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リチャード・コシミズ氏の出版した本についての記事です。

リチャード小説:『リチャード・コシミズの小説ではない小説 日本の魔界』

今回はリチャード氏が2014年2月に出した本、『リチャード・コシミズの小説ではない小説 日本の魔界』について紹介させていただく。

この小説はいわば「リチャード・コシミズ以前」を書いた自伝的なものであり、彼が遭遇した複数の保険金殺人事件から始まり、彼がリチャード・コシミズと名乗りだすところまでが描かれている。

もちろん例によって、保険金殺人の証拠などはなにも提示はされない。
おおむねはリチャード氏が見聞きした情報をもとに憶測を盛りに盛った妄想話である。

そういう意味で本書には、リチャード氏の書いたほかの本と同レベルの価値しかない。
しかし、のちのちそこそこ名のある陰謀論者へと成長していく「輿水 正」という人物が周囲の人間をどのように敵視していたのかを、輿水氏自身の視点から知ることができるという意味で、本書にはほかの本とは違った価値を見出すことができる。

 

◆敵とみなされた人たち

現在リチャード氏は世界規模の敵と戦っているつもりであり、その敵は外交問題評議会(CFR)とかユダヤ金融資本とか言った組織である。そしてCIAをはじめとする、国内外の様々な機関や宗教団体、時には民族などが彼らの手足として働いていることになっている。

だが、この本を通してコシミズ氏が告発したのは日本国内の、彼が勤務していた民間企業であり、勤め先の同僚である。

本書で犯罪者扱いされた人物は以下の通り。

最初の勤め先
  • 社長
  • 経理の女性(社長と愛人関係)
  • 経理の女子社員多数
  • 子会社の古参女性社員
  • 本社営業部課長(上記女性社員と愛人関係)
  • 上記営業部課長の直属の上司
  • 何人かの若手社員と役員
  • 元大手メーター出身の常務新社長
  • 女性経理社員
新しい勤め先
  • 専務(のちに社長)
  • 社長室長
  • 営業次長
  • 営業部長
  • 保険金殺人の被害者の妻

彼の勤め先にいる人間で、めぼしい人は全員犯罪者にされちゃったんじゃないかと思うほどである。

このほか、保険金殺人被害者が搬送された先の医師や看護師、監察医、保険金殺人として調査した警察官と軒並みグルということにされていて、彼の考える犯罪計画を実現することがいかに困難で、現実的ではないかがよくわかる。
これだけの人間が関与し、それで全員が秘密を守ってくれるほどの十分な報酬というのは一体いくらになるのだろうか。

これらの登場人物のなかには愛人関係、肉体関係があるとされ、一部にはセックスシーンまであるのだが、これもどこまで本当なのだろうか。
噂話くらいはあったのか、それとも全て輿水氏の下卑た妄想なのかは不明である。
ちなみにセックスシーンでは、彼らを醜く、汚らわしいものとして描写しようという作者の敵意が存分に伝わってくる。

 

◆信じる者にはサスペンスらしいけど

この世界を裏から操る国際金融資本組織が存在し、その末端の組織達は保険金殺人を行って金を稼いでいる……。

この輿水氏の物語を正真正銘の真実だと信じる人にとって、本書は身近な企業や警察などに侵食し、拡大している「魔界」を空恐ろしく感じることであろうし、その巨大組織に挑み今もなお余裕で花見とかやっているリチャード・コシミズを頼もしく感じることと思う。

しかし、彼の話は根拠がなく、妄想だと判断している私のような人間にとっては、本書で描かれる輿水氏の行動は完全な奇行であり、彼の周囲の人間に対する敵意や悪意に辟易させられる。

以下には本書で描かれるKの言行、というか奇行を紹介する。

・女性経理社員にたいして、「村中さん、汚い手口で金儲けなんかしても、ヘンな宗教に吸い取られるのが関の山だよ」、「今なら、まだ間に合うよ。ヘンな連中の組織から抜け出るべきだよ」と説得する。(136-137ページ)
会社で不正経理があると確信したKの説得である。心配している風だが相手を完全に犯罪に加担していると決めつけているし、宗教だとか言い出していて不気味である。

・女性経理社員2名が「秘密の会話」をするところを抑えるため、小会議室のロッカーの上にビデオカメラを仕掛けた。(140p)
結果的に女性経理社員がカメラの存在に気付いて失敗したという。相手が犯罪者だと確信している輿水氏からすれば情報戦を行っているつもりなのかもしれないが、実際にはそうではないので単なる隠し撮りだ。

・営業部課長が危篤だという知らせを聞かされ、「え、それ、医者が引導渡すって意味ですか?」と返事。(158p)
本人は裏社会側の医師がとどめを刺して保険金殺人を完遂させることを見抜いたつもりで言っているらしいが、かなり不謹慎な発言である。

・Kと関係のある複数の社員が会社で出されるお茶を飲もうとしない。Kと親しかった男性社員はKの話を信じ、後に退職した。(162p)
毒殺を警戒しての自衛策らしいが、退職までしちゃったのかよ……。

・社長のことが嫌いだといった社長室長に対し「嫌いなら消しちまえばいいじゃないか?殺しちまえよ」と返事。(170p)
社長室長は気色ばんでKの襟元つかんだらしい。社長室長は社長の悪口でもタネに打ち解けたいとでも思っていたのではないだろうか?

陰謀組織に(敵の手先であったものの、秘密を知りすぎて危なくなった)社長やKとその家族が狙われないように、複数の社員宅や実家に告発書簡を送付。(172p)
敵の行動をけん制するつもりだったらしいが完全に怪文書。結局Kがおかしいということで社内で決着がつけられた模様。

・保険金殺人の告発が「オヲム神霊教」絡みだということで捜査することになった警察官の写真を、K宅に向かう途中の電車内で隠し撮り(193p)

・警視庁から神奈川の平塚駅まで警察官を連れてきたが、駅から自宅までの途中で自宅に電話し、「カミさんの友達が5人も来ているから」と追い返した。(194p)
ひどい。

・警察が実家を訪れたのが恫喝だと判断し、「内容を読めば、正体を見破られたことがはっきり」とわかるメールを送り付ける。(201p)
警察も、本人に話してもラチが明かないと判断したのだろうなあ。そしてそれは正解。

・(保険金殺人の調査の結果、事件性がないとわかって)「あとは、お宅とアークテックの間の交渉事だから。警察は、もう関係ないから」と言われたが、その言葉の意味をきちんと理解せず、「賠償金を支払うから、告発をとめてくれ」という意味であると考える。(209p アークテックとはKの新しい勤め先のこと)
保険金殺人の疑惑に事件性がないとわかった時点で、Kのしていたことは告発でも何でもない、言いがかりや中傷の類となることを完全に無視。むしろKが賠償しなくてはいけないくらいだろ。

・ある関係者の自宅近くで、どう見ても酒屋店員と配達員にしか見えない格好で一時間以上立ち話をしていた男女がいたので、近寄りパソコンで写真を撮ったらそそくさと車に乗っていなくなった。(214p)
そりゃ気味悪いから逃げるって。
「どう見ても酒屋店員と配達員にしか見えない」なら、その時点で問題なしと判断するべき。

・Kの背後にいる人物がVXガスをKに使おうとしている気配を察知したので振り返り、不敵な笑いを見せながらギロリと睨んだ。(216p)
VXガスを持っているかどうかは、相手が右手を隠していたからわからずじまい。何にもしてないのに突然にらまれたら嫌だなあ、キモ怖いなあ。

・マンションのエレベーター前にいたヤクザ風の人物のそばを通過する際にデジカメで撮影した。(217p)
マンションのほかの住人ではなく、自分が目当てにしていると判断してこんなことやったらしい。本物のヤクザ相手にこんなことやったら、かえってことが大きくなりそうだ。

こういった奇行の果てに輿水氏はインターネットで告発を開始し、リチャード・コシミズとなっていったようである。
ネットを介して彼の妄想は広く拡散していき、現在では大人数が裁判所で大騒ぎや隠し撮りを繰り返すようなレベルにまでなっていったのである。

この本をトンデモ本として勧めるかどうかといえば☆3つくらいだろうか。
当方としては断然「12・16不正選挙」を推すが、この「小説 魔界」はそれに次ぐくらいの面白さはあると思う。


《参考図書》

リチャード小説:『リチャード・コシミズの未来の歴史教科書』

今回の記事ではリチャード氏の初の公刊書となった『リチャード・コシミズの未来の歴史教科書』を紹介する。

本書は全10章からなっており、タイトルは以下の通り

第1章 戦後70年は日本人劣化の歴史
第2章 からゆきさんと日本の近代化
第3章 安政東海地震と日露関係
第4章 幕末貨幣改鋳・南北戦争・戊辰戦争
第5章 安心安全食材の歴史
第6章 戦闘機パイロットの生と死
第7章 火星のトカゲとリス
第8章 アドルフ・ロスチャイルド・ヒットラー
第9章 日韓併合とオウム事件の関係
付  章 不正選挙追求が未来の日本をつくる

こうやって見るとまあまあ歴史の本っぽいが、実際には417ページ中100ページ超を最後の付章につぎこんでおり、歴史じゃない章が随分と幅を利かせている。
もちろんこれは全10章中最長。
話題の数としては歴史を扱ったものが多いが、この本を書いた当時、リチャード氏が力を注いでいるのが不正選挙であることがよくわかる。
看板に偽りありではないかとも思うのだが、リチャード氏が過去に書いた本では著作やDVDの宣伝に78ページを費やしたというケースもあるので、これはまだマシな方なのである。

この本について各章を個別に分けて紹介することも考えたのだが、内容的に過去作『リチャード・コシミズの新しい歴史教科書』と重複する部分がところどころあることと、本当に退屈なだけとしか感じられなかった章などがあるので、もっとざっくり面白かった箇所をピックアップして書かせていただくことにする。

 

◆「最近の若いもんは……」

第1章の「戦後70年は日本人劣化の歴史」はタイトル通り、日本人はダメになったという話が書かれている。

ツケマ(つけまつげ)、茶髪で先のとがった革靴を履いている若者、大学全入時代、キラキラネーム、タトゥー、大型量販店、コンビニので売られている食べ物、医者の処方する向精神薬、amazon、小泉・竹中の派遣労働法改正などで社会が悪くなったといった主張が続き、「小泉・竹中以前」に戻りさえすれば日本は復活するという話で第1章は締めくくられている(若者のファッションと小泉・竹中にどんな因果関係があるのだろう?)。

特にリチャード氏からの風当たりが強いのは若い女性である。
つけまつげ、タトゥー、キラキラネームなどでたとえに出されるのは女性であり(タトゥーやキラキラネームに関しては、女性に限らないのだが)、表現もきつい。

だから、ツケマ標準装備のキャバクラのホステスさんたちは印象が画一的に思える。
見分けがつかない。もはや、美人なのかブスなのかわからない。個性がない。(13p)

ツケマは、日本人劣化の一つの指標であると考える。「ツケマツケマ~♫」と唄うふしぎな少女から、これからの日本を背負って立つ強くて賢いお母さんは想像できない。(14p)

両親が選んだ名前のおかげで、彼女は就職活動で大きなハンデを負う。クラスメートが次々と就職が決まっていく中で彼女の未内定一つとれない。面接までも一度も行かない。送った履歴書は次々に返却される。そのうち面倒になって履歴書を使いまわしするようになる。そんな試練を乗り越えて初めて彼女には未来が開ける。彼女には社会の厳しさを知る絶好の機会だ。キラキラネームをつけてくれた両親に感謝しよう。もっとも、父親はとっくに外に女を作って出ていってしまったが。(30p)

「ツケマツケマ~♫」と唄うふしぎな少女」とはいったい何者なのかワケがわからないし、キラキラネームの文章では最後の一文が悪意に満ちた蛇足である。
また、長くなるので引用はしないが、30P~33Pではタトゥーを入れた女性がこうむる社会的不利を描いた小話が書かれている。

日本の若者を嘆いていると言えば確かにそうかもしれないが、若い女性を引き合いに出して名前やファッションといった見た目の話に終始しており、単に若い娘の見た目が自分の好みじゃないから怒っているだけなんでは?という気がしてくる。

そんな若い女性には厳しいリチャード氏だが、amazonには甘い。
外資系の巨大企業であるamazonにもっと厳しくてもよさそうだが、自分自身が書籍を売ってお世話になっているためか、「ネット書店には功罪がある。「功」の方も存在するということだ」と評価している。

【2015/5/3 追記】袴っ娘好きさんからの、「つけまつけま」と歌う歌というのは、きゃり~ぱみゅぱみゅの楽曲、「つけまつける」のことではないかとご指摘いただきました。
歌詞を確認したところ、歌いだしは「つけまつけまつけまつける」となっており、リチャード氏の記述と一致していました。
また彼女のメジャーさ加減から言っても、リチャード氏がこの曲を偶然見かける可能性は十分にあり、きゃり~ぱみゅぱみゅのPV上のキャラクターが「ふしぎな少女」と評されていてもおかしくありません。
ご指摘ありがとうございました。

 

◆リチャード・コシミズの語る健康

第5章「安心安全食材の歴史」では、江戸時代の川越のサツマイモの素晴らしさと、当時の人肥がいかに優れたものであったかを語り、そこから現在の化学肥料や食品がいかに危険な物かを主張する章となっている。
歴史の部分はあくまでとっかかりであり、メインはリチャード氏の考える健康食や健康法についてである。

化学肥料、食品添加物、牛乳危険説、水のクラスター、ホルミシス効果といった健康系トンデモの軽めの所を取り入れつつ、他の提唱者が少ない可視光線ランプや、「腸は実は造血に深くかかわっている」といった一文で千島学説もさりげなく登場している。
特に可視光線ランプの説明は面白い。

さらには、「可視光線ランプ」という太陽光線から目に見える波長の部分の光だけを取り出したのに等しいランプがある。これを体の悪い部分に照射すると痛みが消える。(132p)

なんというか、「業者にされた説明を何も考えないままうのみにし、オウム返しに唱えている」感が否めない。
「太陽光線から目に見える波長の部分の光だけを取り出したのに等しいランプ」って、それは普通のLEDランプとどこも違わないんじゃないのか?

 

◆ 漢リチャード・コシミズの咆哮

本書は歴史教科書と銘打ってあるものの全然教科書っぽくなく、「こういう話題を教科書が載せたらいいのに」というリチャード氏の願望を書いた本である。
本文は教科書の様な歴史的事実とその解説に収まらず、リチャード氏自身の考えや意思が何度も顔をのぞかせる。

ユダヤ米国亡き後、日本は世界のリーダーになる。無益な争いや紛争をこの世から絶つ。一握りの謀略家が世界を再び支配することは許さない。共存共栄の理想的な惑星を、我々の手で作り上げるのである。日本万歳!
(第1章 56p)

1000年前の僧侶や公家のビューロクラシーを学ぶ前に、ほんの100年前の娼婦の歴史を学べ。歴史教科書の一項目にからゆきさんを取り上げろ。誰が何と言おうと掲載しろ。
だが、誰もやらないから私RKがここに記す。
この本を未来の歴史教科書にすればいい。
本当に学ぶべきことは何なのか?それを突きつけるのが本書である。
(第2章 72p)

さらには尖閣諸島は、天然記念物、アホウドリのサンクチュアリーである。つまり、アホウドリの領有地だ。人間がとやかく言う筋合いではない。
(第3章 90p)

学校の教科書などには真実など書いていない。真実はこの書籍にある。真実を知ることで外国勢力による国家の乗っ取り、侵略を何があっても阻止しなければならない。読者諸氏の覚醒と今後の奮闘を切に期待する。
(第4章 106p)

勿論、裁判所も選挙管理委員会もユダヤ権力の支配下にあるゆえ、これらの裁判は原告の敗訴に終わる。しかし、裁判の異常性と不正選挙の存在を世に知らしめるため、我々は裁判に注力する。
不正選挙で不法に当選し国家を占拠している偽議員をこの国から追い出すためだ。
TPP交渉を中断中止させ、日本の食の安全を守るためだ。
(第5章 135p)

1945年当時の敵は、2013年の今の我々の敵と同一である。ユダヤ世界権力を斃し真の独立を成し遂げるまで、我々は決して戦いをやめない。小沢先輩、松本先輩、岩本先輩、見ていてください。
(第6章 156p)

米国の金融ユダヤ人たちがこの世の中を私物化しめちゃくちゃにしている。平気で壮大な嘘をつく。他国民を殺戮する。国民を手玉に取って搾取する。使役する。
その前提を以て、21世紀の今を考察していただきたい。今までと全く違うものが見えてくる。真実の世界が視界に入ってくる。
それでは、大いなる真実への旅の第一歩を踏み出されたい。
(第7章 176p)

ヒットラーの真実を知ることは、人類の歴史をリセットして、再出発するためにどうしても必要なことなのである。それは「人類の進化」と呼ぶべき偉業なのだ。人よりも先に真実を知った読者諸氏よ、まだ目覚めぬ友たちに真実への道を示していただきたい。それが先覚者の使命だ。人類全体の幸福のために。それが個々人と家族、そして友人たちの幸福をもたらすのであるから。
(第8章 230p)

「日韓併合とオウム事件の関係」がご理解いただけたであろうか?すべてはつながっているのである。
世界の歴史は、複雑怪奇ではなく実にシンプルな構造だったのである。構造がわかればそれを叩き壊すことは不可能ではなくなる。
今、我々に求められているのは、「諸悪の根源」と判明したものを断固取り除き、地球という共同体の不健康状態を正常に戻すことである。それが、我々21世紀初頭に生きるものが子孫に残すべき遺産なのである。
(第9章 294p)

ユダヤ権力の日本支配構造が揺れ動けば、裁判所もメディアも次第に正常化するであろう。できる。あともう一歩である。
読者諸氏に、この聖なる戦いに参画していただきたい。日本の未来と我々の子孫を守るために。
(付章 414p)

上記に引用した文章は、どれも各章の最後に書かれているのだが、決意表明やら本書の意義やらがしつこいくらいに出てくる。
こういう文章は前書きか、後書きにでもまとめて書いておけばいいのに、実にうっとおしい。

 

面白いと思ったところだけを紹介したら、歴史に関する部分については全然残らなかった。
本書に書かれている歴史話のたいていは、過去の講演会や著作でも書かれていたことがほとんどで、ウォッチャーとしてのキャリアがいい加減長い私には新鮮味を感じられなかった部分がほとんどなのである。

本書は昨年末にはほぼ読了していたのだが、こうして記事を書き上げるのにも時間がかかってしまい、内容的にも自分でいまいちさを感じられずにはいられないところがある。

まだ手元には「小説 魔界」もありこれから読み始めるようであるが、すぐに紹介記事を書くことができるかは微妙である。

リチャード氏の新刊の情報は今のところ出ていないが、私が新鮮味を感じられるような、そういう意味での完全新作を期待したい。


リチャード小説を読んで【番外編】:『12・16不正選挙』

今回は、リチャード・コシミズ著『12・16不正選挙』(以下、本書と略)を紹介。

これまで、『小説911』以降のリチャード・コシミズの著作を読んできたが、この本はその中で随一である。

リチャードコシミズの著作の中で最高のトンデモ本であるとさえ思う。
去年の2作はすごく退屈してしまっていたのだが、今作で不正選挙陰謀論を本にまとめられた形で読んでみると、実にバカバカしくてよいのである。

不正選挙説そのものは、過去記事『不正選挙2012』、『不正選挙諸説』などで取り上げてきたが、改めて本書に書かれている陰謀論にツッコミを入れるかたちで紹介していきたいと思う。

 

◆小説ではない

この本は小説ではない。

過去作では小説という形態をとり、事実とは無関係であるという断りを入れておくことで、内容に根拠がないことや政治家や要人、あるいは宗教団体や民族的・性的マイノリティに対する誹謗中傷の類をごまかしてきたところがあった。

しかし今作ではそういった「安全策」は施されていない。
フィクションであるという断りはないし、人名・党名を当て字で表現するごまかしもない。

ここ最近、独立党が多くの地方紙や雑誌に本書の広告を出していたが、その中で朝日新聞は掲載を断っている(『朝日新聞さんから「書籍広告掲載」を断られました。』)。
本書がこれまで通り小説を自称しているのなら、内容が根拠薄弱な話であっても掲載を断られることはないのではないかと思っていたのだが(とはいえ差別的な表現が引っ掛かる恐れがある)、今回のようにどストレートに書いていればそれは掲載を拒否する十分な理由になるだろう。

とまあ、とにかく小説ではないから今回の記事はあくまで「リチャード小説を読んで【番外編】」なのである。

 

◆不正選挙説-未来の党得票数

本書は、2012年12月16日の衆議院選挙で不正な行為が行われたということを主張している。

かの衆議院選挙では日本未来の党が圧倒的多数の44,600,000票(公式発表では3,423,915票)を獲得して第一党であったはずにも拘らず、ユダヤ金融資本の不正選挙工作によって票を書き換えられ、あるいは密かに票を遺棄されてしまったという。

4,460万票という数はとてつもない数である。
公式発表では衆議院選で第一党となった自民党得票数は約1,662万票なので、3倍近い票をとったことになる。
これを金融ユダヤ人とそれに与するマイノリティーが4,000万票を超える日本未来の党の獲得票をどうにかして減らしたということになる。

ではこの44,600,000という莫大な得票数は一体どこから出た数字なのかというと、以下のような計算式が示されている。

2009年衆院選の総票数70,581,658 x 75 / 69.28%(戦後最高の投票率)=2012年衆院選の総票数(推測)77,400,000 x アメブロ投票比率 72% x 80%(非ネット人口を考慮) = 44,600,000票
(197ページ)

意味が分かるだろうか?
最初これを見た時、私はこの羅列をどのように理解したらいいのかわからなかった。

「アメブロ投票比率」というのは、アメーバブログで非公式に誰かが行ったネットアンケートで導き出された未来の党の得票率である。これはこの数式のちょっと前に出てくることなので理解ができるのだが、最初の方のごちゃごちゃした計算が何を意味しているのかがやたらと複雑で非常にわかりにくい。

これは、「2009年衆院選の総票数70,581,658 x 75 / 69.28%(戦後最高の投票率)=2012年衆院選の総票数(推測)77,400,000」で区切るのが正しいようである(「=」の記号を数学的に正しい用法で理解しようとすると、この数式は「2009年衆院選の総票数=44,600,000票」となり、完全に理解不能になる)。
2012年衆院選の総投票数を推測するためにわざわざ2009年の総投票数を投票率で割って有権者数を計算し、それに投票率75%(実際には比例は59.31%)をかけているのだ。
無駄にややこしい
こうやって無駄な計算をして総投票数(推測)を出し、それに「本当の得票率」である72%をかけたうえ、「ネットをやってるのは有権者の8割くらい」という判断で80%で割って、44,600,000票という票数になったそうだ。

総務省のデータでは当日の有権者数は103,959,866なので、それに75%と72%を掛ければいい。
それだけで済む話を何をごちゃごちゃやっているんだか。

ここで使われている、リチャード氏の考える未来の党の得票率と現実の結果では実に67%も違っているが、この根拠となるのがネットの方が正しいという信念である。

まず挙げられているのがウォールストリートジャーナル日本版で行われたネットアンケートの結果を報じる記事
このアンケートの結果、63%が「未来の党に期待する」と答えたことを根拠にリチャード氏はこのように予測する。

実は、この外国紙の「未来の党に期待するが63%」が真実であり、読売の「期待しないが70%」が嘘まみれなのだ。裏社会は、日本の既存メディアの統制ばかり気を配り、外国系報道機関の日本支社の報道管制にまで手が回らなかったのだ。選挙後の諸所の情報を総合してみても、未来の党の本当の得票率は60%どころか70%に達していたともくされるのだ。
(37ページ)

また、先ほどの計算式ではアメブロのアンケート結果を利用していたが、このように書いている。

本当のところ、未来の党はどのくらいの票を獲得していたのか?12月23日に「アメブロ」でのネットアンケートの存在が報告される。「衆院選では何処に投票しましたか?」のアンケート結果は・・・「未来の党 72%」であった(13.1.9現在では75%)
http://pentatoys.com/qv/r/?id=2024
未来の党の比例区の得票率は、340万で共産よりも少ないことになっている。得票率は、5.69%だ。一方で選挙後のネットアンケートでは75%おそらく75%の方が、真実に近い数字であろう。

裏社会は未来の党の票を十分の一以下に改竄した!そう断言しても大きな誤認ではないだろう。
(196‐197ページ)

ネットでのアンケート結果と、世論調査や実際の得票率が一致しないからネットの方が正しくて世論調査や投票結果が間違っている、十分の一以下にされた!というのである。
十分の一以下にされたという割に、自らの試算では15倍くらいしちゃってるのはいいのか?

ちなみに次のようなエピソードも紹介されている。

ある有志の報告では、ご主人が所属するフラダンス同好会15人のうち、自民党に投票したのは堂々の0人。消費増税・脱原発の話題になり、①選挙に行ったのは、13名。つまり85%だ。②ほぼ全員が反増税・脱原発であり、投票先は未来の党は11名、共産党2名、みんな2名だったそうだ。未来の党支持率は70%=になる。
(197ページ =の位置は原文ママ)

フラダンス同好会の15名というささやかなサンプルを根拠に得票率を語ることも無理があるが、15名中13人しか投票に行ってないはずなのに、投票先の合計人数が15名なのはもっと無理である。

全体の投票率そのものが戦後最低であることにも疑義を申し立てているのだが、その根拠は「投票日に長蛇の列ができている投票所があった」という程度のもの。
長蛇の列が一時的なものかずっとそうだったのか、どこの投票所でもそうなっていたのかを証明しきれておらず、上記の怪しげな計算式で「本当の」投票率を75%に設定している根拠も特にない。

 

◆不正選挙説-未来の党の票はどうなったか

リチャード氏の考えよれば4460万票もあった未来の党の得票が340万票にまで減らされたということであるが、その差となる4120万票は一体どうなったのかということに関して、リチャード氏はいくつもの陰謀論を展開する。

選挙前日の12月15日、日本全国で「異臭騒ぎ」が報告された。八王子市・大阪府北部・東京都葛飾区・群馬県・静岡西部・横浜市青葉区・板橋区・埼玉・練馬・菊川・掛川・・・非常に広い地域で同様の「焦げ臭さ」が報告されている全国で一斉に「何か」を焼いた?「野焼き」が目立たない夜をねらって?ここからは推論である。

「期日前投票」のホンモノの票を裏社会総動員で焼却したとみる。(公営の焼却炉に運び込むのは発覚の危険があるので避けたのでは?)投票用紙は、ユポと呼ばれるPP(ポリプロピレン)製合成紙。燃せば、プラスチックを燃やした匂いがする。証拠隠滅であったのではないか?
(32-33ページ)

投票用紙を焼くとは豪快な話である。
しかも「公営の焼却炉に運び込むのは発覚の危険があるので避けたのでは?」などと書いているが、焼却炉が危険だからってそんじょそこらで焼いたりしたら、そっちの方がよほど目につくではないか。

たかだか物を焼いている匂いを嗅いだというだけで、そこで焼かれているものが投票用紙であると判断した根拠はでてこない。

 

このほか、「投票活動を呼び掛ける車があまり来なかったのは投票率を下げるため」とか「未来の党の候補者が小選挙区で獲得した票に比べて比例区で獲得した票が少ない」とか「ユポ紙の投票用紙はツルツルして鉛筆で書きにくいのになぜ使うのか」など(ユポ紙の投票用紙って表面サラサラしててすごく鉛筆で書きやすいんだけど……)細かい陰謀論いくつかが書かれているが、何より有名なのがムサシの票計数機の話である。

リチャード氏によると、株式会社ムサシの票の計数機には票を書き換える機能があるという。

レーザーアンプリンターである。基材から超短パルスレーザーでトナーを蒸発させて除去する。投票用紙から「未来の党」が消える。次にレーザープリンターで「自民党」と印刷して排出する。
(140ページ)

「投票改竄装置!」である。印字された用紙を、この機械を通すと別の印字に変わって出てくる。つまり、この機能をムサシの計数機械に内蔵させておけば、「鈴木一郎」と鉛筆で手書きされた表は、「近藤晴彦」に変わって排出されるのだ。
(142ページ)

ムサシの計数機には票に書かれた党名を判断して、票にかかれた政党名を消したり書いたりする機能があるのだという。
計数機とは票を数えるための機械のはずなのだが、読取分類機とアンプリンターとプリンターの機能までくっついているのだそうな。
それぞれの機能を持った機械は存在しているが(アンプリント技術はまだ開発中)、それらすべてを盛り込んだこの超複合機が実在することを確かめたものは誰もいない。

サル、タヌキ、虎、蛇という動物はこの世に存在しているが、「サルの頭とタヌキの胴体、虎の手足をもっていて尾が蛇になっている妖怪ヌエ」が実在していないのと同じである。

このほか、ペンシルプリンターの技術で書き換えた可能性もほのめかしてはいるのだが(144‐145ページ)、この技術に至ってはコンセプトだけでいまだ確立されてもいない。

はっきり言って「ムサシの票書換機」などというものは、ネッシーや宇宙人、ちいさいおっさんと同じくらいの代物なのだ。

 

◆不正選挙説-反論は陰謀

こんな無謀な説を唱えるリチャード氏の不正選挙説に対する反応はさまざまである。

「自民党らが不正を行った結果、大勝するはずだった未来の党が議席をほとんど取れなかった」という主張は、自民支持者から反発を、未来支持者から歓迎を受けやすいだろうことは想像に難くない。
リチャード氏のブログに攻撃的なコメントが書き込まれており、リチャード氏はそれらを「裏社会から脅しが」として紹介している。
当ブログではリチャード氏の面白ささえ伝えられれば十分なので、これらの余り利口とはいえないコメント郡についていちいち引用はしない。

リチャード氏はこれら鼻息の荒いコメントを「組織の中の武闘派」による書き込みと断定し、「この種の品も知性もない書き込みは逆に不正選挙の証拠と見做される」という。
この他にもガラの悪い留守電が2本きていたことを報告し「この恫喝電話は、12・16不正選挙に創価学会の裏部隊が関与していることを証明するようなもの」としている。

ガラの悪い、いちいち相手にしなくていい種類の電話だろうが、それが何で創価学会の関与を示しているのか一切不明である。 それと、少々暴力的で威勢のいいコメントを書き込む程度の人間を世間一般では「武闘派」とは言わない。

しかし、寄せられるコメントは何も物騒なものだけではない。
これを機会に創価学会を抜けましたといった、前向きに受け止められるコメントも寄せられているという。
特に私が面白いと思ったのは以下のものである。

「劣等感の塊で、いつも自分はダメだという気持ちがあり人の中に入っていくのもつらかったのですが、今はそこから抜け出すことが出来ました。ありがとうございます。」

ユダヤ金融資本との戦いの中で自分の殻を破り新しい自分の世界に躍り出た人も出てくる。私RKは陽気に彼を迎える。

「私RKも従来はとても弱い人間でした。でも、あなた同様にある日突如「吹っ切れて」以来、真正面を見据えて堂々と生きることが出来るようになりました。おめでとうございます。本物の人生があなたにもやってきたのです。ご活躍を!」
(109-110ページ)

なんだか自己啓発セミナーを思わせるような感動のやり取りだ。
コメントを残した彼はさらなる泥沼に足を踏み込んだだけなんだろうが、強く生きてほしい。

 

◆あふれる小沢一郎

とまあ、不正選挙陰謀論としての本書の面白さはここまでにして、この本で私が一番傑作に感じた部分を紹介。
なんといっても本書でいちばんトンデモなのは、リチャード氏が小沢一郎氏に対して抱く一方的な好意である。

リチャード氏によれば本書に書かれている裏社会の陰謀を、未来の党の小沢一郎氏も見抜いていたという。

選挙の神様、小沢さんの天才的な采配は今回も遺憾なく発揮された。選挙公示直前になって、国民の生活を解党し、未来の党に合流した。

「反原発」を旗印にした嘉田滋賀県知事を頭目に据えることによって、女性層の票を一気に取り込もうとしたのだと誰もが思った。そしてその策は功を奏したはずだ。

だが、小沢さんの深謀遠慮はその程度のレベルのものではなかった。小沢さんは、今回の衆院選挙で大規模不正が行われると読んでいた。
(45ページ)

そう、未来の党への合流は裏社会の謀略をかわすための物だったのだそうだ

こうして党名を変更することで、裏社会が準備していたニセの投票箱(何でも多量の自民党票と少量の国民の生活票で構成されていたものを準備していたらしい)は使えなくなってしまったのだという。
これによって裏社会は「稚拙な」手口に走らざるをえなくなり、多くの国民が不正選挙の存在に気付くきっかけになってしまったのだそうな。

そして2013年7月の参院選。不正選挙を糾弾する国民の強い意思は、政権を詐取した自民公明に、「再選挙」を要求するであろう。かくして、衆参同時選挙が行われることになれば、小沢さんの「生活の党」は大勝利を収める。多くの候補を擁立すれば、単独で政権を掌握できる可能性すらある。そこまで読んで、小沢さんは未来の党に合流したのではないか?であれば、ものすごい智謀家であると言える。RKもタジタジである。
(48ページ)

選挙の前からそのつもりであったとすら推測できるのだ。解党に際しての小沢さんと嘉田知事の笑顔がすべてを物語っている。有権者の大半には理解できなくても、やっぱり、小沢さんは当代随一の策士なのだ。
(162ページ)

RKもタジタジである」の記述には思わずふいてしまった。

上記の陰謀やらあるいは小沢氏による反計は、あくまでリチャード氏の脳内だけの話で、当然ながら小沢氏はそんなことを一言も言っていない。
小沢氏の未来の党の合流とその後の大敗をすべて自分のいいように解釈し、「智謀家」と讃え、勝手にタジタジになっているのだ。

引用文を読んで気づいた方もいるかと思うが、本書では小沢氏のことをほとんどの場合において「小沢さん」と“さん付け”で呼んでおり、強く親近感を持っていることがうかがえる。

相手を勝手に自分にとっての理想的な人間と決めつけ、信じ込み、それに沿うよう状況を解釈して一方的に強い好意を抱いている。
これが色恋沙汰ならストーカーといわれてもおかしくないだろう。

ただでさえ今の生活の党は存在感を示せておらず、7月の参院選で苦戦を強いられるだろうに、こんな変な人に変な期待をかけられていて実に気の毒なことである。
しかもリチャード氏は『独立党員諸君、7月4日(木)千葉に集まってください。』の記事で、ネットの中から一歩踏み出し、生活の党の議員を応援するつもりである事を表明している。

あまりかけてあげられる言葉はないが、せめていうなら「小沢逃げてー!」である。

 

……以上が当方の『12・16不正選挙』の紹介。
ここ2作の出来には非常に不満があったのだが、それを吹き飛ばしてくれる怪作に仕上がっている。
トンデモ本としての評価は★4つはつけたい。

これだったら、来年のトンデモ本大賞に候補作としてノミネートされてもおかしくないのではないだろうか。

リチャード小説を読んで「世界の闇を語る父と子の会話集 特別編 日本独立宣言」

今回の記事は昨年出版されたリチャード・コシミズ氏の書籍 『世界の闇を語る父と子の会話集 特別編 日本独立宣言』(以下『日本独立宣言』と表記)について。

過去作に比べると明らかにフォントサイズはとても大きい。
読みやすさが上がった分、情報量が経るということになるわけだが、私自身はこの本で世界を知ろうとしているわけではないので特に問題はない。

この本の特徴は、「出版当時(2012年12月)のRK陰謀論全般が書かれている」ということで、古くからのベテランの党員やあるいはアンチ、ウォッチャーにとっては目新しい記述は少ない。
説の多くはこれまでブログで書かれてきたものであるし、そうでないものにしても講演会で言及された話題である可能性が高い。
私自身は2012年度に行われたリチャードコシミズ講演会にそれほど目を通していないのだが、『日本独立宣言』の第7章「日本の未来は」に記述されている日本の資源に関する説明は『「出番」らしい』の記事で紹介した講演会「さあ俺たちの出番だ」で語られていたものである事に気づいた。

『311同時多発人工地震テロ』でリチャード・コシミズワールドに入門した人で、他の説についての知識をあまり持っていない人が読むことが最も適当と思われる(もっとも、人工地震説を知りたくてあの本を買った人がその他の説も読みたいと思ったかどうかはわからない)。

章は全部で7つ。以下のとおりである。

  1. 日本社会何やらおかしい。
  2. 311人工地震を普通の人に知ってもらいたい
  3. 中国を正しく理解しよう
  4. アメリカ信仰をぶち壊せ
  5. 裏社会に乗っ取られたメディア
  6. 台湾を理解し日本を知ろう。
  7. 日本の未来は

このような章だてとなっており、911陰謀論や月着陸捏造論、(出版時はまだ確定していないが)12・16不正選挙説なども含まれていて、「リチャードコシミズ理論」の大きいものは大体入っている。
しいて言えば、「2012年偽アセンション」の話は出てこない。

これまでにも語ってきたリチャード・コシミズ陰謀論を今また紹介しツッコミを入れて見せても面白味はないと思うので、そういった部分は抜きに、この本を面白そうな部分を頑張って紹介してみる。

 

◆江戸が出てくる

江戸時代にタイムスリップしよう。この本ではよく江戸時代にタイムスリップするんだが、江戸時代と現代とを対比すると共通項が見えてくるんだな。時代は変わっても本質は変わらない。
(20ページ)

この本は父と子が現代社会の陰謀について語っているのだが、父の方が時々江戸時代をからめて語り出す。
21ページで政界に「ホモ」がいると語り出しては江戸時代の若衆文化と絡めて語り出し、47ページで検察の腐敗について語るときには長谷川平蔵や遠山左衛門尉を絡め、そこから30ページ分くらいは江戸時代の話をいろんな陰謀論と絡めながら解説していく。
時には江戸時代の制度の解説もあり、親切といえば親切だが、完全な脱線である。
前作の『リチャードコシミズの新しい歴史教科書』で余ったネタを載せてるのかと思うほどである。

上記引用文から判断すると、二つの時代の共通点を本質(日本人の?)と言いたいようなのだが、だとすればリチャード氏が嫌っている同性愛と、検察(江戸時代においては火付盗賊改方や奉行)の贈収賄汚職が本質ということになってしまい、常々彼が言っている「日本人の美しさ」なんてものは微塵も感じられなくなってしまうのだが、いいのだろうか?

ただ、「よく江戸時代にタイムスリップする」といってもそれはあくまで最初の章。
その後の人工地震説やアメリカや中国についての話では江戸と絡めることはなく(人工地震と江戸を絡めることが出来たなら相当の腕なんだろうが)、237ページから少しお酒の話をした際に江戸の豆知識レベルで書いている程度である。

 

◆安定の石原批判・プーチン称賛

この本では、さまざまな人物・国家、国民がリチャード氏によって斬られる。

ユダヤ人はある意味当然のこととして、日本の政治家や右翼、在特会(この三者は「ホモ」ネタで随分と書かれている)、検察、宗教、メディア(これらは三大悪とされている)、中国人、アメリカ人、台湾人など、一通りは叩かれる。

中国が叩かれているということで意外に思う人もいるかもしれないが、リチャード氏は基本的に日本および日本人が一番という考えなので、中国人を何が何でも持ち上げるというわけではない。
リチャード氏はアメリカを嫌っており、アジアの特に中・韓・露との経済的な連携を重視しているので「比較的好意的」であるにすぎない。

チベット問題で中国政府の味方をし、尖閣問題では棚上げして共同開発を唱えるが、その他の中国の問題(反日暴動、パクリ、いい加減な留学生)では中国を批判しているケースはいくつかある。

『日本独立宣言』の「中国を正しく理解しよう」においては中国を将来的に重要なパートナーと位置付けてはいるものの、現在の中国社会における問題をいくつも紹介し、批判をしている。

アメリカは当然のこと、台湾についても批判的なスタンスをとっており、『日本独立宣言』において外国を褒めている記事というのは見当たらない。

政治家は個人のレベルで手ひどく書かれているのだが、なかでも石原慎太郎に対する批判というか暴言は何度も登場。
数え方にもよると思うのだが、7か所ほどでてくる。
書いている内容は執筆中の時事、すなわち衆議院選挙関係のニュースに関連したものが多い。
そのためかネタそのものは少ないようで、「太陽の党の名前由来は太陽族」、「石原慎太郎が橋下徹の発言した維新の会の公約を把握してなかった」というエピソードはそれぞれ2度登場している。

面白かったのは党名に関するやり取り。

俺の年代だと、太陽の季節という映画を思い出す。縊死原が書いた小説の映画化で石原裕次郎なんかが出演していたと思った。当時の青春乱脈映画だな。不純異性交遊とかヤンキーだとか暴走だとか、まあ、当時の不良の世界を書いたものだ。太陽族なんていう不良集団を産んで社会問題化したわけだ。

その昭和30年代の自分が作った倒錯文化を思い起こさせる太陽の党なんてネーミングをしたわけですね。つまり、太陽の季節を知っている爺さん婆さん票狙いってことだね。
(35ぺージ 「縊死原」は原文ママ)

縊死原慎太郎の太陽族みたいだなあ。

何じゃそれ?日焼け大好き年中真っ黒の会?違うか。つまらないこと言いましたすいません。

縊死原慎太郎が書いた太陽の季節っていう小説やそれが原作で弟の裕次郎が主演した映画から派生した当時の若い連中のことをそう呼んだんだ。要するにちょっと悪く言えば不良、チンピラってことだな。
(306ページ 細字は「父」の発言、太字は「子」の発言)

270ページ前に聞いた質問をそっくり忘れた息子も息子だが、ほぼ同じといっていい解説を繰り返した親父も親父で、記憶力がない。
あと、石原裕次郎は出演こそしているが、主演ではない(主演は長門裕之)。

 

石原慎太郎はぼろくそに書かれているが、逆に褒めちぎられているのがロシアのプーチン大統領である。

石原慎太郎の場合と違って、224ページから236ページまでの間に集中して書かれているが、とにかく褒めて褒めて褒めまくる。
リチャード・コシミズ中国工作員説ではなく、ロシア工作員説が浮上するのではないかという勢いである。

プーチンはロシアの救世主だな。ロシアだけでなく世界の救世主かもしれない。
(225ページ)

ロシア国民は優れた指導者をもって幸せだよ。それに引き換え日本は・・・・糞っ。
(228ページ)

プーチン閣下は、金融ユダヤ人の新たな対日テロ計画を未然に防いでくれたかもしれないんだ。
(232ページ)

プーチンは金融ユダヤ人に毅然として対峙する現代の英雄だと我々の評価も固まってきている。
(235ページ)

うひゃあ、日本人よりも日本人的じゃないですか。武士だ。もののふだ!

柔道は単なるスポーツではない。柔道は哲学だなんて言葉も残しているな。プーチン氏が柔道家であることは、日本の誇りだよ。
(236ページ 太字は「子」の発言です)

232、235ページの表現からわかるように、プーチンはユダヤの陰謀を知っていて、様々な形で牽制してくれていることになっている。
どう牽制しているかというと、「フィギュアスケートのオープニングで地震の波形を使った→人工地震を見抜いているというユダヤに対するメッセージ」、「ロシアのボランティア学生500人に急きょ日本旅行をプレゼント→ユダヤのテロをこの旅行が阻止した」、「ロシア軍機が領空侵犯→ユダヤの手先の潜水艦を牽制」ということらしい。

領空侵犯をこうまで前向きに解釈するあたり「恋は盲目」という感じなのだが、500人の学生が日本旅行したことでテロが防げるという意味不明さに比べればマシに見えるのがリチャード・コシミズ理論のすごいところである。

 

……このほか、事実と違うケースやソースが不明なケース、ソースが明記されていても発信者が社会主義解放党という共産主義政党の機関紙でだったり(288ページ。共産主義者はユダヤの手先じゃなかったのか?)、参考記事の投稿者がリチャードコシミズ自身だったりするケース(211ページ 「ブッシュ親子の自作自演テロの11」は阿修羅時代のH.N)や、「RKブログの優秀な寄稿者」として紹介された人(266ページ)が不正選挙陰謀論関連でのちに工作員認定されていたりするケースなど、いくつかのツッコミどころはあるのだが、「本書は小説です。文中の登場人物や団体は架空のものです。また、参考文書、参考記事、画像等は本文とは直接関係がありません」(397ページ)という締めの文章によってすべて虚しくなるのでこまかく書くのはやめておこう。

まあいずれにしても、「内容は新しくない」ということは強調しておく。
同書のラストに出てくる日本民族の優秀さの根拠を並べ立てている(394~395ページ)が、これも過去2010年11月の名古屋講演会で述べていたものだった(『年末おすすめはできない動画』で紹介記事あり)。

何年かに一度、こういうRK理論を網羅した本を出すというのも悪くないかもしれないが、古くからの読者にとってはいらない本になってしまう。
最近独立党で講演会を文書化して配布するという活動を行っているが、今後はこれで十分まかなえるのではないだろうか?

 

採点するのはなんだかむなしいので、やめとこうかなと思う。
どう点をつけたらいいのかもよくわからなくなってきたし。

 


《参考図書というか読んだ本》

リチャード小説を読んで:「リチャード・コシミズの新しい歴史教科書」

遅くなってしまったが、今年のリチャード氏の新刊『リチャード・コシミズの新しい歴史教科書』を手に入れたので紹介したいと思う。

◆自由な?本

相変わらずだしいまさら言うまでもないが、小説とはいえない。

いや、それどころか「歴史教科書には書かれていない真の歴史について書いた本」といってもいいのかどうかも怪しいもので、良く言えば「自由な本」、悪く言えば「おぼつかない本」でもある。

小説っぽくなさはこれまでの本のとおりで、各章ところどころでセリフをしゃべったり登場人物が何か行動をとる描写があるのだが、その割合は低く、「○○する。▲▲する。」という風に事象を羅列した解説が大半を占めている。
また脱線も多く、とくに過去の歴史を話していた流れを斬って、現在の世界や日本について話がそれる箇所が多かった。
各章で脱線せずに過去の歴史を語り、最後に現代についてまとめて熱く語る章を書いてくれればよかったと思う。

また、本書は現在の歴史教科書を否定し、真の歴史について書くことを主たる目的としているはずなのだが、案外定説を否定していない印象がある。

間宮林蔵について書いた「2.幕末ご公儀隠密伝」は別に「歴史教科書に書かれているのはこうだけど、本当はこうなんだ」というような論調は一切なく、ただただ間宮林蔵の話。
リチャード氏の「間宮林蔵の生き様が好き」という動機だけで書かれており、別に正史を否定するような内容ではない。

「5.秀秋と清正の1600年」は前半が関ヶ原から大坂夏の陣までの正史どおりの話で、後半は「もしも加藤清正が50歳で病死していなかったら」というIFの話に突入する。
ただただリチャード氏の思い描いた「もしも」の話が書かれていて、歴史を学ぶも何もない。
小説らしい試みとは言えるが、本書のコンセプトからは外れている。

間宮林蔵は従来の歴史教科書でそれほど名前が出てこないだろうし、ましてや普通の教科書には「もしも○○だったら」なんてドリーム話は書かれていないわけで、そういう意味では確かに歴史教科書にはない内容なのだが、ちょっとこれは違うだろう。

この2つ以外の章、「2.アドルフ・ロスチャイルド・ヒットラー」、「4.土佐のカシキの日本開国記」、「6.日韓併合とオウム事件の関係」、「7.1944年の対日人工地震・津波攻撃」、「8.韓国人になった日本人と日本人になった韓国人」はいずれも本来の目的どおり「真の歴史」について語っているわけだが、まあだいたいリチャード氏が過去の講演や、ブログあるいは独立党ができる前に書いたネットの記事なんかが元になっているのがわかる。
ベテランの独立党員には「過去に聞いた」と感じるような話ばかりではないだろうか(私自身が初めて目にしたのは、8章の雑賀衆→沙也可に関する記事だけだった。とはいえこれも既出かもしれない)。

活字化することに意味があるから、過去に語られた話でもいいという考えもあるかもしれないが、それにしても1章のヒットラーの章には不満がある。
何しろベースになったのが、リチャード氏の書いた記事の中でも相当に古いものであろう、『アドルフ・ヒットラーはイスラエル建国の父』、『ユダヤ・ロスチャイルド卿の孫、ヒットラーはイスラエル建国の使命を果たした後、南米で余生を送り20年前まで生きていた?』、『ホロコーストは戦後のユダヤ特権を享受するための捏造神話』、『アンネ・フランクは、アンネの日記を書かなかった。』といった2005年の記事の転用、参考記事のリンクがそのまま丸写しのためにリンク切れのものが少なくないのだ。

それに歴史教科書なのに、カバーしている範囲が狭い。
日本史では戦国時代末期から江戸時代、幕末のあたりが充実しているが、他の時代の話題は少ない。
世界史の部分は現代史のみ。
なんでこれで歴史教科書を名乗っちゃったんだか。

 

◆ところどころツッコミ

この本の間違ってる箇所とかにすべてツッコミを入れるのは相当大変だし、ここのブログで過去に記事にした部分もかなりあるので、昨年の本のように徹底した書き方はせず、特に目立ったところを紹介する。

 

・ガス室は非効率

それに大量虐殺を行うのにガス室など必要ない。どうしても効率よく殺戮したいなら、密閉したプールに囚人を放り込んで注水すればいい。水を抜けばすぐに次の一群を「処置」できる。ナチスが「チクロン・ガス」を使って大量殺人したという話がまことしやかに伝わっているが、ガスを使えば換気が済むまで室内に入れない。不効率極まりない。
もっと簡単に大量殺人を実行する方法がある。収容所にいれた囚人に飲食を与えない。二週間もすれば飢えと乾きで一人も生き残らない。
ガスも水もいらない囚人の処理方法である。なぜ、この方法を取らなかったのか?ガス室殺人自体が嘘だったからである。
(50ページ ※「チクロン・ガス」は「チクロンB」の誤記と思われる。)

これのどこが効率的なんだか。

特にプールはひどい。
一回の大量殺人にどれだけの体積のガスや水が必要なのかはわからないが、密閉したプールを作って注水し、そして排水するなんて構造にしたら、その施設には上下水道を完備しなくてはならないという、面倒さがある(死体が詰まる恐れがあるため、排水口はいい加減なつくりではだめだろう)。

実際に絶滅収容所にあったガス室では、屋根に上ったナチス隊員がチクロンBを放り込む方式をとっている。
チクロンBは珪藻土にシアン化合物を染み込ませたもので、固形である。
ガス室に投げ込まれると中にいる、すし詰め状態のユダヤ人たちの体温で毒ガスが揮発し、彼らを死に至らしめるのだ。
固形のチクロンBは水に比べればずっと軽くて扱いやすいし、発生する毒ガスは空気より軽い性質のものだったため、一旦屋外へ換気してしまえばあとははるか上空へ勝手に散っていってしまうので、地上には害がでない。
ガス室には、密閉空間にするために機密性の高い出入り口、チクロンBを放り込んだり換気するために開閉の可能な煙突などがあればいいだろう。
水道をひかなくてはならないプールに比べればガス室はずっと簡単に作れるのだ(実物にはさらにシャワー室に見せかけるためのニセのシャワーがついている)。
またチクロンBを投げ込むナチス隊員や、死体の処理をやらされたゾンダーコマンドはガスマスクをつけて作業をしていたため、換気と同時進行で死体を処理することも可能だった。

飢え死にさせる方法もあまり効率的とは言えないだろう。
死ぬまでに2週間かかるということは、その間彼らを収容する施設と人員が必要になる。
収容所にはいろんな土地から次々にユダヤ人が送られてくるため、全員を2週間も生かしておくような、悠長な手段はとっていられないだろう。

ただ、ナチスは飢え死にさせるという手段をとっていなかったわけではない。
ユダヤ人は全員が即座に殺されていたわけではなく、労働に耐えられそうな者は強制労働をさせられていた。
彼らには満足な食事が与えられず、文字通り死ぬまで働かされたという。
絶滅収容所から保護されたユダヤ人の写真には、骸骨の上に皮をかぶせただけのようなショッキングな姿の人物が多く写っているが、彼らはそういった過酷な条件で働かされていたためにそのような姿になったのである。

 

・坂本竜馬の功績って何

筆者自身は、「坂本竜馬が一体どんな功績を遺したのか、是非知りたい」ものである。
(100ページ)

ユダヤ権力は、自らの傀儡、手先を美化するためにメディアを使って「竜馬ブーム」を引き起こし賛美する。そして、日本人の多くは黒幕の思惑も知らず、手放しで竜馬を褒め称える。
だが、彼らに「竜馬の功績はなんなのか?」と聞いてみればいい。誰も的確に応えることはできないはずだ。
(106ページ)

……亀山社中や海援隊の設立とか、薩長同盟の締結とか、明治維新で重要な役割を果たした竜馬もリチャード氏の手にかかればユダヤ人のパシリである。
これらの仕事はすべてグラバーの手によるもので、竜馬は別に何もしていないというのが本書の主張である。
重要な功績を全てユダヤ人のものにしてしまえば、当然竜馬の功績はゼロになってしまう。

一応グラバーはスコットランド人と指摘したいところであるが、「隠れユダヤ人」という魔法の言葉ですべて無効化されるだろう。

 

・今回も「小説」の形態で出版します

さて、これは小説である。
(151ページ)

さて、小説から現実世界に戻る時間のようだ。
(166ページ)

えっ……。
「さて、これは小説である」とわざわざ断りが入るのも驚きだが、小説をやめちゃう宣言をするあたりかなりの衝撃である。
これは「もしも加藤清正が50歳で病死しなかったら」というIFの話の始めと終わりに書かれているのだが、この仮定の話が終わって小説じゃなくなった後は一体なんなのだろうか?
「現実世界に戻る」とかかれてはいるが、実際にはこの後「ひとりの人間の存在が歴史を左右する」というリチャード氏の話になる。
「あとがき」に近いだろうか。

 

・南京大虐殺について

この本が出る前の予告の文章では南京大虐殺についてリチャード氏の見解が読めるという期待があったのだが、各章のタイトルを見る限り、第二次世界大戦中の日本をテーマにしたものはなく、触れないかもしれないとおもっていた。
しかし、本当にさらっとだが、南京大虐殺についての見解を述べている部分があった。以下のとおりである。

「南京大虐殺事件」があったのかなかったのかの論争がある。大きな戦争行為であった以上、「虐殺」と呼べるような蛮行が全くなかった例はない。多くても少なくても犠牲者がいる限りは虐殺はあったと認識すべきであろう。ただし、中国側の言う数十万の死者という数字は根拠に乏しい。
(231ページ)

これだけである。
すごくあっけない感じだが、これは大体歴史学者たちの認識に沿う見解だろう。
この後、尖閣問題や慰安婦問題についても書いてあるが、いずれもあまり深くは掘り下げていない。
というのも、これらの問題で日中が対立すること自体がユダヤの陰謀であるというのがリチャード氏の考えだからである。

北朝鮮と背後で癒着したユダヤ権力は、日中関係を悪化させて日中経済協力が進まない状態を維持したいのだ。日本は大事な金蔓であり、搾取の対象だ。絶対に手放したくない。
よって、南京、慰安婦といった個別の問題を論じること自体、意味がない。まったく不毛な議論だ。主張の背後にどんな利害関係が潜んでいるのか知らずに、悪戯に中国批判をするのは、北朝鮮とユダヤ搾取資本家を助けて、自分の首をしめる愚行なのだ。
(232-233ページ)

つまりはまあ、歴史認識(と領土問題)に対しては乗り越えずに、「こまけぇこたぁいいんだよ!!」とばかりに置いておこうということだろうか。

しかしこれを実践するには日本だけでなく、中国側の協力が不可欠である。日本だけ一方的にこういうことを言ったら、またデモ(というか暴動)が起きてしまう。
反日デモ陰謀論の時のように、このあたりの文章も中国語訳して発信すればよいのではないだろうか。
たぶん怒られると思うが。

 

・ナチスの原爆

それにナチスが原爆を完成していたのであるなら、なぜ、連合軍に対して使用しなかったのか?ロンドン・モスクワに重爆撃機で運んで上空で炸裂させれば、戦況は一瞬にして逆転する。なぜそうしなかったのか?謎は・…とくにない。ナチスが「勝ってはいけないシオニスト謀略組織」であった以上、原爆を使って戦争に逆転勝利するなど論外だったのだ。ユダヤ裏社会のシナリオ上では、既に戦争は「ドイツの負け」が「決定」済みだったのだ。
(247‐248ページ)

いきなりここを読むとすごく意味不明な文章だと思うので、補足説明をしておく。
これは「広島に落とされた原爆はナチス製で、それを連合軍が入手して使用した」という奇説について書かれた箇所の一部である。

予定調和でナチスが負けることが決まっているなら、一発逆転できそうな大量破壊兵器なんて開発する事自体が変だとは思わないのか。

ちなみにこの突拍子もない「ナチス製原爆説」の出所は、元スパイのアンヘル・アルカサール(もしくはアルカッサル)・デ・ベラスコという人物で、本書のヒトラー生存説について書かれた部分に、副官マルチン・ボルマンをアルゼンチンに送り届けた人として名前が出てくる人物である。
捏造の世界史』(奥菜秀次 祥伝社)によると、「マルチン・ボルマン生存説」のスクープを大々的に報道したものの、のちに偽写真と捏造文書によるガセネタと判明し信用を落としたジャーナリスト、ラディラス・ファラゴの情報源の一人にこのベラスコがいたという。

 

◆コシミズ文学は爆発だ(擬音的な意味で)

最後に一番笑わされた箇所について紹介。

だが、包囲戦はじわじわと秀頼方を弱体化する。家康の兵はじりじりと城に肉薄する。そして、英国から購入した大砲で砲弾を打ち込む。家康側は事前に大坂周辺の食料を買い占めていたので、秀頼軍は食糧不足に陥る。家康側は同時に「和議」を申し入れるが、強気の淀君ははねつける。
ドッカーン、キャー・・・・・・
淀君の在所の近くに英国のカノン砲の砲弾が着弾する。淀君の侍女8人が、淀君の目の前で爆死する。
(141‐142ページ)

この「ドッカーン、キャー・・・・・・」にはヤられてしまった。
電車の中でこの箇所を読んでいたのだが、予想を超える文学的な表現の登場に、危うく声を出して笑ってしまうところだった。

「ドッカーン」て!「キャー」て!
ケータイ小説か!

残念ながらこの表現はここだけにとどまり、これ以前も以後もうまくもなければ愉快でもない表現で本は書かれている。
この擬音主体の表現スタイルで終始書きとおせば、日露戦争の日本海海戦あたりはドッカンドッカンと擬音の飛び交う楽しい文章になっていたと思うのだが、実に残念である。

 

この本についての紹介はここまで。
次回以降に続くことも特に予定していない。

本の評価としては……☆2つ!
リチャード氏は現在の歴史教科書を退屈なものとして、この本を書いたようだが、この本もかなり退屈である。
ヒトラーあたりは「真の歴史」ネタも豊富で、かなり飛ばしている感じがするのだが、間宮林蔵の話は期待していたような路線の話ではないし、清正の話も同様である。
この2つの章は途中でパスしてしまいたくなったほどだ。
正史に反する説を唱えている章でも、正史に沿ったを説明する箇所がかなりの割合を占めていて、教科書あるいはWikipediaを読めばいいのかなと感じる箇所がかなり多い。
たとえば、日露戦争のバルチック艦隊を倒した日本艦隊の勝因として挙げられた「下瀬火薬」「伊集院信管」「三六式無線電信機」「宮原式汽罐」「驚異的な識字率」といったものは、いずれもWikipediaの『日本海海戦』で新技術として紹介されており、リチャード氏独自の評価という感じはあまり受けない。

ところどころに飛び出す非合理的な考え方や、「さてこれは小説である」や「ドッカーン、キャー……」といった表現が楽しませてはくれたものの、全体としては過去に見聞きしてきたリチャード・コシミズの言説の再録なので、読んでいて退屈さを禁じ得ない。

ページ数が大幅に減少したことも減点対象である。
今回は巻末の広告ページ24ページ分と奥付を含めても306ページとなっており、『小説9.11』や『2012年アセンションはやってこない』、『3.11同時多発人工地震テロ』の三作はいずれも本文が350ページを超えたのに比べると、本書は相当に少ない。
もっとネタを集めてからこの本は出すべきではなかったのだろうか。
しかも値段は旧作と同じ2000円で、割高感がしてしまう。

前述の面白文章がなければ☆1つにしていたところだ。

次回に予定していると噂の「小説3.11」では、人工地震発生の過程を擬音を多用して表現してもらいたいものである。

【2012/10/10 訂正】
以下の部分を訂正しました。
× 「ドッカーン、キャー……」
○ 「ドッカーン、キャー・・・・・・」
三点リーダだと、ブログ上での表示が実物とは異なってしまうので直しました。

 


《参考図書》

 

リチャード小説を読んで:「3.11同時多発人工地震テロ」(2)

前回は小説としての「3.11同時多発人工地震テロ」の小説としてのツッコミどころを書いたので、今回は陰謀論としてのツッコミどころを書いていく。

◆二重に架空を重ねた上に成り立つ人工地震説

タイトルの通り、人工地震がこの本のメインになるが、説得力は今一つ。

本書の中では人工地震を起こす方法については「推測しています」とか疑問形でRKが語ることが多く、「具体的に3つの地震をどうやって起こしたのかは、まだよくわかっていません」とさえ言っている。

未遂に終わった分を含めると膨大な回数行われたはずの人工地震が起こされた現場を一つとして押えてないのだから、当たり前といえば当たり前ではある。

しかしそんなことを言っててもせんないので、リチャードコシミズ人工地震説をまとめてみる。
75~78ページの記述を中心に、他のページの描写なども参考にして組み立ててみた。

深海掘削船で10㎞海底を掘る 。掘削船のドリルで深さが足りないときは、バンカーバスターを多数打ち込んで掘る

潜水艦で孔の底に核兵器(水爆、都市部に近いところでは純粋水爆)を設置し、爆発させる

爆破の影響でマントル層まで亀裂が走る

亀裂に水がしみていく(10時間とかかかる)

するとマントル層で核融合反応が起きやすくなる(あるいは起きる)

大地震

この仕組みの重大な欠陥は「マントル層での核融合反応が地震となる」という理論(以降、提唱者である故 山本寛氏の名前から山本理論と表記)が科学的に証明されていないことだ。
そもそもリチャード氏自身、山本理論を「まだまだ一般に認められたものではない」(78ページ)と書いている。
「まだまだ」と書いているがおそらく将来的にも認められることはないと思う。

純粋水爆を含めた膨大な数の核兵器運用と山本理論、証明出来ていないものを二重に使うことで人工地震説は成り立っている。

それはつまり、この人工地震説が現実とかけ離れた妄想の領域を出ないということだ。

また、人工地震兵器というものが2011年3月11日より日本で使用されていたと考えると、実用性の面で非常に難があることも、「人工地震説」に説得力がない一因である。

余震の回数を考えると、人工地震というのは恐ろしく成功確率が低い。

本書の中でも人工地震の多くが失敗に終わっているということは書かれている。

こんなものがはたして軍事技術と呼べるのだろうか。
人工地震は1940年代に確立された「陳腐な旧式の大量破壊兵器」らしいが、こんな下手な鉄砲を数撃って当てなきゃならないような戦法を採用するなど非合理の塊だ。

本書では1944年12月の「東南海地震」、1945年1月「三河地震」を人工地震による攻撃であったとのほめかしているが、現在のこの非効率な「人工地震」のありさまから考えると、1944年12月から翌1945年1月までの期間に例年に比べて非常に多く余震があったということだろうか?

そもそも第二次大戦中にアメリカにそんな攻撃ができたとしたら、地震攻撃のことをわざわざ隠す必要はないだろう。
地震兵器を種に日本に降伏を迫ることができただろうし、共産主義圏を牽制することもできただろう(リチャードコシミズ理論によればWWⅡも共産主義もユダヤ人の陰謀らしいのでどうとでもなってしまうのだろうが)。

また本書で書かれている内容が事実なら国内に数百発を超える核兵器があったことになる点や、核爆弾を東北・関東中で埋めて回らなくてはならない準備作業に関して目撃情報等がない点など、人工地震説の問題点はほったらかしである。

◆気象庁がデータを隠したという話

この本に限らず、リチャード氏のブログや講演でもみられるが、気象庁が地震発生について行った記者会見の情報を後に隠ぺいしたと主張をしている。

隠ぺいされたとされるのは3月13日の記者会見で発表された「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」という情報のこと。
これが隠ぺいされ、一つの大きな地震だったということにされてしまっているというのだ。

「…〈前略〉… 気象庁が地震後数日の公式の会見で、ありえない地震だみたいな発言を残したのは、まずかったんでしょうか。人よっては人工地震を想起しますからね。
この記者会見の記事、早々とネット上から消されてしまいまして。裏社会さんには不都合な話だったんでしょうね。まあ、こっちは魚拓でもキャッシュでも対策はあるので構いませんけど。笑」

そして以後、「最初の破壊の後に、第2、第3の巨大な破壊が連続して起こり」といった当初の話は消え去り、ただ一回の普通の地震だったことに書き換えられているのだ。

資料・・地震情報(震源・震度に関する情報)
平成23年3月11日14時53分 気象庁発表
きょう11日14時46分ころ地震がありました。
震源地は、三陸沖(北緯38.0度、東経142.9度、牡鹿半島の東南東130㎞付近)で、震源の深さは約10㎞、地震の規模(マグニチュード)は7.9と推定されます。
〈後略〉
(72~73ページ)

文章からすると、書き換えた後の公式情報というのが「資料」として提示されている情報、ということになるのだろうか。

だとするとこれは相当におかしい。
見ればわかるとおり、引用されている情報は地震発生から7分後の速報段階の情報である。
マグニチュードが7.9で震源の深さは10㎞。
明らかに現時点での東北関東大地震の常識とは食い違っている。
今「テレビや新聞からしか地震の情報を得ていない人」に聞いてもマグニチュードが7.9だという人はおそらく非常に珍しいだろう。勝手に世間の常識を取り違えたか、引用すべき情報を間違えたか、あるいは勘違いをしているとしか言いようがない。

そもそも「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」という気象庁の発表は、隠ぺいも撤回もされていない。

気象庁HPには「報道発表資料」のページがあり、マスコミ向けに発表した情報はここで閲覧することができる。
今回の地震に関する様々な発表は「「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について」というタイトルが付けられ、発表された順に「第○報」と明記されている(5月27日現在で第45報まで発表されている)。[1]

この中で扱われている情報は余震に関するものが多いが、メカニズムついての発表も存在している。
「地盤の巨大な破壊が3つ連続して発生した」というメカニズムについては第15報(3月13日)と第28報(3月25日)において触れられており、その後の第45報(5月27日)までの間にそれらを撤回するようなメカニズムについての発表など一切存在しない。

最近では東大の井出哲准教授らのチームが断層破壊のメカニズムについて「深部→浅いところ→また深部」という順序で起こったと「3つの破壊」について解析を発表している。[2]

何も隠ぺいなどされていないのだ。

どうしてこの情報が隠ぺいされたなどと思ったのか、理解に苦しむ。

◆頼りない顔ぶれ

本書では説の補強材料として様々なコメントや文書が引用されているわけだが、どうにも独立党ブログのコメントに偏りすぎている。
コメント欄でいくら「人工的な臭いがする」とか「自然現象だと説明するレベルはとうに超えている」とかいった書き込みがあっても、それは結局のところ発表された情報に対する個々人の感想に過ぎず、「あっそう」としか言いようがない。

また、山本理論の主張に当たり、リチャード氏は同様の説を支持しているであろう人物として柴田哲孝氏の名前を挙げ、民主党議員 風間直樹氏の提出した質問主意書を紹介しているが、これもどうにも頼りない。

75ページ、135~136ページの阪神大震災人工地震説で紹介される柴田氏は作家。
下山事件を扱ったノンフィクション作品なども書いているようだが、阪神大震災陰謀論をテーマにした作品「GEQ」はフィクションとノンフィクションの要素が混じった小説である。[3]
135~136ページの文章を読む限り、阪神大震災人工地震説を成立させるために、山本理論を利用しているだけのように思える。
これではリチャード氏と同様、山本理論が事実でないかぎり、人工地震説は成立しないと言ってるようなものだ。

91~92ページにわたって紹介されている参議院質問主意書だが、単に山本理論を事実だと信じ込んでいる国会議員がいる、という話にしかならない。遺憾ながら。

質問主意書では、中越地震の震源地が二酸化炭素貯留地点から20キロという点からだったということで地震と二酸化炭素の封入を関連付けて質問しているが、これに対する福田総理の回答は貯留地点と地震を起こした地層に連続性はないので無関係、というものだった。[4]
風間議員は山本理論に基づいて地震と封入実験を関連付けて質問しているが、福田総理はプレート理論に基づいて回答しており、なんだかむなしいやり取りである。

この質問主意書を書いた風間直樹議員は第168回参議院災害対策特別委員会で、山本理論に言及した際、ホッカイロが温まる原理を核融合で説明するという珍プレイもやらかしている。[5]

◆犯人に関する証拠らしいものは無し

この本を最後まで読んでも、結局人工地震を起こしたのがユダヤ人である、ということは特に証明されていない。

でてくるのはせいぜい、イスラエルの医師団と仏大統領サルコジ氏(母親がギリシア系ユダヤ人。祖父の代にカトリックに改宗)が来日したことと、福島原発のセキュリティシステムにイスラエル系企業のマグナBSP社が関わっていたことくらいで、人工地震が金融ユダヤ人の指示のもと「世界ゴロツキ共同組合」によっておこされたと主張する根拠というものはない。

当然、文中に出てくる米軍や自衛隊に特定の宗教団体の信者によって構成された部隊があるという主張も証明されていないし、東京電力や気象庁、マスコミが陰謀にかかわっているという主張も証明されていない。

204ページから始まる「311テロリストがつくった缶政権」、「金融ユ●ヤの世界支配」(←本書では「ユダヤ人」は徹底して伏せ字で書かれている。18禁?)、「「311」同時多発テロ」、「世界ゴロツキ協同組合日本支部」までの4章の間で書かれている「世界の指導者層にはユダヤ人、隠れユダヤ人とその手先が大勢潜んでいて、過去の不幸な歴史の陰でユダヤ人が暗躍してきたにちがいない」という主張を真に受け、「だから今度の地震もゴルゴムユダヤ人の仕業だな!」とでも考えない限り、この本をいくら読んでもどのような根拠をもって人工地震を起こしたのがユダヤ人だとRKが考えているのかはわからない。

◆そのほかの主張について

計画停電陰謀説 (87~88ページ,149~155ページ)
計画停電は陰謀だという主張。
87,88ページでは、東京電力の原発17基が止まっても停電したことはないのに、今回福島の原発がダメになったから停電する、というのはおかしいという根拠を示している。

電力の供給量が足りなくなったのは、何も止まってしまったのが福島原発だけだからではない。ほかにも火力発電所の発電機が多数停止していたためである。[6]
計画停電が必要な理由に火力発電所がいくつか停止したことが挙げられていることについては、149ページでは触れてる。
しかし、火力発電が止まったことに関して特に反論は書いておらず、東電と政府の発表が唐突におこなわれたとか、テレビで解説がなかったなどと書いている程度である。

計画停電の電力を純粋水爆の起爆に使ったとも書いているが、過去の純粋水爆は常温核融合で起爆装置を動かしたと主張していたのに、今回は一般の電源で起爆していることに関して説明はない。

福島原発の建屋が吹き飛ぶ映像消音陰謀説 (58ページ,108ページ)
福島原発の3号機が水素爆発を起こした際の映像に日本のニュースでは爆発音が入ってなかったのに、YOUTUBEにアップロードされている海外のニュース映像[7]には3つの爆発音がついている、というもの。

同様の動画のコメント欄に反論が書かれているが「20㎞以上離れた位置からの映像なのに時間差がほとんどない」のはあきらかにおかしい。 音速から考えれば1分以上の時間差があるはずだ。
また、20㎞も離れたところまで音が届くほどの爆発なら、3号建屋の破壊だけですまないのではないだろうか。

「音つき」が確認できるのもYOUTUBEにアップされたものだけで、動画の元になったSkyNEWSの記事で確認できる動画には爆発音はついていない。[8]

緊急地震速報が外れるのは人工地震だから説(157~159ページ)
緊急地震速報が外れるのは、核実験(人工地震)はP波が強くS波が弱いため、地震速報システムが強いP波を感知して速報を出しても揺れを感じるような強いS波が来ないためである、という主張。

緊急地震速報が外れることについては、気象庁が見解を発表している。[9]

3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の発生後、同月12日03時59分頃の長野県北部の地震や同月15日22時31分頃の静岡県東部の地震など広域にわたって地震が多発しています。
このため、ほぼ同時に発生した複数の地震からのデータを適切に分離して処理できず、適切に緊急地震速報(予報及び警報)の発表ができない事例が発生しています。
改善方法については検討を進めていますが、直ちに対応することは困難な状況です。
(『緊急地震速報について』気象庁HP)

ほぼ同時に発生した複数の小さい地震の波を一つの大きい地震だとシステムが勘違いしてしまう、ということである。

ただ、この陰謀論についてはいちばん出来が良かったと思う。

怪しい黒い雲(85~86ページ、161~162ページ、184~191ページ、198~203ページ)
東京湾で純粋水爆が使用された際の熱によって海ほたる上空に黒い雲が出た、その後ねっとりとした根着生の灰色の雨が降り、雨にうたれた人間がその後、呼吸器や喉の不調の症状を訴えているという話。

雨に降られた後の咳って、ただの風邪ではないのか。

陰謀はユダヤの暦と一致する説(307~309ページ)
「ユダヤ裏社会は、ユダヤ教の暦や数字のごろ合わせにひどく拘る。」(307ページ)という主張である。

本書では2003年のイラク戦争の前祝いとしてピュリム(purim)の祭礼を行っていたとし、今回の地震もピュリムが最終戦争のタイミングとなりうるのだとか。

今年は3月20日がピュリムなのだそうだが、とくになにもおこっていない。地震そのものは9日も前だ。
イラク戦争にも「前祝い」と書いてあることからわかるとおり、ピュリムの当日に何かが起こったわけではない。

これで「ひどく拘る」と言われても困る。

それではこれまでに行われてきた陰謀の日付にはそういった暦との連動していたのだろうか?

911同時多発テロ、スマトラ沖大地震、バリ島ディスコ爆破事件、連邦ビル爆破事件。
過去にさかのぼれば明治維新や日露戦争、真珠湾攻撃など、リチャード氏がユダヤの陰謀によるものとする事件は山ほどある。
その中でどれほどの事件がユダヤ教の暦と連動しているのだろうか?

何でもいいからとにかく今回の地震とユダヤ人と関係づけたいという根性が見え見えである。

中・ロの救助隊を追い返したのに、ユダヤ人は受け入れているという説(113~114ページ,348~350ページ)
中国とロシアの救助隊が追い返されたのに、イスラエルの医師団や仏大統領サルコジ氏が日本に受け入れられたのは陰謀だ、という説。

引用記事を見る限り、中国とロシアの救助隊が追い返されたとは言えず、救助の任務を終えて帰国しただけにしか見えない。[10][11]
中国の救援隊は13日、ロシアの救助隊は15日から日本に入っており、どちらの帰国も日本での任務開始から1週間経過してからの任務終了である。[12][13]
救助活動は災害発生から短い時間が勝負なので、救助隊としての仕事は終わったと判断したための帰国だろう。

イスラエルの医師団やサルコジ氏は救助隊とはやることが別なのだから、時間的に日本入りがそれより後になっても不思議はない。

医師団は救助活動目的ではなく、避難所に人たちの健康管理に携わるために来たのだろうし、サルコジ氏はあくまで外交政策の一環だろう。

それぞれ役目が違うものを並べて比べてみており、まったく無意味な行為である。

人工噴火陰謀説(101~102ページ、286~306ページ)

地震だけでなく火山の活動もユダヤの陰謀という話。
本書からは外れるが、最近では台風もその仲間入りを果たしそうな勢いで、天変地異何でもござれのユダヤ陰謀論の気配。

とりあえず本書では、人工地震のほかに人工噴火も主張していて、核爆弾で地震波だけでなく噴火も起こせるのだという。

証拠として挙げられているのが鹿児島のソラマメから放射性物質がついていたという話[14]と、富士山の周囲の地震である。

鹿児島から放射性物質がついていたから、新燃岳で核兵器による人工噴火が行われていたという。

しかし鹿児島で核兵器が使われていたら、ソラマメだけではなく鹿児島のもっと多くのものから放射性物質が検出されていておかしくないはずだが、そういう報告が一切ないことと、ソラマメに付着していたセシウムとヨウ素はそれぞれ非常に微量で、核兵器を使用した結果の付着ならばもっと多量についててよさそうなものだという点がこの主張の弱いところである。

富士山については富士山を囲む形で地震が起きたことや「定点反復人工地震」が根拠とされている。
定点反復地震については「精度の高いデータで見てみる「定点反復人工地震」」で検証したとおり、速報段階の精度の低いデータを羅列しているから同緯度・同経度になっているだけで、実際にはそんなことはない、ということ。

富士山を囲む地震については、ブログ上で「正方形になっているのが人工地震の明確な証拠」[15]としていたが、本書ではこれについてはトーンダウンしている。

勿論、地震計の配置が正方形になっているから、震源の正方形が富士山を囲んでいるように見えるだけのことだ。だが、富士山が四方から攻撃されているのは間違いないのだ。
(291ページ)

過去の当ブログの記事「素人として、またいくらか書く気になったので」において「四角形になるのは当たり前」とは書いたが、それは「地震計の配置が正方形になっているから」ではない(地震計の配置なんて知らない)。
北緯35.3度、東経138.7度を基準に、緯度が0.1度高い座標と、経度が0.1度高い座標、緯度と経度が0.1度ずつ高い座標の4つ点があればそれが四角く見えるのは当然と書いたのだ。

ここの記事を読んだのか、他の誰かから言われたのか知らないが、軌道修正したもの、ズレていることには変わりがない。

放射性物質パニック扇動説(49~58ページ,108~112ページ,163~171ページ、245~246ページ、266ページ)
放射性物質が原発から漏出しているという報道は、国民の不安を煽り、パニックを引き起こし、日本に強権政府を樹立させるための陰謀である、という説である。

「震災後のパニックを拡大して暴徒化させ→混乱に乗じて311テロリスト・CIAにとっての邪魔者の抹殺→暴動鎮圧名目の統制国家化→中国との対立→極東戦争」(50ページ)というのがその企みらしいのだが、何とも飛躍が派手で、「いけない!ルナ先生」のようだ。

当然ながら「震災後のパニックを拡大して暴徒化」の状態にすらならなかった。

「反原発デモを暴徒化」というパターンもあるらしいが、頭の部分が違うだけで後はほとんど同じというワンパターンな代物。

確かに今回の地震後まもなくの報道では、国の安全基準を周知させないまま「自然の〇倍」といった表現を使ったことや、シーベルトの単位を揃えずに発表し、放射能への不安を煽ってしまっていた側面があったと思う。
また福島から来た人を泊めようとしなかった宿泊施設や、スクリーニング検査を受けるよう強要してしまった自治体(のちに撤回)など、誤った態度を取ってしまった人たちもいた。[16][17]

しかし、そういう報道や人々を煽っている/煽られていると言っている独立党はといえば、「人工地震だ」「核兵器だ」「体内被曝だ」と騒いでいるんだからより始末が悪い。

放射能パニックの陰謀は存在したかどうかは検証不可能な結果に終わったが、リチャードコシミズ氏と独立党が核兵器だ金融ユダヤ人の陰謀だと世間を煽ろうと試みていたのは間違いない事実である。

以上、とりあえず本書の気づいた点について書いてみた。

前回の分と今回の分、合わせてみた感じたところは「トンデモ本というよりは単に誤りの多い本」という感じで面白味は少なかった。
ところどころで楽しませてくれる珍フレーズはあったものの、その量は多いとは言えない。

また、似たような内容のエピソードが本書の幾つもの箇所で分散して書かれており、まとまりが悪く、内容を見直す作業は相当に骨の折れる仕事だった。

作数を重ねるたびに、リチャード氏のオリジナルな主張の割合は増えてゆき、その分詰めが甘く、できのいい話は目に見えて減っている。特に気象庁発表に関する勘違いはひどかった……。

今回の当方のこの仕事を「アラ探し」と言われることがあってもそれは仕方ないが、重箱の隅をつつくような真似をした覚えはない。なにしろほとんどデタラメなのだから。

アマゾンで高評価を下している人物は大分多いようだが(批判の数もそれなりにあることから、過去作に比べて売れていることがよくわかる)、ちゃんと読んだのだろうか?

まっとうな本としての評価は5段階評価で最低★1つ、トンデモ本としての評価もあまりさえないので★2つといったところか。

事実や真実が書かれている本を期待する人にはお勧めできたものではないし、トンデモ本的な面白さを期待している人にもあまりお勧めできない。


《参考文献》

《参考記事》
1. 気象庁 報道発表資料ページ (気象庁ホームページ)
2. 断層破壊「深部→浅い場所→また深部」 東大チーム解析 (5月20日 asahi.com 記事)

3. GEQ(小説) (Wikipedia)
4. 二酸化炭素貯留実験に関する質問主意書 (参議院ホームページ)
5. 第168回国会 災害対策特別委員会 第3号 (参議院会議録情報)

6. 宮城県地震における当社設備への影響について (東京電力ホームページ プレスリリース)

7. Fukushima I Nuclear Power Plant Reactor 3 explosion on March 14, 2011 (YouTube)
8. Japan Timeline: How The Disaster Unfolded (3月15日 Sky NEWS 記事)

9. 緊急地震速報について (気象庁ホームページ)

10. 中国救援隊が帰国 (3月20日 産経ニュース 記事)
11. ロシア救助隊 日本での被災者救援作業を完了 (3月22日 The Voice of Russia 記事)
12. 中国救助隊が被災地到着 (3月14日 産経ニュース 記事)
13. ロシア救助隊 日本の災害現場で作業開始 (3月15日 The Voice of Russia 記事)

14. 日本からのソラマメに放射性物質 台湾当局発表 (3月20日 47NEWS 記事)
15. 富士山を囲む正方形の「震源」。人工地震の明確な証拠です。 (3月18日 richardkoshimizu’s blog 記事)

16. 宿泊施設 「除染していない」と福島からの宿泊客を拒否する (4月6日 NEWSポストセブン 記事)
17. つくば市の放射能スクリーニング検査「転入者の不安和らげるため」 (4月23日 レスポンス 記事)

リチャード小説を読んで:「3.11同時多発人工地震テロ」

4月20日の販売開始からおよそ一か月遅れとなったが、「3.11同時多発人工地震テロ」を入手し、読了した。

感想としては「控えめに言っても珍作」といったところか。

今回の本も前作、前々作に続いて(自称)小説である。
まずは小説としてこの本のツッコミどころを紹介する。

 

◆あいかわらずのスタンス

リチャード氏によれば「敵の次の対応を予想して先回りして警告します。ですから表現の自由度の高い小説の形をとる必要があるのです」ということで、小説なのだそうだ。
本の中に出てくる敵の「未来における計画」や「過去における実現を阻止できた計画」については十分な根拠に基づいておらず、筆者の想像の範囲を出ないのであしからず、という宣言だと自分は理解している。

また、あいかわらず「本書の内容を事実と関係づけて考えるのは読者の自由」という旨の文言が付記されている。
「根拠に乏しいからフィクションという体裁をとっているけど、事実として受け止めてほしい」ともとれるし、「事実じゃなかったと判明しても、信じたあなたの責任」と丸投げしてるようにも取れる。
こういうスタンスで本を出し続けていくことが「ジャーナリスト」にとってプラスに働くとは思えないんだが、今後も続けるのだろうか?

 

◆変わらない伝統の読みにくさ

読みにくさ、については前の2作とあまり変わっていない。
本文をぶった切って差し込まれる長ったらしい「資料」のおかげで物語(ないけど)の流れが寸断されてしまうという悪癖は健在だ。
資料と本文でフォントをかえるようにしたため、これまでのような混同がなくなったのはよかったが、引用したコメントについてはフォントを変えているときと変えていないときがあったため、途中で引用のフォントと本文のフォントがどっちがどうだかわからなくなってしまった。

 

◆がんばった、でもダメだった

小説っぽく書こうとがんばった!しかし頓挫した。
そんなリチャード氏の「作家」としての失速振りをうかがい知る事が出来るのが本書の特徴の一つである。

本の出だしは地震についての薀蓄を少し語り、地震にまつわる物語のスタートとして悪くなかったと思う。
序盤は災害や亀山モデルのプラズマテレビで震災の様子を眺めるロッケンフェラーの描写が細かくされており、巧拙のほどはともかくとして、世間並みの小説のスタイルを堅持しようという努力がうかがえた。

しかしそれも60ページくらいまで。
「(5)地震兵器」からは地の文とRKが会話をしだしてしまい、このあとはリチャード小説らしい説明セリフのみで構成されているといってもいい物語(?)が始まる。

一度この波をどうにかはねのけようとしたのか、83ページ「(6)トモダチ作戦」はいきなり「そのころ、太平洋上のある米艦船の一室では」なんて出だしで始まるんだが、それまでの過程で「そのころ」が一体いつのことなのか読んでるこっちにはさっぱりわからない状態である。
そしてその一室でローエンシュタインとモルデカイという二人の人物が会話をする様子が描かれていくのだが、やはりここでもコケた

ふたりの会話が始まる84ページでは「ローエンシュタインが寝不足の目を瞬かせながら口を開く」、「モルデカイが口を挟む」といった具合に書かれていたのだが、次のページからはローエンシュタインのセリフの前には「ロ・・」、モルデカイのセリフの前には「モ・・」という形で話者を区別するスタイルに特に断りもいれずに変更している。
小説というよりは台本のようだ。

それ以降は会話のキャッチボールメインで延々と人工地震について説明がラストまで続いていく。

ただ今回は地の文よりもジャーナリストRKの説明セリフが多く、RKと地の文との会話では地の文の出す質問にRKが答えるという上下関係が見られた。
主役の面目躍如である。どうでもいいけど

 

◆馬鹿っぽいセリフ、再び

過去2作についても紹介した馬鹿っぽいセリフ。
今回もところどころで登場人物たちがバカっぽさを醸し出している。

裏社会の面々は相も変わらず「とほほ」「嗚呼、参った」「あはは」「だめだこりゃ」など語尾をとり混ぜながら、三下っぽいせりふで我々を楽しませてくれることに余念がない。

「やっぱりな。俺たちどこまで狡猾なんだ」(126ページ)というセリフには特にしびれてしまった。
こんな小者っぽいセリフを吐くやつが世界を思い通りにしようとしてるというのだから、どうにかできそうな気持も湧いてくる。

しかし、「1台のPCだけで戦争を戦い、立派に勝利することができる。人類初の戦闘方法」(9ページ)の実践者、われらが主人公RKの口から飛び出したロジックも侮れない。

「地震兵器は存在します。核実験が行われると必ず地震波が発生します。つまり地震が起きます。ゆえに地震兵器は存在します。」
(60ページ)

うーん、何が「ゆえに」なんだかさっぱりだ。やはり日本の夜明けは遠いのかもしれない。

 

◆それが自慢なのはわかったから!!

今回の本は前作以上に内容の繰り返しが多かった。

「過去の人工地震・津波の計画」の話や「デモを暴徒化する計画」や「S価学会の60兆円」「定点反復人工地震」などの話がRK、地の文、裏社会のメンバーなど話し手を変える形で繰り返し出てくるのが印象に残る。

それらはリチャード氏が読者に強く訴えたいために繰り返して伝えてきているのかもしれないが、読んでいると「あれ、これってさっきも出てなかった?」と感じてしまう(このあたりは個人差があるだろう)。

そして最も多く繰り返してリチャード氏が我々に訴えかけていたのは「RKブログは1日に4万~5万アクセスを誇る人気ブログである」ということである。これが4,5回出てきた。

「ちまちました人生送るなよ。豪傑が生まれなきゃ、日本は再生しないよ。」なんてタイトルの講演をやってる人なのだが……ある意味正直ではある。

 

◆良くなった点もある

良くなった点。
それは宣伝ページが激減したことである。
前作では78ページ(355ページ~432ページ。過去の記事でページ数を77と書いていたが78の間違い)あったが、今回は367ページ~383ページの17ページ分。

本書の成し遂げたもっとも大きな功績だと思う。

 

◆ラスト

今回の本は説明セリフの応酬が延々と続く形で盛り上がりもアオリもなく、「さて、小説はこのあたりで一旦終わりにしよう」(365ページ)ということで打ち切られる。
なので、特にツッコむところもない。

いや、普通の小説はこんな終わり方しないので、そのことをツッコむべきなのかもしれないが、説明セリフが延々と続いているせいで「物語が途中で打ち切られた」という感想すらわかない。
「あ、おわりか。これで」と思ってしまった。

とりあえず、小説としての「311同時多発人工地震テロ」についてのツッコミどころの紹介はここまでとする。
陰謀論としての主張にツッコみを入れるのはまた次回。

《参考文献》

リチャード小説を読んで その4 「2012年 アセンションはやってこない」

なんというか、すごい本である。

個人的には、前作を凌ぐ代物であると考えている。

この本はもともと、6月に配本する予定であったが、実際に配本が開始されたのは7月末。事情についての具体的な説明を見かけたことがないんだが、どうも今年7月の参議院議員選挙について記事を書いたためだろう。

それではこの本について紹介させていただく。

メインの内容である陰謀論そのものについては書かないのであしからず。ざっくりとどんな種類の陰謀論が書いてあるかは「リチャード小説を読んで その2 内容編」で確認してくださいな。

■アセンションはやってこない、ていうかあまり顔を見せない。

この本ではアセンションを批判的に扱っているわけだが、どうにもいい加減というか、恣意的な理解という感じが否めない。

2012年のアセンションという話は、みんなが本当にばらばらに好き放題言ってるような代物で、何か一つ「これ」ということができない。

むしろこの本で言っているような終末論や滅亡論は少数派ではないだろうか。たしかにテレビや映画では2012年の滅亡説が飛び交っているが、それは「アセンション」とは直接的な関係があるとは言えない。

「アセンション」も「地球滅亡説」も2012年におこるとされているが、それはマヤ暦が2012年12月で終わるということをそれぞれが自分たちに都合よいように解釈した結果であり、同じ話というわけではない。

ニューエイジャーの言う「アセンション」話は「次元上昇」という現象が起きるというはなしであり、3次元がより高次元になるとか、物質主義が終わって精神的な豊かさを求める時代が来るとか、そういう話である。
そのきっかけとなるのが「フォトンベルト」や「大災害」であったりするわけだが、とにかく原因も結果も、諸説分かれていて統一が図られていないのだ。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで新約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言(ハルマゲドン)ともいっしょくたにしていて、さらに一般の(?)認識から離れていく。

そんなめちゃくちゃな理解に基づいた「アセンション」を陰謀と結び付けているので、説得力には非常に欠ける。
リチャード氏よりも古今東西の「アセンション」に詳しい巷のニューエイジャーがこれを読んでもピンとこないのではないだろうか。それも新約聖書まで持ち出してくるので、完全にニューエイジャーにとって「きいたことのある話」ではなくなってしまうと思う。

そして、アセンションが陰謀とどうつながるかというと、これに関する説明がすごくはしょられている。

どうも世界の大都市の上空で純粋水爆が爆発して、その際に起きた電磁波で重要な金融情報などが入ったパソコンが火を噴く。
その際、上空にオーロラが出るので、それがアセンション話で流布されてる光なのだとみんなが思い込む(それでだませるのはせいぜい、世間にそれほど大勢いるわけではないニューエイジャーの中でも特にバカな人だけだと思うが)。

そしてその後、極東で戦争が起こるということである、らしい。

この過程について説明が全くない
純粋水爆の高高度核爆発からどう極東戦争につながるのか全く説明がないのである。
戦争起こすだけならアセンションは必要ないと思うぞ。

本のタイトルになっている「アセンション」の陰謀話はそこそこに、後の大半は最近あった出来事(2009年10月に右翼団体とおこしたいさかいと、2010参院選挙が中心)とこれまでの陰謀論のおさらいで埋め尽くされている。

■謎の会話

この本は前作同様、小説である。

このことはうっかりしていると忘れそうなのでことさらに強調しなくてはいけない。そういう本でもある。

小説というと主人公やほかの登場人物たちの活躍などを描いていくものだと思うのだが、特に何もしない

基本は地の文と陰謀について会話することであり、読んでいても動的なイメージというものは湧いてこない。

主人公(らしい)陰謀の首謀者ロッケンフェルター老も、それを暴く立場のジャーナリストKも、あと素性は知らないが一般市民代表も、みんな地の文との会話してばっかりなのである。
読んでいてちょっとアニメ版のエヴァンゲリオンの最終2話を思い浮かべてしまった。

一度に複数の登場人物が登場することもほとんどなく、説明的なやり取りで陰謀について語っていく。
また、誰も登場せずに地の文で延々と説明が続くこともしばしばある。

ちなみに、この本の中でロッケンフェルター老は陰謀を地の文に暴かれて慌てふためく役に徹している。
彼が読者に自慢げに説明しようとする陰謀を地の文がどんどん先回りしてばらしてしまうのである。

黒柳徹子と「徹子の部屋」に呼ばれたゲストの若手芸人みたいなもんである。
その中のロッケンフェルターのうろたえ発言はなかなかバリエーションに富んでいて面白いので紹介しておこう。

「なんだ・・・・・バレてるのか。」(109p)

「う~そこまでわかっているとは。だが、アフガンを占領した目的はさすがに、おまえにも・・・・」(110p)

「く、くそ。何もかもわかって・・・・だがな。その前にイラクを攻撃した目的は、お前も読み切れなかっただろう。フセインが大量破壊兵器を・・・・・」(110p)

「ふっふっふ。イラク侵略の最大の目的が(ドル防衛)だったと読み切ったのは、さすがだ。だが同時に達成したほかの目的はさすがに・・・・」(111p)

「ば、馬鹿もん!ワシが911で目論んだことは、その程度ではない。わしは一兎や二兎をおったのでない・・・・」(112p)

「そ、それだけではない。ワシの究極の目的は・・・・」(112p)

「その通りだ。後にレーニンも、明石大佐には感謝すると言明している。ロシア革命の立役者は日本人だったのだ。」(114p)

「なんだ、この日本人には、なにもかもわかっているのか。」(115p)

浮いたり沈んだり、実に忙しいリアクションの数々である。

ところで、「お前も」や「この日本人には」などという表現が発現中に飛び出してくるが、この地の文はいったい何者なのだろう?

この地の文。陰謀をすべて知っているすごいやつなんだが、第三章にジャーナリストKと地の文が会話している箇所があるので、Kとは別人のようである。

ともあれ、とにかくすごいひとり相撲である。

■衝撃のラスト

そうこうして300pに渡る陰謀論を読んだ後(過去のリチャード氏の発言のおさらいばかりなのでしんどい。しかも田池太作が個人資産をユダヤ人に献上しただなんだって話が3回くらい出てきたぞ)、小説は一気に佳境に入る。

2010年の参議院議員選挙で、Kとその信者ネット上の優れた人士が国民新党新国民党や敏いとうTいとうを応援したというのに、議席一個も取れなかったのはユダヤが画策した不正選挙だ、という展開で盛り上がり、
そして

アセンションは、彼らの目論見通り捏造されるのか、それとも、われわれ日本人の手で阻止されるのか?

Kをはじめとする日本人覚醒者の戦いは、成功を収めるのか?(336p)

なんとアオリである。週刊少年マンガか、これは?

そして次のページには更なる衝撃の展開が待ち受けていた。

オウム事件、911自作自演テロ…追い詰められたウォール街の暗黒勢力の最後の謀略は、2012年末に敢行されんとしていた。だが、アセンションの名を借りた金融テロ、それに続く地球規模の純粋水爆テロを阻止したのは、極東の島国の名もなき市井の人々だったのだ。
<中略>
ウォール街の金融詐欺師たちは全てを失い、訴追され、丸裸になって消えていった。無数の名もなき日本人たちが、世界に真の平和と幸福をもたらしたのである。
あれほど苦しい戦いだったのに。あれほど苦心惨憺してやっと勝利を得たのに。まるで何事もなかったかのように、淡々と国家の再興に励む日本人たち。彼らこそが、2012年偽アセンションの後の世界をリードする牽引役となるのである。21世紀、人類は新たな道を歩き始めるのである!
(337p)

読んでいて、おもわず「うおぉーーーーい!!」と声に出して突っ込んでしまった。
結局、陰謀がどう図られたのか、それをどう阻止して見せたのか、小説として一番盛り上がる部分が要約で済まされるとはどういうことだ!!

本当に、この後にも前にも一切、アセンションの陰謀とその阻止の方法について具体的な方法が書かれていないのである。
(建前とはいえ)フィクション小説なんだから、そのあたり描くべきではないのか。

もちろんリチャード氏は、インターネット上で陰謀を先回りしてばらせば全部阻止できると考えている(そのことを「ネット力」と呼んでいる)ようなので、説明不要と考えた可能性はある。
それにしたって「真実」がどんなふうにみんなに伝わって行って社会的にどういうことが起きるのか、それくらいは書いてほしいもんである。

しかも、しかもである。

実はこの文章、本の内容紹介として同一の文章がいろんなところで使われているのである。

配本前の段階で、リチャード氏のブログや販売告知専用のページなど、本を入手する前に何度も見た文章である。
また、本の裏表紙にも同じ文章が記載されている。

本の紹介として上記のような文が書かれていたなら、普通その要約されている部分を具体的に知りたいと思って買うものだろうに。使いまわしを読ませるとはどういうことか。

このあとには謎の人物が二人(あるいはそれ以上?)でてきて、これまでのおさらいとばかりに陰謀や右翼系団体の悪口、常温核融合技術について口々に語り、最後にこう締める。

「日本万歳だ。日本人の底力バンザイだよ!」

……なんじゃそりゃあ。

■だがしかし、まだこんなにページが余っている!

こうして、物語(?)は一応の結末となる。ここが354ページ。

だが手にした本にはかなりのページが余っている。

この後の多量のページはなんと宣伝である。

355pから432pまでじつに7778ページ!!
本書の6分の1以上が宣伝というこの巻末付録にはびっくりである。

過去の著作や講演会のDVDを単にカタログ状に紹介すれば、こんなにページを食うことはないのだろうが、本の内容や講演会の開催場所などの具体的な情報、そして党員や心情党員たちから寄せられた賞賛のメッセージなどを多数記載しているため、通常ではありえない分量になってしまっているのである。

出版後の講演会の映像で「なぜか本が厚くなってしまった」などと話していたが、はっきりってこの宣伝ページのせいである。

この部分を7ページ程度に抑えられれば、362p。
前作の「小説911」よりも少ないくらいなのだ。

「2012年 アセンションはやってこない」、この本は間違いなく「小説911」を超える奇書となったとかんがえている。

本の内テーマが前作に比べて著者オリジナル寄りになったこと、小説としての基本的なスタイルから逸脱した書き方になったことがその大きな要因であると思う。

自作の予定について現時点では声明が出ていないが、次はいかなる本になることだろう。
ウォッチャーとして期待させていただこうと思う。

おまけ–

リチャード氏の著作2点についての記事はこれにて終了。次回からは元通りの記事になると思います。

結局合計何文字書いたんだろう……。

《参考文献》

2012年アセンションはやって来ない書籍紹介ページ

【修正2010.11.4】

一部事実誤認に基づいて書いていた部分を訂正しました。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで旧約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言ともいっしょくたにしていて、さらに混迷を極める。
ユダヤ陰謀論を唱えるリチャード氏にとって、ユダヤ教の経典である旧約聖書と絡めた方が、ユダヤの陰謀として説得力が増すだろうという考えなのだろう。

「ヨハネ黙示録」は新約聖書に書かれていたものですね。すいません。
以下のように直しました。

しかも、リチャード氏は滅亡説ということで新約聖書のヨハネ黙示録にある終末的預言(ハルマゲドン)ともいっしょくたにしていて、さらに一般の(?)認識から離れていく。

【修正2011.5.23】

宣伝に費やされていたページの数を「77」から「78」へ修正しました。

リチャード小説を読んで その3 「小説911」

今回の記事ではリチャード・コシミズ著「小説911」について書かせていただく。

タイトルの通り、この本の主題は911陰謀論。
あまたある911陰謀論の中でも特にレアな「純粋水爆説」を主張するものである。

また著者は所謂「ユダヤ陰謀論者」であり、同書内では多くのユダヤ陰謀論が語られている。

ただし、911陰謀論以外でのユダヤ陰謀論については独自性は少なく、過去に語られていたものがほとんどで、そのあたりの話を広く収集しているマニアの方にとって斬新に感じるものは非常に少ないと思われる。

911陰謀論に関しても、「WTC7がまだ崩壊していないのにレポーターが報じた」話や「飛行機では電波が届かないはずの携帯電話から家族に電話した」、「テロ実行犯とされた人物の生存が報道された」「4000人のユダヤ人が事件当日WTCへ出勤しなかった」など、他の陰謀論者と同じ内容の主張なので純粋水爆に触れる部分以外はどこかで聞いた話がほとんどである。

この本と「2012年アセンションはやってこない」の読みにくさや、共通する内容については別途記事にしてあるのでそちらに任せるとして、特にこの本について書いていこうと思う。ほとんど共通する部分にとられてあまり書くことないんですけど……。

■どちらかといえば読みやすい

この本、どちらかというと読みやすいのである。「2012年 アセンションはやってこない」と比べると、である。
たしかに、引用文が文中にガンガン詰められていて流れを寸断するし、ブログの書式をそのまま本にしてるので段落の頭が1文字空いてなかったりして、そのあたりは読みにくい。

しかし、各章ごとにテーマがある程度しっかり分けられているので、その点でかなり読みやすい。すなわち「2012年 アセンションはやってこない」はその点で整理がされておらず、読みづらいということでもある。

章は以下のようになっている

  • 第一章 2001年9月11日
  • 第二章 老人たちの正体
  • 第三章 911の目的
  • 第四章 老人と黄色人種
  • 第五章 邪魔者
  • 第六章 落日

これだけ見ても大体の感じで内容は察しが付くと思う。

「2012年 アセンションはやってこない」は四章だてで、各章ごとにタイトルもついてテーマが分けられているようなのだが、似たような話が何度も出てくる感じがあり、あまり整理されているようには感じられなかった。

■各章の(ところどころ大まかな)内容

第一章は911当日のことである。

2001年9月11日にどのようなことがあり、どのようなやり取りがあったか、架空の人物たちの想像を基にした会話を通して読者へ伝えている。もちろんこの本はフィクションを標榜しているので、すべて事実とはつながりがないという建前となっており、おそらく本当につながりがない。

なんとも「いい味」出しているのは、陰謀を企んだロッケンフェルター老たちの会話である。

前回の記事で紹介した頭の悪い笑い声もそうなのだが、しゃべっている内容もなかなか愉快である。

「エイブラハム、WTC崩壊のメカニズムを手短に説明してくれ。ここに居る者で知らないものもいるだろうから。」
(『小説911』36p)

実に親切。この後説明セリフが続くわけだが、そこに話をもっていくための実にさりげない誘導である。

また彼らの会話から、実は陰謀論者によって指摘されるさまざまな”疑惑”が生まれる可能性をいちいち指摘しておきながら、何も手を打たずに実行していたうっかり屋さんな一面もゴロゴロと垣間見える。

「うまくいったぜ。この映像一体、いくらで売れるかわかりゃしないぜ。」
「あとは、俺たちの本当の国籍がばれないように気をつけないとな。」
(『小説911』15p)

「航空機を乗っ取って、航路から反転させてWTCに突っ込ませることになっているアラブ・テロリスト・チームのリストを捏造したのですが、罪をなすりつけるパイロットや補助役の数が足りませんので、適当に現役の民間航空会社のパイロットなどをリストに入れてみたのですが。」
「ばか者。それでは、後になって、生きている、といったのが名乗りを挙げたらどうするんだ?」
(『小説911』23‐24p)

「よしわかった。しかし、携帯電話が機上から通じないことを騒がれるとまずいな。」
(『小説911』29p)

「今回、WTC7には航空機を突入させられませんでした。作戦上の不都合が生じまして。ですので、あそこも倒壊するとなると、航空機が突入していないのに、なぜ倒壊したのかと、あとで物議をかもすのではないかと。」
「う、うるさい!あそこはどうしても倒壊させなきゃならん。<後略>」
(『小説911』42p)

「ローレン・レモか。あのオンナは、若いときはなかなかのいい女だったなぁ。あの女のいたローレンス・リバモア研究所は、レーザー核融合の世界的中心じゃないか。純粋水爆に一番近いところにある研究所だ。怪しまれないか・・・」
老人の危惧は毎度のことながら的中する。レモ女史の役割は、東京のKにより、数年後、真正面から指摘されることになる。
(『小説911』56‐57p)

「その人選は、大丈夫か?あの男は、確か核兵器の、しかも、核融合兵器の専門家だろうが。なぜ、専門分野の純粋水爆使用の可能性に触れないのかと、疑われないか?」
(『小説911』59p)

これらの心配がすべて的中してみんなバレてしまった!というのがこのお話。計画としてはずさんだし、世界を裏で支配するにはあまりにまぬけすぎる。

それと下二つの「核技術の専門家が純粋水爆の可能性を示唆しないのは不自然」という話は、リチャード氏特有の視点からはそう見える、という話。
核の専門家だからこそ、“純粋水爆”なんてSF兵器が使われた可能性も実在する可能性も0であることがわかっていて、だからこそそんな可能性を示唆することはないだろうに、なんでこの人はこうひねくれた解釈をするのか。
「純粋水爆の存在は陰謀組織が秘匿している」という設定なのに、その手先の科学者が純粋水爆の使用をほのめかした主張をしたらそっちの方が色々と矛盾すると思うぞ。

第二章は過去どのような陰謀があったか、というお話。新しい話はないといっていい状態で、とくに話題がない。ここではほとんど説明文と引用文で構成されており、内容としては退屈だろう。

第三章はタイトルの通り911陰謀の目的の解説。

石油利権などもさまざまな目的があったという。石油については、現実にアフガニスタン紛争をすることで儲けることができたアメリカ人がいたわけで、話の内容全てがトンデモというわけではないだろう。
とはいえ、アフガニスタンでユダヤ人が麻薬を栽培する事業をやるとか、大イスラエル帝国建国だとかはとんだ話というしかないだろう。

その後話は911から反れて(あれ?)、北朝鮮のミサイルとミサイル防衛、中国の民主運動が陰謀であるという話へ、そしてここで東京のジャーナリストKが登場。颯爽と陰謀を暴き出す書き込み(2chと阿修羅)をしてHPに英文記事をアップロード。

そのため陰謀組織のエージェントやら宣伝大臣(秘密組織じゃないのかよ!)からメール。莫大な金で懐柔しようとしたり、賞金かけたとか脅してみたりするものの、次々とメールを公開されてむしろ大ピンチに。
それまで結構、著名な人間の暗殺とか堂々とやってきたのになんという手ぬるさ。

第四章は、陰謀組織がいかに日本を支配しているのか、という話。
ここでは「間接支配」という表現が使われ、日本人を装った「隠れ在日」がユダヤ人の手先として支配しているという話を展開。

ここで指名されている「隠れ在日」は「鯉墨腎一郎」、「嶽仲弊三」、「田池太作」の三人。誰をモデルにしているかはすぐにお分かりいただけると思う。

まあ、ぶっちゃけ小泉純一郎・竹中平蔵によって行われた政策と、創価学会会長が気に入らない、ということである。
「隠れ在日」説には特に根拠もないようで、お得意の引用も姿を見せない。

第五章は、ユダヤ陰謀組織の手先たちがいかに彼らにリクルートされ、ジャーナリストKの身を狙ったか、というお話。

こういうと、なんだかちょっとスペクタクルだが、この章は完全に独立党元幹部に対する個人攻撃である。

2008年に脱会した5人の幹部は、それぞれ金や仕事や女、薬物欲しさに志をまげて、リチャード・コシミズを裏切って出て行ったという話が、やたらと詳しく書かれている。

5人の幹部たちのプロフィールについての具体的な情報をベースに、陰謀組織に取り込まれる過程については全力で妄想したであろうことがうかがえる。

わし個人としては、この5人を単純にかわいそうと思っているわけではない(参照「敵か味方か、無能な愚民か」)が、文章が長大で悪意に満ちているため、引用文で紹介する気にはなれない。あしからず。

こういう人が右翼団体の人々の言行を「下品でとても日本人とは思えない」など言っているのだから、手におえない。

第六章は、サブプライムローン崩壊と常温核融合によって陰謀組織は凋落が訪れるだろうという締め。

サブプライムローンの崩壊とその余波による不景気を思うと、「サブプライム大明神」などといってはしゃいでいるこの人の神経は理解できない。
そしてオバマ政権はユダヤ最後の傀儡政権で、夜明けは近いのだという。

このひと、かつての米大統領候補者選びの民主党代表選挙ではヒラリーがユダヤの手先なので勝つって言ってたんですけどね。

そして最後には常温核融合。
リチャード氏が実現すると強く信じて疑わない荒田技術について紹介。

一部の「ユダヤの手先」のブログから否定的な記事をかかれているものの、自分のブログはPVが多くたくさんの人が歓迎的なコメントを残している、みんなはこっちを注目していて否定的な意見の連中なんて相手ではないとアピール。
実際のところ、世間的には(インターネット上に限定しても)リチャード・コシミズも常温核融合技術もほとんど知られておらず、このギャップが実に哀しい。

■そしておわる

そして物語(?)は唐突に終わる。

「世界を根底から変える」、その壮大な試みに真正面から取り組む決意を胸中に秘め、Kは今日も、池袋の居酒屋、T屋で、中国出身の美女、チョウさん、カクちゃんを相手に親父ギャグを口走りながら、大好きなホッピーを飲むのであった。

なんだか「リチャード先生の次回作にご期待ください!」という感じの終わり方。
結局このKがやったのは、911陰謀論をネットの掲示板に書き込んで、自立党(作中での「独立党」の変名)を作って、幹部を疑って罠にかけて追い出し、A教授の研究のために金を集めた、という感じ。
巨大な陰謀組織に自身が近づくのは、向こう側からメールをもらった時くらいである。

小説として完結することなく終わってしまい、実に消化不良である。

さいごに―ネットジャーナリズムって……

この本、構成としては世界的な陰謀からスタートして、日本国内の陰謀、そしてKの身近に起きた陰謀、というかたちで、ワールドワイドな話からだんだんとそのサイズを小さくしていく。

そのためか、後になっていくにつれて、説得力を付加するための引用元の「もっともらしさ」もだんだんと収縮していくように感じられる。

911陰謀論や古くからあるユダヤ陰謀論について語っているうちは、まっとうなニュースサイトの記事や海外のサイト(といってもrense.comという反ユダヤ主義サイトだったりするんだけど)からの引用がいくつも見られるが、だんだんと国内のサイト中心へ、最終的には自分のブログに寄せられてきたコメント郡中心になっていく。
コメント郡に関してはもはや単なる信者からの賞賛で、説得力を付加する性質のものではない。ただの自己陶酔の世界だ。

世界について語ってるうちは、引用元がニュースサイトだったり出来のいいインチキ話だったりして、もっともらしさも「それなりに」漂っている。
しかし、リチャード氏近辺での陰謀となると、リチャード氏自身の個人的かつ主観的な体験をもとにオリジナルで考えたものが中心となってしまい、出来がいい話とは言えず、説得力もない(「陰謀組織の手先が、嫌がらせのために庭にゴミをまいてくる」なんて話がいい例だろう)。

彼の提唱するネットジャーナリズムは、インターネット上に公開されてない情報を扱う領域においては陸に打ち上げられた魚のようなもので、個人的な体験に対する分析については自身の持つ想像力や判断能力が完全に露呈してしまう。

リチャード氏自身がオリジナルで考えた部分の出来の悪さを考えると、やはり小説ではない方がよかったのではないかと思うのである。

「2012年 アセンションはやってこない」のにおけるリチャード氏自身のオリジナルな陰謀論については、これ以上の酷い出来であることを予告して、今回の記事の締めとさせていただく。

リチャード小説を読んで その2 内容編

今回の記事ではリチャード・コシミズ著「小説911」「2012年アセンションはやってこない」(以下「2012~」と略)に見られる共通点を紹介していく。

■共通する陰謀論

これについて語る必要があるのか少々疑問に思われるかもしれないが、両方の小説ともその内容の多くを過去の陰謀の説明にあてているためざっと箇条書きにしていく。

  • 911陰謀論純粋水爆説(「小説911」においてはこの話がメイン)
  • 共産主義を作ったのはユダヤ人説
  • 真珠湾攻撃陰謀論
  • ヒトラー=ユダヤ人説
  • アポロ月着陸ねつ造論
  • 郵政民営化=郵政ユダヤ化説
  • 地下鉄サリン事件陰謀論
  • 労働者派遣法陰謀論
  • 時価会計制度陰謀論

これらの説明文が両方とも非常に長く、新奇な情報に関してはあまり書かれていない。
「小説911」では911陰謀論にかなりの量が割かれているとはいえ、そのほとんどは他の陰謀論者も唱えているものがほとんどであり2012年~」においてはもっと情報は少ない。具体的な点については各書を個別に論じる回に書くことにする。

とにかく本の大半はリチャード氏がこれまで主張してきたことの説明を書いた分が大半である。

小説であれば主人公がいつ、どこで、なにをしたかが時系列に書かれそうなものだが、そういった描写はほとんどなく(「2012~」においては皆無といってよい)、とにかく説明文が延々と続く。

■セリフが変

いちおう小説ではあるので、どちらの本も登場人物が出てきてしゃべったりする。というか登場人物は基本しゃべるだけである。

これもまた非常に説明的である。しかもバカっぽい。

「万に一つもないとは思うが、純粋水爆を使ったことが発覚しないように、陽動作戦を考えておけ。」と老人が側近に命令する。
「ロッケンフェルター様、抜かりはございません。もとより、放射能が発生いたしませんので、ガイガーカウンターは爆発直後を除いては、作動しないはずです。放射能が検出されない限り、既存の常識では〔核爆発〕とは思われませんので。」
(『小説911』55~56p)

以下、この問答が続いて劣化ウランをカバーストーリーとして広めるために、ローレン・モレ(作中では「ローレン・レモ」)にウソを言わせるとか、そんな話が続く。

「おい、ピーター、この鉄骨、なんだか溶けてね~か?曲がり方も、ヘンだぜ。」
「その類の鉄骨、見たことがあるぜ。海兵隊時代、ヒロシマに、岩国の飲み屋のアケミと遊びに行ってさ。原爆ドームとか言うところで見たのにそっくりだぜ。」
「へ~、そのアケミっての、どうだった?」
「ケツのでかい女でさ。いい味してたぜ、ガハハハ。」
(『小説911』49~50p)

後半のアケミ情報は完全に無用な代物。最後の「ガハハハ」が何とも言えない味を出している。
このように、リチャード氏の小説ではセリフの最後に頭に悪い笑い声が時々入る。
以下のやり取りは今年のトンデモ本大賞で紹介され、会場を爆笑の渦に陥れた名セリフである。

「うむ。あのビルは、老朽化していて立て替えたかったんだが、アスベストスをたくさん使っているんで、費用が嵩む。今回、制御倒壊で安く取り壊しできたし、保険金も日本の馬鹿どもから詐取できる。なかなかいい出来だぞ、この謀略は。」
「あくまでアラブ・テロだったと言い張るためにも、突入した航空機の会社にも、損害賠償を請求しますので。まあジェスチャーにすぎませんが。」
「ラリー、お前も根っからの金融ユダヤ人だな。あはは。」
「お褒めの言葉有難うございます。日本の損保の役員にも、10億円単位の鼻薬は嗅がせてありますからね。」
「この悪党が!わっはっは。」

(『小説911』39p)

まるで時代劇の悪役である。「なかなかいい出来だぞ、この謀略は。」などなかなか言えるものではない。
以下に示すのは金正日(作中で変名になっていませんでした……)のセリフ。

「おいおい、第二次オヲム事件の首謀者は私ではない。NYのユダヤ老人がシナリオを描き、私に実行しろと迫っているんだ。私は、条件がきっちり揃わなければ、実行するつもりはない。周囲は早くやれと煩いが、私は自分の身が一番大事なので、王朝を危険にさらしてまで軍事行動を強行する勇気はない。わたしは外見のとおり臆病ものなんだよ、あはは。」
(『2012~』282p)

バカっぽさと、著者の金正日に対する憎しみがにじみ出ているセリフである。
「2012~」では笑い声でセリフを締めくくるパターンはこれっきりだが、「ふっふっふ」でセリフをしゃべりだすパターンが登場しており、読者の期待を裏切らない。

■猛烈な敵意

リチャード・コシミズ氏のブログをなどを読んだことがある人であれば同意いただけるかと思うが、リチャード氏は自分と対立する意見、立場の人間には非常に強く敵意を見せる。
気に入らない政治家や運動家などは大体「隠れ在日朝鮮人」の「ユダヤ人の手先」になってしまう(以前の記事に書いたように、小沢さんもかつては手先扱いでした)。
2009年10月に右翼系団体である「主権回復を目指す会」や「そよ風」のメンバーとトラブルになった原因は、リチャード氏がブログ上で「そよ風」のメンバーの女性たちをひどく揶揄(あるいは中傷)するような記事を書き、コラージュをアップロードしたためである。

出版された本に関してもこのスタイルは維持されており、ターゲットとなった政治家、宗教団体の代表などは徹底的にこき下ろされている。

鯉墨の背後のユダヤ老人は、「郵政民営化」を以って、日本国民の資産である郵貯の資金を根こそぎ略奪しようと企んだ。鯉墨は、忠実に「犬」としての役割を果たした。いや「犬」どころか「犬ころ」と形容できるほどの業績である。
(『小説911』183p)

組織内でもっとも粗暴で、武闘派と目されている男は、動くたびに墓穴を掘り、組織の作戦の足を引っ張るのだった。だが、この男の失態こそが、最大の社会貢献をしたのである。「莫迦と鋏は使いよう」という言葉がある。
まさに、この男のためにある格言である。
(『小説911』235p)

卑しいカルトの金に目がくらんだ学者。この類の輩には、かならず最悪の未来が待っている。
(『小説911』325~326p)

過去には選挙に負けても「勝った勝った」と騒ぎ立てたゾンビ集団だが、精強新聞サイトをいくら読んでも「衆院選」に関する記事がない。<中略>ソンテジャクの血圧は極限まで上がり、下半身を覆うパンバースからは小水がじゃじゃ漏れし、聖教新聞の編集者を含めた幹部は、ソンテチャク大王の前にひれ伏してひたすら叱責を受けていたのであろう。ソンテジャク独裁者が済州なまりの漂う言葉で、理不尽に幹部を罵倒している様が目に浮かぶようである。
(『2012~』169p 変名の使われ方が一貫してないのは原文ママ)

いったん、馬鹿右翼にリクルートしたのはよかったが、組織に入ってみたらあまりに下品で粗暴で卑劣で、とても日本的でない、ただのチンピラ集団と分かった人たちが、逆に、覚醒者としてユダヤの邪魔をする側に回ってしまったのだ。
今では、組織に残っているのは、もともとの統率教会会員か、左翼過激派からの偽装転向者、暴力行為に性的満足を求めるホ●同性愛者集団、北朝鮮関係者のみとなってしまった。
(『2012~』291p)

徹底した罵倒であることはお分かりいただけると思う。

特に「小説911」においては、2008年に脱会した元幹部らを執拗に個人攻撃している。
在籍している間は幹部という立場もあって、リチャード氏と個人的な話をする機会も多かったであろう。
リチャード氏がそういったプライベートな話を足掛かりに、妄想の翼を広げていったであろうことは容易に想像できる。

元幹部らは金銭欲、情欲、薬物などによって独立党やリチャード・コシミズを裏切ったとされ、各元メンバーの仕事や経歴をこき下ろしている。
どのような文章が書かれていたかについては割愛させていただくが、相当手ひどく書いている、ということだけは言っておこう。

これら内容がわずかな事実を基にした、巨大で完全な妄想であることは、元幹部の一人がブログに書いているので、具体的な内容とその反論についてはそちらを読むことをお勧めする。

■共通する感想

「小説911」「2012~」のいずれを読んでいて思うのは、結局リチャード氏はこの本をどういうものと位置づけたいのかという疑問である。

普段「事実を述べているから相手は自分を訴えるようなことはできない」と強気な発言をしているので、これらの本についても自分の書いている内容が事実であるという自負があるなら、実名で書けばいいように思う。
だが、手違いであろう箇所を含めなければ、基本的に変名で書いている。

本の内容を読者に事実だと信じてほしいという願望はありありとわかる一方で、フィクションを標榜することで名誉棄損で訴えられることがないように前もって逃げ道を作っている腰が引けた様子も明白である。
実際に訴える人間などいやしないだろうが、リチャード氏自身にしてみれば、自分は世界的な組織に狙われるほどの人間で注目もされていると考えているだろうから無理もないのかもしれない。
度胸云々の問題は抜きにしても、読みにくいからやはり実名で書いてほしかった。

そして何より抱く感想は、

「これ小説じゃない!」

ってことである。

 

おまけ――

1950年代のアメリカに存在していた(ものによっては現存している)疑似科学とその提唱者を紹介した名著、「奇妙な論理」において、筆者のマーティン・ガードナーは「擬似科学者の偏執狂的傾向」の一つとして次のようなものを挙げている。

(2)彼は自分の仲間たちを、例外なしに無学な愚か者とみなす。彼以外の人はすべてピント外れである。自分の敵をまぬけ、不正直、あるいはほかのいやしい動機をもっていると非難し、侮辱する。もしも敵が彼を無視するなら、それは彼の議論に反論できないからだと思う。もしも敵が同じように悪口で仕返しするなら、自分がならず者たちと戦っているのだという妄想を強める。
(『奇妙な論理Ⅰ だまされやすさの研究』31~32p)

リチャード氏の本における脱会者や敵対者に対する態度はまさにこれに当てはまり、50年以上前のガードナーの指摘がいかに正鵠を射ていたのかを思い知らされるのである。

《参考文献》
リチャード・コシミズ 2009 「小説911」 自費出版
リチャード・コシミズ 2010 「2012年 アセンションはやってこない」 自費出版
マーティン・ガードナー 2003 「奇妙な論理Ⅰ だまされやすさの研究」 早川書房

情報統合思念体 ブログ(脱会した元幹部らにより運営されているブログ。カテゴリ「妄想撲滅」の記事がリチャード・コシミズ氏による誹謗中傷を告発する内容になっている)