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10年目の9月11日

大分時間が経ってしまったけれども、今回は9月11日に行われたリチャード・コシミズ講演会『911、オウム事件、そして311』について。

◆その前にちょっと別の「911」

10年目の9月11日に活動をしていた陰謀論者は何もリチャード・コシミズだけではない。
日本国内ではよりメジャーな911陰謀論者であるきくちゆみ氏のブログ記事『911はBE IN TOKYOにスカイプ生出演します』によれば、9月11日に映画『ZERO:9/11の虚構』のDVDが発売開始となったという。
また、きくち氏が主催者ではないが、同映画の上映会も会津若松で行われたらしい。

この映画については3月19日に開催された『911事件を検証する公開討論会』においてその内容の是非について討論が交わされている。
大震災から8日後という時期が時期だっただけに、あまり注目を集めなかったかもしれない。

公開されているPDF形式の資料(『ZERO:9/11の虚構』について(総論))を読めばわかるが、映画の内容について911陰謀否定側から、明らかな誤りがあること(「ペンタゴンにあいた穴が5mしかない」、「ペンタゴンの敷地内に入った飛行機は即座に撃墜される」といったエピソード)が指摘されいる。
とくに「ペンタゴンにあいた穴が5mしかない」という話については日本語訳を行ったきくちゆみ氏、童子丸開氏さえ誤りであることを認めているが、映像内でそれらの誤りについて何のフォローも入っていないという(童子丸氏に至っては、この件について開き直った文章まで書いてることを指摘されている)。

真相究明運動側は、かつてこの映画を東京で公開したときには「5mの穴」については誤りである旨のパンフレットを配布したというが、大阪で公開したときにはパンフレットの配布がなく、フォローが十分になされていなかっという指摘がある。
会津若松の上映会でこの誤りについてフォローがなされているのか不明だが、DVDについては通販用ページにてパッケージを見ることができる。

「ペンタゴンビルの2階部分」と書き込まれた写真の「5mの穴」が丸で囲まれていて、そこには白字でキャプションがついている。画像の解像度の関係で正確に読み取ることはできないが、77便の翼などがどこを通ってビルに入ったのかというような疑義を投げかける文章のようである。
この「5mの穴」の下、ペンタゴンビルの1階部分に30mほどの穴が開いていることは書かれていない(画像では「5mの穴」の下が放水作業によって隠れてしまっている)。

結局、真相究明運動側は「指摘されれば認める気はあるが、できることなら騙し通して自分たちの側に引き込みたい」のだろう。
真実を追及すると公言している立場の人間がウソついてどうするんだか。

 

◆『911、オウム事件、そして311』

さて今回の動画。
内容としては10年目という節目にリチャード・コシミズの陰謀論をおさらいするもの。
残念ながら新しい情報はそれほどなく、これまでにきいたことのある話がほとんどであった。

911に関する話はそのほとんどは他の陰謀論者が過去に口にしたもので、大体の話に関してすでに反論がなされている。

「シルバースタインが保険で儲けた」
(保険金をもらってもビルの再建費用で赤字)

「WTC7が崩壊前にBBCのキャスターが倒壊を報じたのは事前に計画を知らされていたから」
(単なる誤報)

「アーロン・ルッソがロックフェラーから誘いを受けた」
(ルッソは政治運動家としての側面も持っていた人物で、反体制的なドキュメンタリー映画を撮っていたりする。体制側が彼を起用する合理的な理由がまったく見当たらない。彼以外の陰謀にかかわった全員が真実を黙っていると考えるより、彼ひとりがウソを言ってると考えるほうがはるかに筋が通る)

「公式説ではジェット機の燃料火災でビルが崩壊したことになっている」
(火災によって鉄骨が強度を失い、ビルを支えきれなくなったから崩壊した。火災の熱エネルギーのみで崩壊したなどとだれも言ってない)
など、いまさら感の漂う話ばかり。

講演のタイトルに偽りなしで、このほかにもオウム真理教や311人工地震説を話題に上げているが、これまでに聞いてきた話が中心で、これらの話全体を紹介する気にはなれない。

ただそんなほとんどが聞き飽きたという話の中でも、わずかに光るものは見つかったので紹介したい。

 

◆ビンラディンのこと

「ビンラディンがユダヤの手先である」という主張自体はいまさらで、それ自体に新味はないのだが、その死についての発言がこれまでの物とは変化している。

『小説911』ではビンラディンは同時多発テロの際に生存していることになっていたし、ビンラディン暗殺のニュースが飛び込んできた際には、彼が生存しているという主張をしていた(『ラディン暗殺:オバマ大酋長の緊急声明?』)。

だがその1か月後には「10年前には死んでいたのでは?」という意見をほのめかしており(『ユダ金の御用達過激派、ビン・ラディンさんは10年前に死んでいた?』)、今回の講演でも『10年前に死亡説』を述べている。

「おそらくね彼ね、CIAの支局長とあっているころ、かなりもうやばかたっと思う。腎臓病。人工透析受けに来てんです。ドバイに。あの年齢で人工透析がかなり進んでいるとなると、まあ日本でもね、医療の進んだ日本でも5年生きればいい方なんです。で、まあもちろんうまくやれば10年。さらには腎臓移植をすればもっと長く生きられるんだけども、そうそう簡単に自分に合うような腎臓が見つかるわけでもないし。ということで、ちょっとまだわからないけども、ビンラディンは10年前に死んでいたであろうと」
(動画03/08 2:14~)

人工透析をして5年持たないというのは必ずしも腎臓病患者に当てはまらないだろう。日本では全透析患者のうち10年以上続けているという人は25%にも上るという。
日本だからこその数値ともいえるかもしれないが、人工透析を理由に10年前に死んでいたというのは厳しい。

それにビンラディンは911事件から暗殺まで全く姿を消していたわけでなく、ビデオを通してメッセージを発してもいる(その中には911への関与を認めるものも含んでいる)。

10年前に死んでいたということは、それらすべてのビデオの存在に真っ向から対立することになってしまう。

 

◆オウム真理教のはなし

世の中の大事件のいくつかにおいてゆがんだ視点を持つリチャード氏は、オウム事件についても独自の見解をもっている。オウムが在日米軍基地でテロを起こし、その救援に在韓米軍が出動。そこを突いて北朝鮮が南進してくるという計画があったと彼は主張している(元ネタは週刊誌の記事で、リチャード氏オリジナルとは言えない)。

「オウムが、もし、1995年の11月に国内テロをやっていたとしたら、それによってまず横田の通信機能が阻害される。
そうすると、横田ってのは極東の米軍の情報のコアになってるから、まったく情報が東から西へ、北から南に流れなくなる。大きな混沌が生まれるんです。
そこを突いて北朝鮮が南に軍隊を送るわけです。
もし、このオウムの計画が実行されてればの話です。じゃあなんであきらめたのか?
おそらくいくつかの理由があったと思うんだけれども、有力な理由と思われるものは二つ。
一つは坂本弁護士が止めた。坂本弁護士がオウムの背後に北朝鮮があることをつかんだ。
もしそれをつかんでいたとしたらば、坂本さんを、が、どんな情報を誰に伝達していたのかわからない。
怖くて行動ができない。あきらめた。撤収した。というのが一つ。
もう一つは、金正日がクーデターでもって、北朝鮮の内政自体が危なくなってしまった可能性があるかもしれない。クーデターが起きてしまって、オウムの本番どころじゃないよと言うことで一旦撤収をしたと思う」
(動画06/08 1:11~)

1995年11月にそんなテロが起きなかったのは、「そんな計画が存在しないから」というのが一番の理由だとは思うんだが、そうじゃなかったとしても3月22日にオウムが強制捜査を受けたり、5月に教祖が逮捕されたりで、組織として行動を起こすどころではなかったからだろう。

坂本弁護士のくだりもちょっと意味不明で、もしリチャード氏の言うようなことがあったがために「どんな情報を誰に伝達していたのかわからない。怖くて行動ができない」のなら、坂本弁護士一家は今なお存命中であったのではないだろうか。
もし誰かが坂本弁護士からオウム真理教に関する何か重要な情報を託されていたのなら、はやければ一家が行方不明になった1989年に、おそくとも1995年の犯行にかかわった信者の自首や遺体発見後など、オウムが事件にかかわっていたことが確実視できる時点で公開していそうなものである。

講演ではこの後、このオウム国内テロの計画は今年の地震の後に実行される計画だったんだけど、独立党がネットで騒ぐことで阻止出来たんだとかなんとか、そういう虚しい自画自賛に突入する。

 

◆911陰謀論が拡大?

「最近ですね、9.11のいろんな疑惑について、やっと世の中が目を向け始めた。
今までは9.11が内部犯行だなんてことを一言でも言うと、「頭のおかしいやつ」というひとくくりな扱いだったんですが、それがアメリカでも、しかも日本でも変わってきたと。
たとえばこないだ産経が、短い記事だったんですが、アメリカで「9.11がイスラムゲリラの犯行ではなくて政府の犯行であると思う人」それからもう一つは「イスラエルの犯行だと思う人」という意見を持った人がそれぞれ15%とか8%とかいるというような共同通信の記事を配信したんですね。
これは結構大きな話でして、もちろん全体としてはそんな「911の謀略なんてのは荒唐無稽な与太話であるよ」という風な扱いなんですが、実際15%の人からが「政府がやったんだよ」と思ってる、ということを記事にしただけでも大きな進歩であると思うんですよね。
これはやっぱり、10年かかった!でも、そこまで来るのになんと10年もかかってしまったんだけれども、いずれにせよ我々はやっとそこまで来たということだと思うんです」
(動画01/08 5:36~)

上記の発言の通り、リチャード氏は現状を「911陰謀論支持者の数がここまで拡大している」という認識で話している。
他の米でのアンケート(「ビルは制御解体されたと思うか?」など内容はちょっと違う)の結果でも、911陰謀論には大体15%位の支持者がいることがわかる。

しかし、増えてるだろうか?911陰謀論支持者。
15%って数字はむしろ減りに減ってそこまで落ちてきた結果だろう。
ちなみにSkeptic’s Wikiの記事によれば、アメリカで幽霊の実在を信じている人は37%。負けてるぞ。

日本の「911真相究明国際会議」は2006年、2008年、2009年と3度やっているが、2008年をピークに参加者数は減少していったようである(ピークという表現を使うほど回数やってないが)。
きくちゆみ氏のブログの記事によれば、2006年の定員は250名を予定していた(パーティは500人)が、参加希望者多数につき急遽120人分増やしたというので合計370名。2008年は約500人、2009年は約300人だったようだ。
これをもって日本国内の911陰謀論支持者の推移を断じるのは不可能だが、こういったイベントにわざわざ参加するほど強い関心がある人間は減ってきているのではないだろうか。

アンケートの結果が記事になったことを一つの進歩ともリチャード氏は考えているようだが、単に911から10年という節目だったからではないのだろうか。

 

◆B層への怒り

アメリカで15%という数字を誇る911陰謀論者。
私見だが、最近沈静してきた911陰謀論とはいえ、それは単に話題に上がらなくなってきただけのことで、「なんとなく信じている」というレベルの人も含めれば日本の方が多いんじゃないかと思う。
だがしかし、たとえ911陰謀論を支持していたとしてもリチャードコシミズ理論(という名の妄想)の支持者ではないわけで、『純粋水爆説』を振りかざすリチャード氏など相手にしない。
彼はそんなB層(というか世間一般)に対する怒りを隠そうとはしない。

「おそらく、3月11日から6ヵ月たちましたので、3.11と9.11が同根であるということはもう十分理解できてると思うんですね。
で、ところが残念ながら、我々のグループを一歩外に出ると、馬鹿が!歩き回ってるわけです。
で、その人たちは全く何もわかってないんです」
(動画01/08 4:14~)

「このまま、アメリカ経済が破綻したら、我々日本の経済も連鎖倒産しますよ。こんなことやってれば。
もう、際限なくどんどんどんどん金をつぎ込んでる。で、財源がないんだから。
財源なかったらどうすんのかっていうと、国債国債国債。国の借金がどんどんどんどん膨らんでいく。
それわざとなんです。
要するに、日本というものの社会の価値をね、低く見せるためにやってるんですから彼らは。
つまり、金融ユダヤ人が安く買えるように、価値を下げてあげてるんです。一生懸命。
安くしたら、ユダヤ人がごそっと買いにくる。
そういうスケジュールがあるわけです。
で、私はそれでいいと思ってます
なぜいいかというと、このままいくと、日本は本当に国家デフォルトします。アメリカ同様に。
大変なことになります。
そして今まで惰眠をむさぼっていて何もわかってなかった世の中の人たちがびっくりして目を覚ますと思うんです。
『なに?日本が、破産?なに?そんな馬鹿な!?』と、『そんな馬鹿な!?』からやっと覚醒が始まる。
そうでないと、この国の馬鹿どもの!目が覚めない!いつまでたっても目が覚めない。
我々がこんだけ一生懸命懇切丁寧に、誰でもわかるような話をしてても、そっぽ向いてる。」
(動画07/08 1:10~)

「馬鹿ども」に冷や水を浴びせかけるためならば、謀略組織の好きにさせておいても構わないようだ。
何と、何のために戦ってきたんだっけか。
「自分を相手にしてくれない世界なら、いっそ滅んでしまえ」という呪詛にも聞こえてくる。

残念ながら「人々から理解されなくても人類のために戦う」というタイプのヒーローにはなれないようである。

どっちかっていうとマッドサイエンティストっぽいぞ。

 

◆これが日本の陰謀論メーカーの実力か!

陰謀論の罠 The Trap of Conspiracy Theories』(光文社ペーパーバックス)の中で、著者の奥菜秀次氏は陰謀論にはメーカーとプロモーターが存在すると指摘している。

メーカとは陰謀論を作り出す人のこと、プロモーターはそれを広める人のことを指し、日本にはプロモーターばかりであると指摘している。

確かに日本で911陰謀論を唱える人間というのはプロモーターばかり。
きくちゆみ氏はもちろんのこと、「911の真実を求める科学者の会」の西牟田祐二教授や、予算委員会で陰謀論を語った藤田幸久議員など。
みな、アメリカの陰謀論メーカーからの受け売りでしか911を語っていない。

リチャード・コシミズ氏とてその例外ではなく、情報源が海外のマイナーな陰謀論サイトの記事だったりするから認知度が低いというだけで、911に関して、自分自身で考え出した陰謀論というのは絶無に等しかった(『純粋水爆説』も米国産の『小型核兵器説』の変形である)。

だがしかし、普段ブログで唱える話は時事問題を彼自身の貧しい想像力で陰謀に結び付けたものが多く、決してただただプロモーターをやっているだけではない。

そして今回の講演。
911に関してリチャード氏は独自の説をごくわずかだが唱えている。
そしてその陰謀論メーカーの実力のすさまじさに私は震えた(肩が)。

「ちょっとこれ新しい話なんだけれども、WTCの地下に鉄が溶けたプールみたいなものが何か月もの間ずーっと存在し続けていたという話はみなさん聞いたことあると思うんですが、なぜ何か月も存在したのか?
やっと最近になって私も分かってきた。
単純に溶けたものは水をかければどんどんどんどん温度さがりますよね?そして、固形化しますよね?
そんな半年もかかんないでしょ。
ただ、かかるケースが一個だけある。
もしそこで核分裂が、非常に弱い核分裂がずーっと起きていたらどうなりますか?
つまり、なんていうんでしょ、メルトダウンみたいなものが例のWTCの地下で起きていたがゆえに5ヶ月とか6か月のあいだずーっと放水を続けざるを得なかった

(動画03/08 6:35)

この発言のハチャメチャ振りは尋常ではない。

元ネタは「911から4,5週間経ったWTCのガレキ撤去の現場で、溶けた鉄のプールがあったのを目撃した人間がいる」という話だと思う(結局のところ証言だけが存在していて物証は何一つない)。

それがこんな話に化けてしまった。

一体そこで何が核分裂していたんだろう。
文脈から言って鉄そのものが核分裂していたというつもりはなさそうだ(だったら無茶にもほどがあるが)。
なんでWTCの地下にそんな核分裂するようなもの(ウランとかプルトウニウム?)が存在していたのか、何がきっかけで核分裂をおこしたのか一切説明ナシである。

しかもそんなものが半年間も核分裂し続けていたとは、また輪をかけて酷い。
「非常に弱い核分裂」なんて言ってるが、それでも熱で鉄が溶けてプールみたいになるというのなら結構な反応じゃないのか。
しかもそんな放射線源が半年も水をかけてるだけって……。
「911の5年後、10年後に癌患者が増える」とかそんな生易しい話じゃすまないだろ!

そもそも「グラウンドゼロのあたりで核兵器が使用されたに違いないのに放射能が検出されない」ということの言い訳として『純粋水爆説』が出てきたのに、こんな目立つ放射線源があったら検出されないはずがないだろう。
自説とさえ矛盾を起こしているこんな奇説を堂々と語る肝の太さには恐れ入る。

リチャード氏は最近の記事にて日本の工業力は最強と謳っているが、残念ながら陰謀論に関しては品質がすこぶる悪く、米国産に道を明け渡すしかないようだ(べつにいいけど)。

そして講演会の締めにあたる質問コーナーでは、この「正気」の2文字からほど遠い説に対して、詳しい説明を求めるような声が一切上がらないのである。

 

講演の中で独立党は人口の5%を目指していくとのたまっている。
しかし、こんなどうしようもないボケにさえツッコめない人間の数を人口の5%まで到達させるのは、極めて困難だ。
支持者を増やすよりも、母数となる人口を減らしたほうが簡単かもしれない。

 


《参考動画》
911、オウム事件、そして311

《参考記事》
ラディン暗殺:オバマ大酋長の緊急声明?
ユダ金の御用達過激派、ビン・ラディンさんは10年前に死んでいた?
結局、日本は世界最強常勝工業大国だということです。さてそろそろ世界経済、独占しましょう。
richardkoshimizu’s blogより)

911はBE IN TOKYOにスカイプ生出演します
♪ 発表!911真相究明国際会議 ♪ – 24分06秒 – 5.6 MB
グリフィン博士、参加してくれたみなさん、ありがとう!』
東京は大成功、明日は名古屋に結集
きくちゆみのブログとポッドキャストより)

ZERO:9/11の虚構

映画「ZERO」への補足

911事件を検証する公開討論会

その他 (911陰謀論)』(Skeptic’s Wikiより)

ビン=ラディン2004年10月声明

《参考図書》

リチャード小説を読んで:「3.11同時多発人工地震テロ」(2)

前回は小説としての「3.11同時多発人工地震テロ」の小説としてのツッコミどころを書いたので、今回は陰謀論としてのツッコミどころを書いていく。

◆二重に架空を重ねた上に成り立つ人工地震説

タイトルの通り、人工地震がこの本のメインになるが、説得力は今一つ。

本書の中では人工地震を起こす方法については「推測しています」とか疑問形でRKが語ることが多く、「具体的に3つの地震をどうやって起こしたのかは、まだよくわかっていません」とさえ言っている。

未遂に終わった分を含めると膨大な回数行われたはずの人工地震が起こされた現場を一つとして押えてないのだから、当たり前といえば当たり前ではある。

しかしそんなことを言っててもせんないので、リチャードコシミズ人工地震説をまとめてみる。
75~78ページの記述を中心に、他のページの描写なども参考にして組み立ててみた。

深海掘削船で10㎞海底を掘る 。掘削船のドリルで深さが足りないときは、バンカーバスターを多数打ち込んで掘る

潜水艦で孔の底に核兵器(水爆、都市部に近いところでは純粋水爆)を設置し、爆発させる

爆破の影響でマントル層まで亀裂が走る

亀裂に水がしみていく(10時間とかかかる)

するとマントル層で核融合反応が起きやすくなる(あるいは起きる)

大地震

この仕組みの重大な欠陥は「マントル層での核融合反応が地震となる」という理論(以降、提唱者である故 山本寛氏の名前から山本理論と表記)が科学的に証明されていないことだ。
そもそもリチャード氏自身、山本理論を「まだまだ一般に認められたものではない」(78ページ)と書いている。
「まだまだ」と書いているがおそらく将来的にも認められることはないと思う。

純粋水爆を含めた膨大な数の核兵器運用と山本理論、証明出来ていないものを二重に使うことで人工地震説は成り立っている。

それはつまり、この人工地震説が現実とかけ離れた妄想の領域を出ないということだ。

また、人工地震兵器というものが2011年3月11日より日本で使用されていたと考えると、実用性の面で非常に難があることも、「人工地震説」に説得力がない一因である。

余震の回数を考えると、人工地震というのは恐ろしく成功確率が低い。

本書の中でも人工地震の多くが失敗に終わっているということは書かれている。

こんなものがはたして軍事技術と呼べるのだろうか。
人工地震は1940年代に確立された「陳腐な旧式の大量破壊兵器」らしいが、こんな下手な鉄砲を数撃って当てなきゃならないような戦法を採用するなど非合理の塊だ。

本書では1944年12月の「東南海地震」、1945年1月「三河地震」を人工地震による攻撃であったとのほめかしているが、現在のこの非効率な「人工地震」のありさまから考えると、1944年12月から翌1945年1月までの期間に例年に比べて非常に多く余震があったということだろうか?

そもそも第二次大戦中にアメリカにそんな攻撃ができたとしたら、地震攻撃のことをわざわざ隠す必要はないだろう。
地震兵器を種に日本に降伏を迫ることができただろうし、共産主義圏を牽制することもできただろう(リチャードコシミズ理論によればWWⅡも共産主義もユダヤ人の陰謀らしいのでどうとでもなってしまうのだろうが)。

また本書で書かれている内容が事実なら国内に数百発を超える核兵器があったことになる点や、核爆弾を東北・関東中で埋めて回らなくてはならない準備作業に関して目撃情報等がない点など、人工地震説の問題点はほったらかしである。

◆気象庁がデータを隠したという話

この本に限らず、リチャード氏のブログや講演でもみられるが、気象庁が地震発生について行った記者会見の情報を後に隠ぺいしたと主張をしている。

隠ぺいされたとされるのは3月13日の記者会見で発表された「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」という情報のこと。
これが隠ぺいされ、一つの大きな地震だったということにされてしまっているというのだ。

「…〈前略〉… 気象庁が地震後数日の公式の会見で、ありえない地震だみたいな発言を残したのは、まずかったんでしょうか。人よっては人工地震を想起しますからね。
この記者会見の記事、早々とネット上から消されてしまいまして。裏社会さんには不都合な話だったんでしょうね。まあ、こっちは魚拓でもキャッシュでも対策はあるので構いませんけど。笑」

そして以後、「最初の破壊の後に、第2、第3の巨大な破壊が連続して起こり」といった当初の話は消え去り、ただ一回の普通の地震だったことに書き換えられているのだ。

資料・・地震情報(震源・震度に関する情報)
平成23年3月11日14時53分 気象庁発表
きょう11日14時46分ころ地震がありました。
震源地は、三陸沖(北緯38.0度、東経142.9度、牡鹿半島の東南東130㎞付近)で、震源の深さは約10㎞、地震の規模(マグニチュード)は7.9と推定されます。
〈後略〉
(72~73ページ)

文章からすると、書き換えた後の公式情報というのが「資料」として提示されている情報、ということになるのだろうか。

だとするとこれは相当におかしい。
見ればわかるとおり、引用されている情報は地震発生から7分後の速報段階の情報である。
マグニチュードが7.9で震源の深さは10㎞。
明らかに現時点での東北関東大地震の常識とは食い違っている。
今「テレビや新聞からしか地震の情報を得ていない人」に聞いてもマグニチュードが7.9だという人はおそらく非常に珍しいだろう。勝手に世間の常識を取り違えたか、引用すべき情報を間違えたか、あるいは勘違いをしているとしか言いようがない。

そもそも「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」という気象庁の発表は、隠ぺいも撤回もされていない。

気象庁HPには「報道発表資料」のページがあり、マスコミ向けに発表した情報はここで閲覧することができる。
今回の地震に関する様々な発表は「「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について」というタイトルが付けられ、発表された順に「第○報」と明記されている(5月27日現在で第45報まで発表されている)。[1]

この中で扱われている情報は余震に関するものが多いが、メカニズムついての発表も存在している。
「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」というメカニズムについては第15報(3月13日)と第28報(3月25日)において触れられており、その後の第45報(5月27日)までの間にそれらを撤回するようなメカニズムについての発表など一切存在しない。

最近では東大の井出哲准教授らのチームが断層破壊のメカニズムについて「深部→浅いところ→また深部」という順序で起こったと「3つの破壊」について解析を発表している。[2]

何も隠ぺいなどされていないのだ。

どうしてこの情報が隠ぺいされたなどと思ったのか、理解に苦しむ。

◆頼りない顔ぶれ

本書では説の補強材料として様々なコメントや文書が引用されているわけだが、どうにも独立党ブログのコメントに偏りすぎている。
コメント欄でいくら「人工的な臭いがする」とか「自然現象だと説明するレベルはとうに超えている」とかいった書き込みがあっても、それは結局のところ発表された情報に対する個々人の感想に過ぎず、「あっそう」としか言いようがない。

また、山本理論の主張に当たり、リチャード氏は同様の説を支持しているであろう人物として柴田哲孝氏の名前を挙げ、民主党議員 風間直樹氏の提出した質問主意書を紹介しているが、これもどうにも頼りない。

75ページ、135~136ページの阪神大震災人工地震説で紹介される柴田氏は作家。
下山事件を扱ったノンフィクション作品なども書いているようだが、阪神大震災陰謀論をテーマにした作品「GEQ」はフィクションとノンフィクションの要素が混じった小説である。[3]
135~136ページの文章を読む限り、阪神大震災人工地震説を成立させるために、山本理論を利用しているだけのように思える。
これではリチャード氏と同様、山本理論が事実でないかぎり、人工地震説は成立しないと言ってるようなものだ。

91~92ページにわたって紹介されている参議院質問主意書だが、単に山本理論を事実だと信じ込んでいる国会議員がいる、という話にしかならない。遺憾ながら。

質問主意書では、中越地震の震源地が二酸化炭素貯留地点から20キロという点からだったということで地震と二酸化炭素の封入を関連付けて質問しているが、これに対する福田総理の回答は貯留地点と地震を起こした地層に連続性はないので無関係、というものだった。[4]
風間議員は山本理論に基づいて地震と封入実験を関連付けて質問しているが、福田総理はプレート理論に基づいて回答しており、なんだかむなしいやり取りである。

この質問主意書を書いた風間直樹議員は第168回参議院災害対策特別委員会で、山本理論に言及した際、ホッカイロが温まる原理を核融合で説明するという珍プレイもやらかしている。[5]

◆犯人に関する証拠らしいものは無し

この本を最後まで読んでも、結局人工地震を起こしたのがユダヤ人である、ということは特に証明されていない。

でてくるのはせいぜい、イスラエルの医師団と仏大統領サルコジ氏(母親がギリシア系ユダヤ人。祖父の代にカトリックに改宗)が来日したことと、福島原発のセキュリティシステムにイスラエル系企業のマグナBSP社が関わっていたことくらいで、人工地震が金融ユダヤ人の指示のもと「世界ゴロツキ共同組合」によっておこされたと主張する根拠というものはない。

当然、文中に出てくる米軍や自衛隊に特定の宗教団体の信者によって構成された部隊があるという主張も証明されていないし、東京電力や気象庁、マスコミが陰謀にかかわっているという主張も証明されていない。

204ページから始まる「311テロリストがつくった缶政権」、「金融ユ●ヤの世界支配」(←本書では「ユダヤ人」は徹底して伏せ字で書かれている。18禁?)、「「311」同時多発テロ」、「世界ゴロツキ協同組合日本支部」までの4章の間で書かれている「世界の指導者層にはユダヤ人、隠れユダヤ人とその手先が大勢潜んでいて、過去の不幸な歴史の陰でユダヤ人が暗躍してきたにちがいない」という主張を真に受け、「だから今度の地震もゴルゴムユダヤ人の仕業だな!」とでも考えない限り、この本をいくら読んでもどのような根拠をもって人工地震を起こしたのがユダヤ人だとRKが考えているのかはわからない。

◆そのほかの主張について

計画停電陰謀説 (87~88ページ,149~155ページ)
計画停電は陰謀だという主張。
87,88ページでは、東京電力の原発17基が止まっても停電したことはないのに、今回福島の原発がダメになったから停電する、というのはおかしいという根拠を示している。

電力の供給量が足りなくなったのは、何も止まってしまったのが福島原発だけだからではない。ほかにも火力発電所の発電機が多数停止していたためである。[6]
計画停電が必要な理由に火力発電所がいくつか停止したことが挙げられていることについては、149ページでは触れてる。
しかし、火力発電が止まったことに関して特に反論は書いておらず、東電と政府の発表が唐突におこなわれたとか、テレビで解説がなかったなどと書いている程度である。

計画停電の電力を純粋水爆の起爆に使ったとも書いているが、過去の純粋水爆は常温核融合で起爆装置を動かしたと主張していたのに、今回は一般の電源で起爆していることに関して説明はない。

福島原発の建屋が吹き飛ぶ映像消音陰謀説 (58ページ,108ページ)
福島原発の3号機が水素爆発を起こした際の映像に日本のニュースでは爆発音が入ってなかったのに、YOUTUBEにアップロードされている海外のニュース映像[7]には3つの爆発音がついている、というもの。

同様の動画のコメント欄に反論が書かれているが「20㎞以上離れた位置からの映像なのに時間差がほとんどない」のはあきらかにおかしい。 音速から考えれば1分以上の時間差があるはずだ。
また、20㎞も離れたところまで音が届くほどの爆発なら、3号建屋の破壊だけですまないのではないだろうか。

「音つき」が確認できるのもYOUTUBEにアップされたものだけで、動画の元になったSkyNEWSの記事で確認できる動画には爆発音はついていない。[8]

緊急地震速報が外れるのは人工地震だから説(157~159ページ)
緊急地震速報が外れるのは、核実験(人工地震)はP波が強くS波が弱いため、地震速報システムが強いP波を感知して速報を出しても揺れを感じるような強いS波が来ないためである、という主張。

緊急地震速報が外れることについては、気象庁が見解を発表している。[9]

3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の発生後、同月12日03時59分頃の長野県北部の地震や同月15日22時31分頃の静岡県東部の地震など広域にわたって地震が多発しています。
このため、ほぼ同時に発生した複数の地震からのデータを適切に分離して処理できず、適切に緊急地震速報(予報及び警報)の発表ができない事例が発生しています。
改善方法については検討を進めていますが、直ちに対応することは困難な状況です。
(『緊急地震速報について』気象庁HP)

ほぼ同時に発生した複数の小さい地震の波を一つの大きい地震だとシステムが勘違いしてしまう、ということである。

ただ、この陰謀論についてはいちばん出来が良かったと思う。

怪しい黒い雲(85~86ページ、161~162ページ、184~191ページ、198~203ページ)
東京湾で純粋水爆が使用された際の熱によって海ほたる上空に黒い雲が出た、その後ねっとりとした根着生の灰色の雨が降り、雨にうたれた人間がその後、呼吸器や喉の不調の症状を訴えているという話。

雨に降られた後の咳って、ただの風邪ではないのか。

陰謀はユダヤの暦と一致する説(307~309ページ)
「ユダヤ裏社会は、ユダヤ教の暦や数字のごろ合わせにひどく拘る。」(307ページ)という主張である。

本書では2003年のイラク戦争の前祝いとしてピュリム(purim)の祭礼を行っていたとし、今回の地震もピュリムが最終戦争のタイミングとなりうるのだとか。

今年は3月20日がピュリムなのだそうだが、とくになにもおこっていない。地震そのものは9日も前だ。
イラク戦争にも「前祝い」と書いてあることからわかるとおり、ピュリムの当日に何かが起こったわけではない。

これで「ひどく拘る」と言われても困る。

それではこれまでに行われてきた陰謀の日付にはそういった暦との連動していたのだろうか?

911同時多発テロ、スマトラ沖大地震、バリ島ディスコ爆破事件、連邦ビル爆破事件。
過去にさかのぼれば明治維新や日露戦争、真珠湾攻撃など、リチャード氏がユダヤの陰謀によるものとする事件は山ほどある。
その中でどれほどの事件がユダヤ教の暦と連動しているのだろうか?

何でもいいからとにかく今回の地震とユダヤ人と関係づけたいという根性が見え見えである。

中・ロの救助隊を追い返したのに、ユダヤ人は受け入れているという説(113~114ページ,348~350ページ)
中国とロシアの救助隊が追い返されたのに、イスラエルの医師団や仏大統領サルコジ氏が日本に受け入れられたのは陰謀だ、という説。

引用記事を見る限り、中国とロシアの救助隊が追い返されたとは言えず、救助の任務を終えて帰国しただけにしか見えない。[10][11]
中国の救援隊は13日、ロシアの救助隊は15日から日本に入っており、どちらの帰国も日本での任務開始から1週間経過してからの任務終了である。[12][13]
救助活動は災害発生から短い時間が勝負なので、救助隊としての仕事は終わったと判断したための帰国だろう。

イスラエルの医師団やサルコジ氏は救助隊とはやることが別なのだから、時間的に日本入りがそれより後になっても不思議はない。

医師団は救助活動目的ではなく、避難所に人たちの健康管理に携わるために来たのだろうし、サルコジ氏はあくまで外交政策の一環だろう。

それぞれ役目が違うものを並べて比べてみており、まったく無意味な行為である。

人工噴火陰謀説(101~102ページ、286~306ページ)

地震だけでなく火山の活動もユダヤの陰謀という話。
本書からは外れるが、最近では台風もその仲間入りを果たしそうな勢いで、天変地異何でもござれのユダヤ陰謀論の気配。

とりあえず本書では、人工地震のほかに人工噴火も主張していて、核爆弾で地震波だけでなく噴火も起こせるのだという。

証拠として挙げられているのが鹿児島のソラマメから放射性物質がついていたという話[14]と、富士山の周囲の地震である。

鹿児島から放射性物質がついていたから、新燃岳で核兵器による人工噴火が行われていたという。

しかし鹿児島で核兵器が使われていたら、ソラマメだけではなく鹿児島のもっと多くのものから放射性物質が検出されていておかしくないはずだが、そういう報告が一切ないことと、ソラマメに付着していたセシウムとヨウ素はそれぞれ非常に微量で、核兵器を使用した結果の付着ならばもっと多量についててよさそうなものだという点がこの主張の弱いところである。

富士山については富士山を囲む形で地震が起きたことや「定点反復人工地震」が根拠とされている。
定点反復地震については「精度の高いデータで見てみる「定点反復人工地震」」で検証したとおり、速報段階の精度の低いデータを羅列しているから同緯度・同経度になっているだけで、実際にはそんなことはない、ということ。

富士山を囲む地震については、ブログ上で「正方形になっているのが人工地震の明確な証拠」[15]としていたが、本書ではこれについてはトーンダウンしている。

勿論、地震計の配置が正方形になっているから、震源の正方形が富士山を囲んでいるように見えるだけのことだ。だが、富士山が四方から攻撃されているのは間違いないのだ。
(291ページ)

過去の当ブログの記事「素人として、またいくらか書く気になったので」において「四角形になるのは当たり前」とは書いたが、それは「地震計の配置が正方形になっているから」ではない(地震計の配置なんて知らない)。
北緯35.3度、東経138.7度を基準に、緯度が0.1度高い座標と、経度が0.1度高い座標、緯度と経度が0.1度ずつ高い座標の4つ点があればそれが四角く見えるのは当然と書いたのだ。

ここの記事を読んだのか、他の誰かから言われたのか知らないが、軌道修正したもの、ズレていることには変わりがない。

放射性物質パニック扇動説(49~58ページ,108~112ページ,163~171ページ、245~246ページ、266ページ)
放射性物質が原発から漏出しているという報道は、国民の不安を煽り、パニックを引き起こし、日本に強権政府を樹立させるための陰謀である、という説である。

「震災後のパニックを拡大して暴徒化させ→混乱に乗じて311テロリスト・CIAにとっての邪魔者の抹殺→暴動鎮圧名目の統制国家化→中国との対立→極東戦争」(50ページ)というのがその企みらしいのだが、何とも飛躍が派手で、「いけない!ルナ先生」のようだ。

当然ながら「震災後のパニックを拡大して暴徒化」の状態にすらならなかった。

「反原発デモを暴徒化」というパターンもあるらしいが、頭の部分が違うだけで後はほとんど同じというワンパターンな代物。

確かに今回の地震後まもなくの報道では、国の安全基準を周知させないまま「自然の〇倍」といった表現を使ったことや、シーベルトの単位を揃えずに発表し、放射能への不安を煽ってしまっていた側面があったと思う。
また福島から来た人を泊めようとしなかった宿泊施設や、スクリーニング検査を受けるよう強要してしまった自治体(のちに撤回)など、誤った態度を取ってしまった人たちもいた。[16][17]

しかし、そういう報道や人々を煽っている/煽られていると言っている独立党はといえば、「人工地震だ」「核兵器だ」「体内被曝だ」と騒いでいるんだからより始末が悪い。

放射能パニックの陰謀は存在したかどうかは検証不可能な結果に終わったが、リチャードコシミズ氏と独立党が核兵器だ金融ユダヤ人の陰謀だと世間を煽ろうと試みていたのは間違いない事実である。

以上、とりあえず本書の気づいた点について書いてみた。

前回の分と今回の分、合わせてみた感じたところは「トンデモ本というよりは単に誤りの多い本」という感じで面白味は少なかった。
ところどころで楽しませてくれる珍フレーズはあったものの、その量は多いとは言えない。

また、似たような内容のエピソードが本書の幾つもの箇所で分散して書かれており、まとまりが悪く、内容を見直す作業は相当に骨の折れる仕事だった。

作数を重ねるたびに、リチャード氏のオリジナルな主張の割合は増えてゆき、その分詰めが甘く、できのいい話は目に見えて減っている。特に気象庁発表に関する勘違いはひどかった……。

今回の当方のこの仕事を「アラ探し」と言われることがあってもそれは仕方ないが、重箱の隅をつつくような真似をした覚えはない。なにしろほとんどデタラメなのだから。

アマゾンで高評価を下している人物は大分多いようだが(批判の数もそれなりにあることから、過去作に比べて売れていることがよくわかる)、ちゃんと読んだのだろうか?

まっとうな本としての評価は5段階評価で最低★1つ、トンデモ本としての評価もあまりさえないので★2つといったところか。

事実や真実が書かれている本を期待する人にはお勧めできたものではないし、トンデモ本的な面白さを期待している人にもあまりお勧めできない。


《参考文献》

《参考記事》
1. 気象庁 報道発表資料ページ (気象庁ホームページ)
2. 断層破壊「深部→浅い場所→また深部」 東大チーム解析 (5月20日 asahi.com 記事)

3. GEQ(小説) (Wikipedia)
4. 二酸化炭素貯留実験に関する質問主意書 (参議院ホームページ)
5. 第168回国会 災害対策特別委員会 第3号 (参議院会議録情報)

6. 宮城県地震における当社設備への影響について (東京電力ホームページ プレスリリース)

7. Fukushima I Nuclear Power Plant Reactor 3 explosion on March 14, 2011 (YouTube)
8. Japan Timeline: How The Disaster Unfolded (3月15日 Sky NEWS 記事)

9. 緊急地震速報について (気象庁ホームページ)

10. 中国救援隊が帰国 (3月20日 産経ニュース 記事)
11. ロシア救助隊 日本での被災者救援作業を完了 (3月22日 The Voice of Russia 記事)
12. 中国救助隊が被災地到着 (3月14日 産経ニュース 記事)
13. ロシア救助隊 日本の災害現場で作業開始 (3月15日 The Voice of Russia 記事)

14. 日本からのソラマメに放射性物質 台湾当局発表 (3月20日 47NEWS 記事)
15. 富士山を囲む正方形の「震源」。人工地震の明確な証拠です。 (3月18日 richardkoshimizu’s blog 記事)

16. 宿泊施設 「除染していない」と福島からの宿泊客を拒否する (4月6日 NEWSポストセブン 記事)
17. つくば市の放射能スクリーニング検査「転入者の不安和らげるため」 (4月23日 レスポンス 記事)

リチャード小説を読んで:「3.11同時多発人工地震テロ」

4月20日の販売開始からおよそ一か月遅れとなったが、「3.11同時多発人工地震テロ」を入手し、読了した。

感想としては「控えめに言っても珍作」といったところか。

今回の本も前作、前々作に続いて(自称)小説である。
まずは小説としてこの本のツッコミどころを紹介する。

 

◆あいかわらずのスタンス

リチャード氏によれば「敵の次の対応を予想して先回りして警告します。ですから表現の自由度の高い小説の形をとる必要があるのです」ということで、小説なのだそうだ。
本の中に出てくる敵の「未来における計画」や「過去における実現を阻止できた計画」については十分な根拠に基づいておらず、筆者の想像の範囲を出ないのであしからず、という宣言だと自分は理解している。

また、あいかわらず「本書の内容を事実と関係づけて考えるのは読者の自由」という旨の文言が付記されている。
「根拠に乏しいからフィクションという体裁をとっているけど、事実として受け止めてほしい」ともとれるし、「事実じゃなかったと判明しても、信じたあなたの責任」と丸投げしてるようにも取れる。
こういうスタンスで本を出し続けていくことが「ジャーナリスト」にとってプラスに働くとは思えないんだが、今後も続けるのだろうか?

 

◆変わらない伝統の読みにくさ

読みにくさ、については前の2作とあまり変わっていない。
本文をぶった切って差し込まれる長ったらしい「資料」のおかげで物語(ないけど)の流れが寸断されてしまうという悪癖は健在だ。
資料と本文でフォントをかえるようにしたため、これまでのような混同がなくなったのはよかったが、引用したコメントについてはフォントを変えているときと変えていないときがあったため、途中で引用のフォントと本文のフォントがどっちがどうだかわからなくなってしまった。

 

◆がんばった、でもダメだった

小説っぽく書こうとがんばった!しかし頓挫した。
そんなリチャード氏の「作家」としての失速振りをうかがい知る事が出来るのが本書の特徴の一つである。

本の出だしは地震についての薀蓄を少し語り、地震にまつわる物語のスタートとして悪くなかったと思う。
序盤は災害や亀山モデルのプラズマテレビで震災の様子を眺めるロッケンフェラーの描写が細かくされており、巧拙のほどはともかくとして、世間並みの小説のスタイルを堅持しようという努力がうかがえた。

しかしそれも60ページくらいまで。
「(5)地震兵器」からは地の文とRKが会話をしだしてしまい、このあとはリチャード小説らしい説明セリフのみで構成されているといってもいい物語(?)が始まる。

一度この波をどうにかはねのけようとしたのか、83ページ「(6)トモダチ作戦」はいきなり「そのころ、太平洋上のある米艦船の一室では」なんて出だしで始まるんだが、それまでの過程で「そのころ」が一体いつのことなのか読んでるこっちにはさっぱりわからない状態である。
そしてその一室でローエンシュタインとモルデカイという二人の人物が会話をする様子が描かれていくのだが、やはりここでもコケた

ふたりの会話が始まる84ページでは「ローエンシュタインが寝不足の目を瞬かせながら口を開く」、「モルデカイが口を挟む」といった具合に書かれていたのだが、次のページからはローエンシュタインのセリフの前には「ロ・・」、モルデカイのセリフの前には「モ・・」という形で話者を区別するスタイルに特に断りもいれずに変更している。
小説というよりは台本のようだ。

それ以降は会話のキャッチボールメインで延々と人工地震について説明がラストまで続いていく。

ただ今回は地の文よりもジャーナリストRKの説明セリフが多く、RKと地の文との会話では地の文の出す質問にRKが答えるという上下関係が見られた。
主役の面目躍如である。どうでもいいけど

 

◆馬鹿っぽいセリフ、再び

過去2作についても紹介した馬鹿っぽいセリフ。
今回もところどころで登場人物たちがバカっぽさを醸し出している。

裏社会の面々は相も変わらず「とほほ」「嗚呼、参った」「あはは」「だめだこりゃ」など語尾をとり混ぜながら、三下っぽいせりふで我々を楽しませてくれることに余念がない。

「やっぱりな。俺たちどこまで狡猾なんだ」(126ページ)というセリフには特にしびれてしまった。
こんな小者っぽいセリフを吐くやつが世界を思い通りにしようとしてるというのだから、どうにかできそうな気持も湧いてくる。

しかし、「1台のPCだけで戦争を戦い、立派に勝利することができる。人類初の戦闘方法」(9ページ)の実践者、われらが主人公RKの口から飛び出したロジックも侮れない。

「地震兵器は存在します。核実験が行われると必ず地震波が発生します。つまり地震が起きます。ゆえに地震兵器は存在します。」
(60ページ)

うーん、何が「ゆえに」なんだかさっぱりだ。やはり日本の夜明けは遠いのかもしれない。

 

◆それが自慢なのはわかったから!!

今回の本は前作以上に内容の繰り返しが多かった。

「過去の人工地震・津波の計画」の話や「デモを暴徒化する計画」や「S価学会の60兆円」「定点反復人工地震」などの話がRK、地の文、裏社会のメンバーなど話し手を変える形で繰り返し出てくるのが印象に残る。

それらはリチャード氏が読者に強く訴えたいために繰り返して伝えてきているのかもしれないが、読んでいると「あれ、これってさっきも出てなかった?」と感じてしまう(このあたりは個人差があるだろう)。

そして最も多く繰り返してリチャード氏が我々に訴えかけていたのは「RKブログは1日に4万~5万アクセスを誇る人気ブログである」ということである。これが4,5回出てきた。

「ちまちました人生送るなよ。豪傑が生まれなきゃ、日本は再生しないよ。」なんてタイトルの講演をやってる人なのだが……ある意味正直ではある。

 

◆良くなった点もある

良くなった点。
それは宣伝ページが激減したことである。
前作では78ページ(355ページ~432ページ。過去の記事でページ数を77と書いていたが78の間違い)あったが、今回は367ページ~383ページの17ページ分。

本書の成し遂げたもっとも大きな功績だと思う。

 

◆ラスト

今回の本は説明セリフの応酬が延々と続く形で盛り上がりもアオリもなく、「さて、小説はこのあたりで一旦終わりにしよう」(365ページ)ということで打ち切られる。
なので、特にツッコむところもない。

いや、普通の小説はこんな終わり方しないので、そのことをツッコむべきなのかもしれないが、説明セリフが延々と続いているせいで「物語が途中で打ち切られた」という感想すらわかない。
「あ、おわりか。これで」と思ってしまった。

とりあえず、小説としての「311同時多発人工地震テロ」についてのツッコミどころの紹介はここまでとする。
陰謀論としての主張にツッコみを入れるのはまた次回。

《参考文献》

「たくさんあるであろう陰謀の証拠」もとりあえず放置で

東北関東大震災。

被災者の皆さんにお見舞い申し上げます。

無事で、ほぼこれまで通りに生活できる身としては、パニクって買いだめに走ったり、いい加減な情報に踊らされることなく日常を維持し、国の経済状態も含めた復興が一日も早くなされることを祈るばかりである。

この大震災をおおむねの人間の予想を裏切ることなく陰謀と認定したネットジャーナリスト リチャード・コシミズ。
非常識極まりないデマツイートが流されるきっかけとなったことは前回の記事で書いたとおりである。

リチャード氏はその後、3月16日からは過去に類を見ない超ハイペースで記事を更新。

今回の地震は金融ユダヤ人による人工地震テロで、その地震は純粋水爆によって引き起こされた。また純粋水爆の起爆には多量の電力が利用され、計画停電はそのためのもの。つまり東京電力も陰謀に加担しているのだと主張している。

3月10日の記事では「体調を崩し一週間から10日くらい入院し休養をとることとなりました。」となっており、現在どこでこれらの記事を書いているのか不明だが、16日から異常なペースで記事を書きだしたことを考えると、16日か15日には(自主的にかもしれないが)退院した可能性は高い。
3月16日に11の記事、17日に18、18日に16、19日に22、20日に10の記事を公開している(21日は午後0時現在で16) 。
と、いってもそれほど長い文章ではなくて、表だけの記事やコメント欄に寄せられたものを転載しただけの記事にタイトルをつけただけのものも少なくないので、それほどの情報量ではない。

記事の更新ペースが速く数も多いが、先に述べたように記事数の多さに反比例して中身は薄まっている(と思う)ので、まとめてみたいと思う。

 

◆ユダヤ人を監視せよ-奔走する信者

3月14日の記事『首都圏在住の欧米人のかた、知り合いのユダヤ人の方の動向を監視してください』にてユダヤ人が人工地震をおこすと発言、「ネットで大騒ぎしてください」と独立党員たちに呼びかけている。
また、海外向けに英語版も熱心に(?)書き、世界に向けて恥をさらすための努力も怠っていない。

これらの努力の結果、前回の記事に挙げたツイートの日本語版・英語版の発信、在日外国人向け生活情報サイトへ書き込みYouTubeに動画を投稿Yahoo!知恵袋にリチャード氏の記事の転載と、独立党員のなりふり構わない姿がさまざまな箇所で散見された。探せばもっとあるのだろう。

また、人工地震テロはユダヤ暦と連関しているとも主張。
今年は3月20日がユダヤ教のピュリム祭(purimと表記。プーリーム、プーリムとも読む)にあたるため、20日に計画があるようなことをほのめかしている。
こういうものの考え方や「知り合いのユダヤ人に異変はありませんか?」といった書き方をしておきながら、反ユダヤ主義ではないだの、敵はあくまで金融ユダヤ人だなどといっても説得力はない。

 

◆人工地震-雲を見ればわかる

今回の大震災が「何かおかしい」とリチャード氏は震災の翌日、3月12日の時点から言っていた。

この記事が書かれた時点では発表がなかったわけだが、今回の震災は阪神・淡路大震災を超える戦後最大の死者数を出し、日本観測史上最大となるマグニチュード9を示した文字通り「未曾有の」大震災だったのである。

よって、過去に例を見なかったこの震災が「我々の知っている地震とは違うような。」という感想を抱かせてもそれ自体は少しもおかしくなかったわけである。

ただその感想が「自然災害ではない」という考えに陥ってしまうあたりがさすが(というかやっぱりというべきか)リチャード・コシミズである。

このあと「東京で人工の大地震がある」「静岡の地震は人工のものだ」などと言い出し、結局震度3,4クラスの余震でさえ人工地震であると言い出すようになってしまう。

リチャード氏の主張によると人工地震は以下のような手順によって行われたものであるらしい。

  1. 地面に10㎞程度穴を掘る。この作業は海底であっても深海掘削船を使用すれば可能な深さである。
  2. そこに核兵器をいれる。潜水艦から核弾頭をつけたバンカーバスターを打ち込む。
  3. 地下で核弾頭が爆発する。
  4. 地震が起きる。

そしてこの人工地震に使われた核爆弾は、「純粋水爆」であるという。

純粋水爆云々については次章に回すとして、この人工地震計画についてツッコめるところにツッコんでおこう。

深海掘削船について
リチャード氏の記事によれば、この時利用された深海掘削船は地球深部探査船「ちきゅう」であるという(『10キロの深さをボーリングできる日本の船。その穴に何を投下するんですか?』)。

だがこの「ちきゅう」、ばっちり被災しているのである。それも子供連れで。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110312-OYT1T00581.htm

探査船見学の児童48人、海自ヘリで無事救助

下北半島沖の掘削調査のため青森県・八戸港に停泊していた地球深部探査船「ちきゅう」の船内見学中、津波を避け、沖合に避難し、自力航行できなくなっていた同船の同県八戸市立中居林小の児童48人は12日午後1時半過ぎ、海上自衛隊のヘリで約24時間ぶりに救助された。

男子児童(11)は「船にいたら本当に大丈夫なのか心配で怖かった。無事に帰ることができ、うれしい」と安堵の表情だった。

(2011年3月12日18時37分  読売新聞)

目撃者ともなりかねない子供たちを48人(+引率する大人)も載せたまま謀略活動に精を出していたとでもいうのだろうか(それとも子供たちも陰謀側?)。

また、「ちきゅう」が海ほたるあたりに停泊しているともリチャード氏は書いているが、実際には被災後八戸港に停泊し、18日から室蘭へ向けて出港した模様である。

バンカーバスターについて
核弾頭をつけたバンカーバスターを打ち込むという方法。
「核弾頭搭載のバンカーバスター」がまだ開発計画の段階であることに目をつぶったとしても厳しいように思える。

バンカーバスターは地中貫通爆弾とも呼ばれ、地中にある敵司令部などを攻撃するための爆弾である。
Wikipediaによると、イラク戦争で用いられたバンカーバスターGBU-22の性能は「地表から30m、あるいは鉄筋コンクリートを6m貫通できる」というもの。

海面下10㎞にある岩盤を攻撃するには明らかに役不足である。
忘れてはいけないが、掘削によって10㎞の長さの穴が開いていたとしても、そこはすべて海水(あるいは泥水)で満たされているのである。空間がぽっかりと10㎞分空いているわけではない。

それともこの計画のために10,000mの水をかき分けながら進み、その強力な水圧にも耐えうる丈夫なミサイルを作ったのだろうか?そんなミサイルは多分バンカーバスターとは呼ばれない。

地下の核爆発について
地面の下で核爆発を起こすと地震が起きる。

しかし現在では発生した地震が自然の地震か人工の地震か区別する技術が確立されている。
だからこそ北朝鮮やインド、パキスタンの地下核実験を諸外国が知ることができているのだ。

今回もし地下で核爆発がおこっていたとするなら、それを検知しているはずである。
検知しうる立場にあるのは日本の気象庁のみではないだろう。
ロシアや中国、韓国などが気づくはずである。

 

こういった難のある(軍事や地震に詳しい人などが指摘すればこんなものでは済まないはず)人工地震計画を主張するからには、求められる証拠というものも相当強力なものが必要となってくる。

が、リチャード氏の示した証拠というのはどんなものだったであろうか?

証拠その1:「同緯度・同経度での地震がこんなにある」というデータ
3月19日の記事「311CFRテロ:定点・(同緯度・同経度)反復人工地震データ」「311CFRテロ:続き」では観測データが羅列されている。
一見すると同じ場所で地震が群発しているという印象を受ける。

しかし、このデータは正確さを欠いた不完全なものである。

気象庁のデータなのかと思って気象庁にある「毎日の地震活動」の「震源リスト」と見比べてみるとこれが微妙に違う。
気象庁の出しているデータと比べて、リチャード氏が提示しているデータは位置情報、震度、マグニチュードがもっとざっくりとしたデータなのだ(気象庁のデータであれば緯度・経度が秒単位まで示されている)。
興味がある人は、リチャード氏の提示したデータの日付と時間を基に、気象庁の「毎日の地震活動」の「震源リスト」と比較してみればいいだろう(ただし気象庁のデータは今のところ3月12日までしか出ていない)。

リチャード氏の出してきたデータそのものがウソや捏造だとまでいうつもりはないが、精査前の厳密さ・正確さに欠けた状態のデータを列挙して「科学的解析」などと名乗っても恥ずかしいだけである。
2011/3/29追記精度の高いデータで見てみる「定点反復人工地震」』にて、リチャード氏のデータを気象庁発表のデータと入れ換えた表を掲載しました】

それと数が多すぎる
こんな数の地震のほとんどが人工地震だとしたらあまりに忙し過ぎるだろう。一体核兵器を何発用意しなくてはいけないのだ。
しかもそれで起きる地震は震度4以下が大半。効率が悪すぎる。

内陸部が震源であるデータも提示されているが、国内で陰謀組織がボーリング工事をやっている姿を目撃したという話が聞かれないのも、この説を主張するにおいて足かせとなる点だろう。

証拠その2:「雲の写真」
なんだかよくわからないのだが、海底で核爆発が起きた証拠に空に出た雲の写真を提示している。
涼風真世のブログのマネではないようだ。

これがおそらく海底核爆発で生じた雲です。」とリチャード氏は主張しているが、これってただの飛行機雲じゃないのか。

リチャード氏がケムトレイル信者や地震雲信者に転身してしまったのかと思わせるしょぼさである。
この他にも黒雲の写真などが証拠として示されているのだが、これで納得する方が難しい。

飛行機雲が核爆発の証拠というのは、飛行機雲そのものをさして有害化学物質だと騒いでいるケムトレイル信者より酷いと思うのだが、リチャード氏はどうしてこれを証拠になると思ってしまったのだろうか。謎である。

 

◆純粋水爆-東京電力もグルだった!?

リチャード氏によれば、人工地震を引き起こすために純粋水爆が利用されたという。
「純粋水爆説が読めるのはリチャード・コシミズ先生だけ!」といっても過言ではない状態だ。

この説についてどの段階から書くべきなのかわからないが、根本的なレベルで言えば「純粋水爆という兵器はいまだに確認されていない」ということである。

そんな根本的なレベルの話はおいておくとして(「存在しない証拠を出せ」と反論を考えついた人は、どんなものがあれば純粋水爆がこの世に存在しないと証明できるのか一晩じっくり考えること)、どのようなこと言っているのか見てみることにする。

もちろん普段からHAARPのようなメジャー路線の人工地震兵器説を相手にしていないリチャード氏なので、純粋水爆説を唱えるだろうことは早々に予想がつく。

だが意外だったのは東京電力の計画停電と、原子力発電所での放水作業を純粋水爆説に絡めたことである。

計画停電
リチャード氏によると今回純粋水爆はレーザー起爆型で大量の電力が必要だったとのこと。
そのために計画停電を行い、確保された電力で純粋水爆を起爆させたという。

過去の純粋水爆は外部電源不要な常温核融合を使って起爆させてきたというのに、今回はなぜレーザー型にしたのかがまず謎である。
計画停電で浮いた電力で兵器を動かすというと、「ヤシマ作戦」の小型版というイメージになるのだが、純粋水爆一発あたりどれだけ電力を使っているのだ。

外部電力を起爆装置に供給するというのはそれだけで問題を抱えている。
電線をひかなくてはいけないのではないだろうか。
一発あたりに要求される電力はそれほどでもないが、たくさん数をこなす(余震用)ので電力はたくさん必要だったということはできるかもしれない。
しかし今度は起爆装置まで伸ばす多量の電線が必要になるのだ。
だれかそれらしい電線工事をしている光景を目撃していただろうか?

原発での放水
原子力発電所にある核燃料棒冷却のため、自衛隊のヘリや東京消防庁、警視庁の放水車などによる放水を実施している。

この光景から911同時多発テロ後の消火作業を連想したリチャード氏。
福島原発内で純粋水爆が使われたと主張している。

その目的はというと、一つは原発の建屋を破壊して不安を煽ること、もう一つは純粋水爆から発生する中性子線を子飼いのマスコミに検知させて、MOX燃料漏出のパニックを煽り立てる事であったという。

建屋の破壊を通常の爆弾で、MOX燃料漏出を自作自演でやってしまえばいいだけのような気もするが、そこは「通常爆弾ではなく、「純粋水爆」である必要もあった」とのこと。うーん、理解を越えている。

放水をする真の目的は純粋水爆によって発生したトリチウムを洗い流すことらしい。
放水にあたった自衛隊、東京消防庁もグルということになるのだろうか。

計画停電と原発敷地内での純粋水爆使用。
このふたつうち純粋水爆使用をやり遂げるには、当然東京電力の現場にいる職員の協力が欠かせない。
それも、日本のみんなをちょっと不安がらせるという目的のために純粋水爆の中性子線の影響で寿命が縮まることになっても構わないという文字通りの命知らず(or損得勘定が恐ろしく下手な大馬鹿)な人間でなくてはならない。いるのだろうか?

 

◆そのほかについて

あと、地震発生まもなくに書かれた「疑惑」について書いておきます

空母ロナルド・レーガンが2日で東北沖に来た件について
これはもう、ちょっとニュース記事をあさればわかる話。
ロナルド・レーガンは韓国で行われていた米韓合同演習「フォール・イーグル」に参加していたためすぐに駆けつけられたのである。

小吹伸一氏が地震を予言していた?
3月13日の記事『東北関東大震災の疑問点』において、リチャード氏は小吹伸一氏が東京での大地震を前もって知っており、その情報をツイートで漏らしていた、と主張していた。
小吹氏のツイートは以下の通り

百均で、水のボトルとレトルトとクラッカーを買い揃えておくことにした。東京大地震がきても、現内閣ではぜったい対応不能。自力しかあてにならない。
(小吹氏のツイッターより 2月23日 08:59のツイート)

ツイートした日付に注目していただきたい。小吹氏がこの「予言」をツイートしたのは2月23日。その前日の22日にはニュージーランドで大地震があったのである。
小吹氏のツイートはその地震を受けてのものだろう。未来の地震について書いたのではなく、過去に起きた地震ついて書いていたのだ。

また、3月15日の小吹氏のツイートに「岩手・宮城・福島・茨城・長野ときて静岡? なんで? プレートの落ち込み?」という書かれていたという話については、これはおそらくリチャード氏の早とちりだろう。

発端はコメント欄の書き込みで以下のようなものであった

先生、これと関係ありますか?
私は仕事にゆきます。あす夕方まで戻れません。
2011/03/15(火) 10:45:18 | URL | 小吹 伸一 #- [ 編集 ]
岩手・宮城・福島・茨城・長野ときて静岡?
なんで?
プレートの落ち込み?
(『静岡地震:Twitterで拡散を!』 3/15 23:40 山口乙矢氏のコメント)

みればわかるが、リチャード氏が注目した3行の上の行に小吹氏の名前が入っており、引用された文章はその直上の1行のみなのである。
下の3行はあくまでこれを書き込んだ人物の静岡での地震に対する感想である。

それをリチャード氏が勝手に小吹氏のツイートだと勘違いしたのだ。

小吹氏はこれにたいする抗議と質問をメールにて送っている。
リチャード氏はそれに対して「好きにしろ。犯罪者」と返事をしたようである。

くだらない間違いを起こしていることを今更認められなかったのか、そのことすら気づかなかったのか、いずれにしてもこの態度に呆れた小吹氏は「今後、ペンネームでお呼びすることはやめにします。輿水正、というご本名で呼ばせていただく。」(『返信承りました。』3/17 02:34 小吹伸一氏のコメント)とコメントしている。

 

◆これらが総べて陰謀だったなら-準備と痕跡

とりあえず、現時点で書けることはすべて書いたつもりである。もし取りこぼしがあり、敢えて書く必要があるほどの話なら改めて記事を書こうと思う次第である。

最後に一連の陰謀論に関して共通する欠陥を挙げるとならば、もしもこれらの陰謀がすべて事実だったとするのならば、そこには膨大な時間と資金と人員を使った準備が必要になってしまうということだ。

洋上で掘削船を使って穴を掘るならそのための時間は必要だろうし、その間船の行動を海上保安庁をはじめとする多くの目撃者に見逃してもらう必要があるだろう。

地上でボーリング工事をするなら当然それはみんなの目につく。
穴を掘る人間を大勢雇い、それを今後も口にしないように黙っていてもらう必要がある。
疑わしい言葉を口にしたのはかつての盟友 小吹氏だったが、それも勘違いにすぎないのは前述したとおりである。

東京電力についても同じことである。
命がけになる謀略の手伝いをする特上の愚か者を大量に現場に集めることが要求されてしまうのは明らかだ。

そして純粋水爆。
巨大地震の惹起から原発建屋のちょっとした破壊まで使えるという超便利兵器は一体何発用意されたのだろう。
金がなくなって弱っているはずの「金融悪魔」がこれを大量に用意できたのはなぜか?超兵器なのに通常爆弾並みに安価に生産できるのだろうか。
どこで作ってどこから持ち来んだのだろうか(もしかして国産?)。
日本に持ち込まれ、目的地に運搬されるまで秘密裏に運ぶにはどれだけのきめ細かい隠ぺい工作が必要なのだろうか。

これだけのことをやって、出せる証拠が「因果関係がわからない変な雲の写真」しか出ないなんてあるだろうか?

海ほたるで深海掘削船が純粋水爆を埋める作業をしたというのならその姿を押えればいいのではないか。
「ちきゅう」が工作にかかわっていたのなら、乗り合わせた児童たちや職員らの証言をとれないのか。
福島原発で純粋水爆が使われたというのなら、今後それを独自に現地で調査する気はあるのか。

リチャード氏の語る「真相」は、それが事実なら多くの痕跡・証拠をあつめられるような大プロジェクトである。
安楽椅子探偵のように家に居ながらにして見聞きした情報だけを基に事件の真相を解くのは結構だが、それを大勢の人に納得させるには証拠というものが必要になってくる。
もし証拠が集まらないというときには、その時には自説の見直しと修正が必要になってくる。

それらの努力を一切せずに自分の言うことを信じない人間たちを「筋金入りのB層」などと見下している以上、彼や彼の支持者が「基地害扱い」される事は少しも不当なことではない。

【追記 2011/3/27】 「小吹伸一氏が地震を予言していた?」の項目タイトルの誤字を修正し、記事の不明瞭な箇所について加筆・修正しました。

*参考記事へのリンクは膨大な量になるため、分割してあります。

「たくさんあるであろう陰謀の証拠」もとりあえず放置で の続きを読む