだか。

ここで使われている、リチャード氏の考える未来の党の得票率と現実の結果では実に67%も違っているが、この根拠となるのがネットの方が正しいという信念である。

まず挙げられているのがウォールストリートジャーナル日本版で行われたネットアンケートの結果を報じる記事
このアンケートの結果、63%が「未来の党に期待する」と答えたことを根拠にリチャード氏はこのように予測する。

実は、この外国紙の「未来の党に期待するが63%」が真実であり、読売の「期待しないが70%」が嘘まみれなのだ。裏社会は、日本の既存メディアの統制ばかり気を配り、外国系報道機関の日本支社の報道管制にまで手が回らなかったのだ。選挙後の諸所の情報を総合してみても、未来の党の本当の得票率は60%どころか70%に達していたともくされるのだ。
(37ページ)

また、先ほどの計算式ではアメブロのアンケート結果を利用していたが、このように書いている。

本当のところ、未来の党はどのくらいの票を獲得していたのか?12月23日に「アメブロ」でのネットアンケートの存在が報告される。「衆院選では何処に投票しましたか?」のアンケート結果は・・・「未来の党 72%」であった(13.1.9現在では75%)
http://pentatoys.com/qv/r/?id=2024
未来の党の比例区の得票率は、340万で共産よりも少ないことになっている。得票率は、5.69%だ。一方で選挙後のネットアンケートでは75%おそらく75%の方が、真実に近い数字であろう。

裏社会は未来の党の票を十分の一以下に改竄した!そう断言しても大きな誤認ではないだろう。
(196‐197ページ)

ネットでのアンケート結果と、世論調査や実際の得票率が一致しないからネットの方が正しくて世論調査や投票結果が間違っている、十分の一以下にされた!というのである。
十分の一以下にされたという割に、自らの試算では15倍くらいしちゃってるのはいいのか?

ちなみに次のようなエピソードも紹介されている。

ある有志の報告では、ご主人が所属するフラダンス同好会15人のうち、自民党に投票したのは堂々の0人。消費増税・脱原発の話題になり、①選挙に行ったのは、13名。つまり85%だ。②ほぼ全員が反増税・脱原発であり、投票先は未来の党は11名、共産党2名、みんな2名だったそうだ。未来の党支持率は70%=になる。
(197ページ =の位置は原文ママ)

フラダンス同好会の15名というささやかなサンプルを根拠に得票率を語ることも無理があるが、15名中13人しか投票に行ってないはずなのに、投票先の合計人数が15名なのはもっと無理である。

全体の投票率そのものが戦後最低であることにも疑義を申し立てているのだが、その根拠は「投票日に長蛇の列ができている投票所があった」という程度のもの。
長蛇の列が一時的なものかずっとそうだったのか、どこの投票所でもそうなっていたのかを証明しきれておらず、上記の怪しげな計算式で「本当の」投票率を75%に設定している根拠も特にない。

 

◆不正選挙説-未来の党の票はどうなったか

リチャード氏の考えよれば4460万票もあった未来の党の得票が340万票にまで減らされたということであるが、その差となる4120万票は一体どうなったのかということに関して、リチャード氏はいくつもの陰謀論を展開する。

選挙前日の12月15日、日本全国で「異臭騒ぎ」が報告された。八王子市・大阪府北部・東京都葛飾区・群馬県・静岡西部・横浜市青葉区・板橋区・埼玉・練馬・菊川・掛川・・・非常に広い地域で同様の「焦げ臭さ」が報告されている全国で一斉に「何か」を焼いた?「野焼き」が目立たない夜をねらって?ここからは推論である。

「期日前投票」のホンモノの票を裏社会総動員で焼却したとみる。(公営の焼却炉に運び込むのは発覚の危険があるので避けたのでは?)投票用紙は、ユポと呼ばれるPP(ポリプロピレン)製合成紙。燃せば、プラスチックを燃やした匂いがする。証拠隠滅であったのではないか?
(32-33ページ)

投票用紙を焼くとは豪快な話である。
しかも「公営の焼却炉に運び込むのは発覚の危険があるので避けたのでは?」などと書いているが、焼却炉が危険だからってそんじょそこらで焼いたりしたら、そっちの方がよほど目につくではないか。

たかだか物を焼いている匂いを嗅いだというだけで、そこで焼かれているものが投票用紙であると判断した根拠はでてこない。

 

このほか、「投票活動を呼び掛ける車があまり来なかったのは投票率を下げるため」とか「未来の党の候補者が小選挙区で獲得した票に比べて比例区で獲得した票が少ない」とか「ユポ紙の投票用紙はツルツルして鉛筆で書きにくいのになぜ使うのか」など(ユポ紙の投票用紙って表面サラサラしててすごく鉛筆で書きやすいんだけど……)細かい陰謀論いくつかが書かれているが、何より有名なのがムサシの票計数機の話である。

リチャード氏によると、株式会社ムサシの票の計数機には票を書き換える機能があるという。

レーザーアンプリンターである。基材から超短パルスレーザーでトナーを蒸発させて除去する。投票用紙から「未来の党」が消える。次にレーザープリンターで「自民党」と印刷して排出する。
(140ページ)

「投票改竄装置!」である。印字された用紙を、この機械を通すと別の印字に変わって出てくる。つまり、この機能をムサシの計数機械に内蔵させておけば、「鈴木一郎」と鉛筆で手書きされた表は、「近藤晴彦」に変わって排出されるのだ。
(142ページ)

ムサシの計数機には票に書かれた党名を判断して、票にかかれた政党名を消したり書いたりする機能があるのだという。
計数機とは票を数えるための機械のはずなのだが、読取分類機とアンプリンターとプリンターの機能までくっついているのだそうな。
それぞれの機能を持った機械は存在しているが(アンプリント技術はまだ開発中)、それらすべてを盛り込んだこの超複合機が実在することを確かめたものは誰もいない。

サル、タヌキ、虎、蛇という動物はこの世に存在しているが、「サルの頭とタヌキの胴体、虎の手足をもっていて尾が蛇になっている妖怪ヌエ」が実在していないのと同じである。

このほか、ペンシルプリンターの技術で書き換えた可能性もほのめかしてはいるのだが(144‐145ページ)、この技術に至ってはコンセプトだけでいまだ確立されてもいない。

はっきり言って「ムサシの票書換機」などというものは、ネッシーや宇宙人、ちいさいおっさんと同じくらいの代物なのだ。

 

◆不正選挙説-反論は陰謀

こんな無謀な説を唱えるリチャード氏の不正選挙説に対する反応はさまざまである。

「自民党らが不正を行った結果、大勝するはずだった未来の党が議席をほとんど取れなかった」という主張は、自民支持者から反発を、未来支持者から歓迎を受けやすいだろうことは想像に難くない。
リチャード氏のブログに攻撃的なコメントが書き込まれており、リチャード氏はそれらを「裏社会から脅しが」として紹介している。
当ブログではリチャード氏の面白ささえ伝えられれば十分なので、これらの余り利口とはいえないコメント郡についていちいち引用はしない。

リチャード氏はこれら鼻息の荒いコメントを「組織の中の武闘派」による書き込みと断定し、「この種の品も知性もない書き込みは逆に不正選挙の証拠と見做される」という。
この他にもガラの悪い留守電が2本きていたことを報告し「この恫喝電話は、12・16不正選挙に創価学会の裏部隊が関与していることを証明するようなもの」としている。

ガラの悪い、いちいち相手にしなくていい種類の電話だろうが、それが何で創価学会の関与を示しているのか一切不明である。 それと、少々暴力的で威勢のいいコメントを書き込む程度の人間を世間一般では「武闘派」とは言わない。

しかし、寄せられるコメントは何も物騒なものだけではない。
これを機会に創価学会を抜けましたといった、前向きに受け止められるコメントも寄せられているという。
特に私が面白いと思ったのは以下のものである。

「劣等感の塊で、いつも自分はダメだという気持ちがあり人の中に入っていくのもつらかったのですが、今はそこから抜け出すことが出来ました。ありがとうございます。」

ユダヤ金融資本との戦いの中で自分の殻を破り新しい自分の世界に躍り出た人も出てくる。私RKは陽気に彼を迎える。

「私RKも従来はとても弱い人間でした。でも、あなた同様にある日突如「吹っ切れて」以来、真正面を見据えて堂々と生きることが出来るようになりました。おめでとうございます。本物の人生があなたにもやってきたのです。ご活躍を!」
(109-110ページ)

なんだか自己啓発セミナーを思わせるような感動のやり取りだ。
コメントを残した彼はさらなる泥沼に足を踏み込んだだけなんだろうが、強く生きてほしい。

 

◆あふれる小沢一郎

とまあ、不正選挙陰謀論としての本書の面白さはここまでにして、この本で私が一番傑作に感じた部分を紹介。
なんといっても本書でいちばんトンデモなのは、リチャード氏が小沢一郎氏に対して抱く一方的な好意である。

リチャード氏によれば本書に書かれている裏社会の陰謀を、未来の党の小沢一郎氏も見抜いていたという。

選挙の神様、小沢さんの天才的な采配は今回も遺憾なく発揮された。選挙公示直前になって、国民の生活を解党し、未来の党に合流した。

「反原発」を旗印にした嘉田滋賀県知事を頭目に据えることによって、女性層の票を一気に取り込もうとしたのだと誰もが思った。そしてその策は功を奏したはずだ。

だが、小沢さんの深謀遠慮はその程度のレベルのものではなかった。小沢さんは、今回の衆院選挙で大規模不正が行われると読んでいた。
(45ページ)

そう、未来の党への合流は裏社会の謀略をかわすための物だったのだそうだ

こうして党名を変更することで、裏社会が準備していたニセの投票箱(何でも多量の自民党票と少量の国民の生活票で構成されていたものを準備していたらしい)は使えなくなってしまったのだという。
これによって裏社会は「稚拙な」手口に走らざるをえなくなり、多くの国民が不正選挙の存在に気付くきっかけになってしまったのだそうな。

そして2013年7月の参院選。不正選挙を糾弾する国民の強い意思は、政権を詐取した自民公明に、「再選挙」を要求するであろう。かくして、衆参同時選挙が行われることになれば、小沢さんの「生活の党」は大勝利を収める。多くの候補を擁立すれば、単独で政権を掌握できる可能性すらある。そこまで読んで、小沢さんは未来の党に合流したのではないか?であれば、ものすごい智謀家であると言える。RKもタジタジである。
(48ページ)

選挙の前からそのつもりであったとすら推測できるのだ。解党に際しての小沢さんと嘉田知事の笑顔がすべてを物語っている。有権者の大半には理解できなくても、やっぱり、小沢さんは当代随一の策士なのだ。
(162ページ)

RKもタジタジである」の記述には思わずふいてしまった。

上記の陰謀やらあるいは小沢氏による反計は、あくまでリチャード氏の脳内だけの話で、当然ながら小沢氏はそんなことを一言も言っていない。
小沢氏の未来の党の合流とその後の大敗をすべて自分のいいように解釈し、「智謀家」と讃え、勝手にタジタジになっているのだ。

引用文を読んで気づいた方もいるかと思うが、本書では小沢氏のことをほとんどの場合において「小沢さん」と“さん付け”で呼んでおり、強く親近感を持っていることがうかがえる。

相手を勝手に自分にとっての理想的な人間と決めつけ、信じ込み、それに沿うよう状況を解釈して一方的に強い好意を抱いている。
これが色恋沙汰ならストーカーといわれてもおかしくないだろう。

ただでさえ今の生活の党は存在感を示せておらず、7月の参院選で苦戦を強いられるだろうに、こんな変な人に変な期待をかけられていて実に気の毒なことである。
しかもリチャード氏は『独立党員諸君、7月4日(木)千葉に集まってください。』の記事で、ネットの中から一歩踏み出し、生活の党の議員を応援するつもりである事を表明している。

あまりかけてあげられる言葉はないが、せめていうなら「小沢逃げてー!」である。

 

……以上が当方の『12・16不正選挙』の紹介。
ここ2作の出来には非常に不満があったのだが、それを吹き飛ばしてくれる怪作に仕上がっている。
トンデモ本としての評価は★4つはつけたい。

これだったら、来年のトンデモ本大賞に候補作としてノミネートされてもおかしくないのではないだろうか。

不正選挙諸説

あくまでリチャード・コシミズ独立党で取り扱われているものが中心になるが、不正選挙説で乱立している説を紹介&できるだけ解説。

 

◆集計陰謀説

各開票所の開票結果を集計する際に手を加えて思い通りの選挙結果に導くというもの。

他の手段の非現実性を考えるとこれが最も妥当に思えるのだが(といっても他の説と同様に証拠がない)、リチャード氏はこの説についてそれほど力を入れていない。

集計時、開票の最後の最後に手を加えるだけでいいこの陰謀が、開票作業や投票用紙に手を加えるよりも実現可能性があることはリチャード氏自身、『「開票所で不正をはたらくことは困難だと思います」 』の記事で言及している。
しかし、選挙後に寄せられる不正選挙に関する「証言」は開票作業や投票用紙におけるものばかりのため、リチャード氏の言説は「よりありえない説」の方に流れていってしまったのだろう。

集計に手を加える陰謀は徹底的に人目を避けて行うことが出来るだろうから、この陰謀説を証言する人がいるとすれば「私がやりました」というレベルの超重要証言になるだろうが、今のところそういう人物はあらわれていないようである。

 

◆低投票率陰謀説

投票率が低いのは陰謀である!という説。

投票率が低くまり浮動票が減ることで、組織票を得やすい政党が勝ちやすくなるという陰謀なのかなと思ったらどうやらそうではない様子。

今回の選挙の投票率は、実際には69%くらいあったのだけど、そのうち10%分に当たる約1000万票(すべて未来の党得票分)が何らかの方法で破棄されたため、全体の投票率が下がったのだ、ということだそうな。

本来の投票率が高かったという根拠は「投票所が混んでいた」という証言がいくつもあったからというもので、69%という投票率の根拠は2009年の衆議院選挙の投票率がベースとなっている。

投票所の票に書き込むための台はそれほど数があるわけではないし(しかも東京都では小選挙区・比例区・最高裁判事審査・都知事選と重なるため、一人が投票所を出るまでに消費する時間も多くなっている)、冬の投票なのでみんな明るく気温が温かい時間を選んで投票しに行けば込み合う時間があってもさほど不思議ではない。
「自分の行った時間には投票所が混んでいた」という証言を集めてくれば、さもずっと混みっぱなしだったかのよう見えるかもしれないが、混んでいなかった投票所、時間帯も多くあっただろう。

前回の選挙が69%だったから今回も同じだけあるというのはあまりにも話が適当である。

また「投票を呼び掛ける宣伝カーを減らす」、「投票所入場券を送らない」、「投票所を変更する」、「投票時間を繰り上げる」などで実際の投票率を減らす努力もして、票を書き換える負担を減らしていた可能性もあるという。
こっちはこっちで効果があるのか微妙だ。

 

◆「票数の不一致」の諸説

票の数が合わないという説で何パターンか存在する。

1.「都知事選と衆議院選で投票数がものすごく違う」説

なんと100万票以上もの差があるというのだ。
しかしこれは本当にどうしようもなく頭の悪い話である。
改訂版: この情報、みなさん、再検証してください。』の記事に示されているリンク先をよく見てみればわかるが、総務省HPのデータというのは第19回参議院議員通常選挙結果である。実施されたのは2001年。
数字が大きく違っていても何も不思議ではない。

2.「未来の党の候補者が小選挙区で獲得した票よりも、比例区で未来の党の獲得した票の方が少ない」説

独立党の中の常識では、小選挙区の獲得票と比例区の獲得票はほぼ同じになって当たり前のようである。
しかし、党を超えて人気のある政治家というのはいるだろう。
小選挙区でとった票の数が比例区で党がとった票よりも多いということは、その政治家が「人として選ばれた」ということだろう。
「党への票数=政治家個人への票」で完全に合致してしまうなら、そもそも小選挙区で選挙をやる意味はないだろう。
比例区だけで十分になってしまう。
未来の党は選挙直前に生まれた党のため、党としての実績はまだないし、人気がまだまだなのも仕方がないように思える。

ちなみに選挙結果全体で見てみると、未来の党の比例区での総得票数は小選挙区よりも多い
小選挙区で候補がいない選挙区でも未来の党がある程度人々の期待を集めていたということではないだろうか(維新の党の比例区での得票は多く、小選挙区の2倍近い数の票を得ている)。

大勝を収めた自民やボロ負けの民主は比例区での得票は小選挙区よりもずっと少ない状態となっており、選挙結果全体を見る限り、リチャード氏らの唱えている陰謀の目的とはむしろ逆の結果になっているように思える。

3.「発表された各党の得票と、その合計の数があっていない」説

Wikipediaに乗っている得票数の表およびその出典元となっている時事ドットコムの表では、小選挙区での各党の票数を足し合わせた数と票に乗っている合計数が2票ほど違う、という説。

確かめてみたが確かに2票違う。
これは単に時事ドットコム側の計算間違いだろう。

ちなみに、『未来の党の実際の(小選挙区)得票数は?』で引用されている画像では比例区の票数も違うと書かれているが、これは民主党の獲得した票数をあやまって計算しているためである。
元となったデータでの民主党の票数は9,628,653票であるが、画像では9,268,653票となっている。どうやら一部の数字を逆に入力してしまったらしい。
このため、画像制作者の計算結果と、時事ドットコムの表における計算結果とではぴったり360,000票の差が出てきている。

4.「神奈川3区の速報値が開票所と選管発表で違う」説

これは『インチキ選挙 at 神奈川3区 』、『インチキ選挙:神奈川3区小選挙区 』の2記事で言及された神奈川3区の話。
神奈川3区の開票所に掲示されていたという23時現在の速報値を書いた紙がツイッター上にアップロードされたが、そこに書き込まれていた速報の票数と、神奈川選管発表していた23時現在の速報値が異なっているという話。

この話は他の話と違って「掲示板の写真」という物証が出てきたため、非常に興味をそそられる説である。
アップロードされた写真では、23時現在で開票されたのは4,000票で、開票率は3.61%と記入されている。
しかし、神奈川選管の速報で神奈川3区の23時現在の開票状況をチェックすると、開票された票数は17,000票で開票率は7.15%となっているのだ。

同じ選挙区・同じ時間の開票データのはずなのに開票数と開票率が大きく違っているため、「おかしい!」となっているようである。

しかし実のところこの2つのデータは矛盾していないのだ。

2つのデータを比較して注目するべきは開票率の%と開票数の関係である。
神奈川選管は17,000票開票して開票率が7.15%だが、写真では4,000票開票されて3.61%となっている。
もし2つが同じ投票数をベースにして開票率をはじき出しているならこれはおかしいのだ。
17,000票で開票率7.15%なら、その4分の1以下である4,000票なら1.8%より小さい%になるはずである。
2つのデータは基礎となっている母数が違うのだ。

神奈川3区には2つの自治体(鶴見区・神奈川区)が属しており、それぞれに開票所が存在している。
投票者数は以下のとおりである(出典:衆議院小選挙区選出議員選挙の結果 [PDFファイル/1.03MB])。

神奈川3区(合計) 横浜市 鶴見区 横浜市神奈川区
237,614 126,863 110,751

神奈川選管が発表しているのは、神奈川3区全体の開票速報である。
実際、開票済17,000を投票者数237,614で割ったあとにパーセンテージで表示するための100をかけると、その値は「7.15446059575614…」となる。四捨五入すると7.15%だ。

同様の計算方法でアップロードされた写真にあるとおりに4,000票が3.61%となるのは神奈川3区のうちの神奈川区のみの場合である。
4,000÷110,751×100=3.611705537647516… で、四捨五入すれば3.61%となる(鶴見区の人数で計算すると3.15%になってしまう)。

つまり神奈川選管の発表が神奈川3区全体の開票状況を報じたものであるのに対し、ツイッター上にアップロードされた写真の掲示は神奈川区のみの開票状況を書いたものだったのである。
全体を表示したものとそこに含まれる一部にクローズアップしたものでは、数字が違っていて当たり前で、何も不思議な点はなかったのだ。

リチャード氏はどうやら同様の指摘を既に受けていたようで、『インチキ選挙:神奈川3区小選挙区 』に「「ほかに開票所がもう一箇所ある」のはわかっています。「開票しないで帰ってしまった」のが疑惑を呼んでいます。」と書いている。
しかし、掲示板の票数と開票率は食い違っているように見える物証が提示されていたからこそ注目に値したが、「23時に開票が終わりみんな帰ってしまった」という証言については「23時に開票が終了した」という証拠が提示されておらず、そのまま信用するには値しない話である。

◆投票箱交換説

投票箱をそっくり入れ替えて、思い通りの選挙結果を出す!というかなりの力技。

後述するいくつかの力技もそうだが、とにかく露見するリスクがやたらと高い。
交換するチャンスがあるとするならば、投票所から開票所にいくまでの間ということになるだろうか。
ということは投票箱を運搬するスタッフは陰謀にもろにかかわっていることになるだろう。
もちろん車の運転手も陰謀組織の仲間である。
タクシーで運ぶなんてことをやったら、外部の人間に情報が漏れてしまうのでこれはできない。

一体何人の人間が必要だろうか?
最低限投票所の数だけは用意しなくてはならない。
もし投票箱の運搬に複数人立ち会うことと決まっていれば、必要とされる人員は倍増するだろう。
大勢の人間がかかわれば、情報漏えいのリスクは当然高まる。

リチャード氏によれば、入れ替え用に別途投票箱を発注したかもしれないとのこと(『開票立ち会いの製造方、投票箱業者の方』)。
陰謀にかかわった人間の数は万単位に及んでいるのではないだろうか?

だが、今のところ物的証拠は出ていないようである。

 

◆票書き換え説

鉛筆で書かれた票を書き換えることで思い通りの選挙結果を出す!というやはり力技。

投票箱すり替えのためにニセの票を書きまくるのも大変だが、こっちの陰謀では文字を消すという作業が追加される。
投票箱すり替えの方がまだましである。

だいたい投票終了から開票まであまり時間もないのにこんなことやっていられないし、人員がどれだけ必要になるのかわからない。

かなり話にならないアイデアなので、さすがのリチャード氏も棄却するかなと思っていたのだが、「書くのが大変なら、印刷すればいいじゃない」という発想に至ったようで、プリントした紙からインクを取り除く「アンプリント」技術やリライタブルプリンターや、ペンシルプリンターといったものに目をつけて「実現可能」と考えているようである。

しかしアンプリント技術はまだ生み出されたばかりで実用化していないし、投票用紙の元々の印刷まで消してしまいそうである。
リライタブルプリンターは専用の紙を使うことが前提であり、鉛筆やその他のペンで書かれたものを消すようなものではない。
ペンシルプリンターに至っては、まだ概念でしか存在していない物である。

これも今のところ物的証拠は出ていないようである。
加えていうならば、投票箱交換と票書き換えはどちらか一方しかやる意味がない陰謀である。

 

◆票の処分に関する諸説

これは票の書き換えよりは投票箱の交換にかかわる説になると思うが、すり替えられてしまった本来の票はどこにあるのかという話。

これはリチャード氏自身が説を乱立させている状態である。
焦げ臭い異臭があったことを報告するコメントが来たことから焼かれてしまったのではと考えたり、一般人が入りにいため発覚しにくいであろう在日米軍基地内にあるのではと考えたり、「すでに処分されたに決まっている」としつこく言う人がいるのでまだ残っていると考えたりしていてひとところに収まらない。

いずれにしても物的証拠は出ていないようである。

 

◆蓋然性の問題

とにかくどの話にしても物的証拠がないのである。
神奈川3区の話だけは根拠として写真が提示されたが、それも検証した結果、特に不正選挙を示すようなものではないことが分かった。

証言はいくつか出てきているようだが、それ自体が嘘話であるかもしれないし、そもそも個人がどう感じていたのかという主観的な感想の領域にとどまるような話ではどうしようもない。

「可能性がある」という言葉でありとあらゆる思い付きを同等の価値があるものとして扱ったりしたら、それこそ無限に陰謀説は乱立してしまう。

証拠を見つけ蓋然性を高めなければ、陰謀説はたとえいくつあろうとも真実にはならない。
クズ情報でしかないのだ。

 

【2012/12/28】 神奈川3区の開票数と開票率に関する疑惑の検証を追加しました。

参考記事のリンクは長いので分割しました。

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